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朝日新聞デジタルが見てきた業界の変遷――レコメンドウィジェットによる収益性向上と新たなUXの提供

2018/12/12 11:00

 「メディアを取り巻く外部環境は、過去2年間の間で大きく変わった」と語るのは、『朝日新聞デジタル』の広告マネタイズに従事する柳田竜哉氏だ。アドテクノロジーの発展により、パブリッシャーを取り巻く環境はどう変化してきたのか。広告による収益性向上を目的に導入したというアウトブレインの効果は? 本記事は、アウトブレイン社の日本創業5周年を記念した5本特別連載の第2弾。パブリッシャーの立場から、話をうかがった。

もはや「紙とデジタルどちらが大事か」を議論する時代でない

朝日新聞社 デジタル・イノベーション本部 商品企画事業部 次長 柳田竜哉氏
朝日新聞社 デジタル・イノベーション本部 商品企画事業部 次長 柳田竜哉氏

――初めに、自己紹介をお願いします。

柳田:2001年に朝日新聞に入社してから、ずっとメディアビジネスに携わってきました。新聞広告やイベント事業、「アサヒ・コム(現在の朝日新聞デジタル)」の営業を経て、2010年から朝日インタラクティブという会社で営業やメディアビジネスのマネジメントにも携わりました。

 2016年に朝日新聞社に戻り、今はデジタルメディアの広告配信やアドテク関連の仕事をしています。特に最近は、ヘッダービディングの導入などプログラマティック広告の領域に注力しています。

―― 柳田さんが所属されているデジタル・イノベーション本部は、今年6月に大きな組織変更があったとうかがいました。こちらの組織についても、ご紹介いただけますか?

柳田:デジタル本部からデジタル・イノベーション本部へと名称が変わり、組織体制にもかなり大幅な変更がありました。デジタル・イノベーション本部の中でも、私が所属する商品企画事業部には、朝日新聞デジタルのサブスクリプションと広告によるビジネスの中核となることが求められています。デジタル本部は、長らく新聞社の中でデジタル事業を担う部門という位置づけでしたが、その位置づけが変わってきたと感じています。

 たとえば朝日新聞デジタルをとってみても、総合プロデュース、編集、メディアビジネス、情報技術と様々な部門が関わっています。デジタル事業が、デジタル部門だけで完結するものではなく、全社的に取り組むテーマになったという感じですね。他のパブリッシャーも同じような状況だと思いますが、もはや「紙面とデジタルのどちらが大事か」という議論をする時代ではありません

 デジタル・イノベーション本部という名前には、全社的なデジタルトランスフォーメーションを進めていく中で、中心的な役割を果たしてほしいという思いも込められていると、私は理解しています。デジタル部門に要求されるレベルと期待が、年々高くなっていると感じますね。

――ずっとメディアセールスに携わってきた柳田さんから見て、デジタルメディアを取り巻く外部環境にはどのような変化がありましたか?

柳田:デジタルメディアを取り巻く外部環境は、この2年の間でも大きく変わったと感じています。個人的にはアドエクスチェンジの仕組み、RTB(Real Time Bidding)が登場したことが大きかったと思います。

 もちろん、エクスチェンジもRTBは何年も前からありましたが、日本のパブリッシャーにとっては「純広告かアドネットワークか」という状況が長く続いていました。パブリッシャーがすべての広告在庫をRTBで取引できるようになったのは、本当に最近です。そのための環境がようやく整備されたと感じています。

 特に、ヘッダービディングがパブリッシャーにもたらしたインパクトは大きかったですね。パブリッシャーにとって、複数のアドエクスチェンジでの同時入札が可能になるということは、画期的な変化です。プログラマティック広告の領域は、デマンド側にとってだけでなく、パブリッシャーにとっても、以前に比べて格段にやりがいのある領域になったと思います。

ほとんどの自社媒体でアウトブレインのシステムを導入

――バナー広告の収益性向上が可能な環境が、ようやくパブリッシャーの側でも整備されたわけですね。では次に、広告のマネタイズという視点から朝日新聞社が運営するデジタルメディアについて教えていただけますか?

