マーケターのキャリア形成を支援、皆が危機感を持ち始めた
山本直人氏
コンサルタント・青山学院大学経営学部マーケティング学科講師。慶応義塾大学卒業後、博報堂でクリエイティブ、研究開発、ブランドコンサルティング、人材開発を経て2004年に独立。キャリア開発とマーケティングの両面から企業を対象にした活動を行う。著書は『マーケティング演習ノート』 『50歳の衝撃 はたらく僕らの生き方が問われるとき』など多数。
山本:私はフリーランスになって14年経ちますが、それまでは博報堂に18年在籍していました。入社した当初はクリエイティブ部門でコピーライターを務め、30歳からは研究開発に転じて消費者調査やブランディングを経験、ブランドコンサルティングの組織を国内で初めて立ち上げた際のメンバーにもなりました。
その後は人事部門で人材開発やキャリア開発に携わりました。もとは専門スキルの開発が主でしたが、途中から新入社員の研修にも関わり、そこで得たノウハウを活かして何かできるのではないかと思い40歳からフリーランスに転身しました。杉原さんとの出会いは、とある方の紹介で新入社員教育を私に任せていただいたことがきっかけでした。
杉原:もともとキャリア形成やスキル開発に興味があったのでしょうか?
山本:研究開発で様々な研究をしても、それを使う人が理解していないと結局はどうしようもないと気づいてからです。
杉原:博報堂さんのような大手企業だと、研修制度も整っている印象があるのですが。
山本:博報堂は他企業と比べてもしっかりと研修制度が整っていました。しかし新人研修などで基礎は叩き込まれますが、その後勉強するかしないかで個人の差が大きく分かれていました。もちろん新人研修以外の研修制度も充実してはいますが強制的なものばかりでもないので、そこで危機感を持って学ぶ人と学ばない人の差が出ます。
危機感を維持するには社員を取り巻く環境が重要で、小さな企業でも皆が学んでいれば危機感は維持できます。むしろ大企業のほうが部門や部署で環境がまちまちなので、差がつきやすいのではないでしょうか。
杉原:キャリア開発やスキル形成において、昨今ニーズの変化は感じられますか?
山本:事業会社から内部の人材育成を依頼されるケースが増えました。これまでエージェンシーに発注する側だった人たちが「自分たちでも根っこの部分について考える必要がある」と危機感を持ち始めたイメージです。
杉原:ここ3~4年で、ライト/ヘヴィーに関わらず広告主がインハウス化を進める流れがあると感じています。こうしたトレンドも加味しているのでしょうか?
山本:もともと潜在的にあった危機感が、どんどん顕在化しているのだと思います。これまで日本の大企業は、職種別採用をしてきませんでした。要はマーケティングのプロを育成せずにエージェンシーに相当のアウトソーシングをしてきた。
この方法がそろそろ限界を迎えていると気づき、事業会社も危機感を持ち始めたのだと思います。限界だと気づいた理由は2つ。1つ目は様々な外資系企業のやり方を目の当たりにしたこと。2つ目はデジタル化が進んだ結果、既存のエージェンシーでは対応しきれない部分が出てきたことです。
杉原:ソーシャルの登場により企業と消費者が直接コミュニケーションをしなければいけない状況になったことも大きいのではないでしょうか。また、データドリブンの重要性が認識されてきており、これまでのデータ丸投げ体制をやめてデータをきちんと読み取り、どう使いこなせばいいのかを事業会社自身が考えなければいけない状況になってきていると思います。
山本:技術の変容と人材の変化がクロスし、新しいスキル形成・キャリア開発の在り方が求められる状況が生まれているのでしょう。日本の人材育成システムが限界に達しているところに新しい技術が入ってきて、今までのように総合職・技術職を採用することが意味を成さなくなってきている。そのあたりの人事構想を依頼されるケースも増えています。
杉原:旧来の人事異動制度では専門性が身につかないですね。
山本:現在、旧来の方法を変えようと模索する企業は増えてきています。例えば旧来の人事ピラミッドでは対応できないため、ピラミッドから枝分かれさせて報酬を柔軟にするなど。早期から制度改革に取り組んだ企業にはいい人材が集まり、出遅れた企業にはいつまでたってもいい人材が集まらない。そこで企業間の人材レベルの差も生まれているように感じます。