柳田:朝日新聞デジタル」のルーツは、1995年にサービスを開始した「アサヒ・コム」にあります。「.co.jp」ではなく「.com」ドメインを取得し、米国と日本の2拠点で運営するという、当時としてはおもしろい試みがいくつかありました。創刊当初から広告枠を用意していたことも、その一例です。広告は収益の柱として着実に成長を続け、有料購読とともに収益の柱となりました。

 また「朝日新聞デジタル」以外にも、朝日新聞デジタルのWebマガジンの「&」や「withnews」などに加え、今年に入ってバーティカルメディアプラットフォーム上でも7つの媒体を立ち上げるなど、多岐に亘るメディアを運営しています。さらに、メディア運営の核ともいえるCMSを自社開発し、その外販にも取り組むなど多様なビジネスにチャレンジしています。

――最近注力している動きはありますか?

柳田:ブランドセーフティやビューアビリティに関する取り組みにも注力しています。具体的には、米国のMRCに認定された第三者の計測ツールを導入しました。もともと朝日新聞デジタルでは、アドフラウドやブランドを毀損する可能性のあるコンテンツの割合が低い水準にありますが、そのツールを利用したターゲティング配信により、より安全性の高い広告枠の提供も可能になりました。

――アウトブレインのソリューションを導入されているのは、どの媒体ですか?

柳田:「朝日新聞デジタル」をメインに、ほとんどの媒体でアウトブレインのレコメンドウィジェットを導入しています。

 主な目的は、収益性の向上です。アウトブレインを導入した2016年頃を振り返ると、ネイティブアドやタイアップのセールスはそこそこ好調でしたが、バナーの広告売り上げに以前のような勢いはありませんでした。運用広告でも今ほどアドエクスチェンジが機能しておらず、SSPやアドネットワークから提示される単価も芳しくないような状況でした。

米国では既に大手メディアによる先行事例も

――収益性向上という目的の裏には、そういった状況があったんですね。

柳田:先述したような課題を抱えている時、記事を読み終わったユーザーに新しい記事をレコメンドするという新しい広告フォーマットをアウトブレインが提案してくれたのです。サイト内の回遊が増えると、広告在庫が増える仕組みであることも魅力的でした。

 また、米国でアウトブレインのようなレコメンドウィジェットが先行的に利用されていることは知っていました。以前所属していた朝日インタラクティブが運営している媒体に「CNN.co.jp」というCNNの日本語版があるのですが、ライセンス元の担当者の方からアウトブレインを紹介されたこともありました。本国の米国版CNNでは、アウトブレインのレコメンドウィジェットを早くから導入していて、その収益性の高さについても聞いていたのです。その後実際「CNN.co.jp」でもアウトブレインを導入しました。

――コンテンツの質は媒体内での顧客体験大きく左右します。アウトブレインが扱っているコンテンツの質をどう見ていますか。

柳田:コンテンツの質を担保するための前提として、媒体ネットワークの質があると思います。その点アウトブレインは、媒体のリクルーティングでしっかり選別されています。広告主からプレミアムな媒体と評価されている配信先に、我々も加わることには大きな意義があると考えています。

 また実際に弊社が請け負ったタイアップ広告について、よりリーチを稼ぐためのオプションプランとして、アウトブレインのネットワークを通して配信することもあります。ここでも配信の質が高く担保されていると感じますね。

運用型広告の売上を飛躍させたレコメンドウィジェット

――では、アウトブレインのレコメンドウィジェットをどのように活用されているのか、もう少し教えていただけますか?

柳田:当初は、広告主が提供するコンテンツのうち、オウンドメディアやネイティブアドに限定して活用を始めました。活用が定着した今も、単純に広告主のサイトに直接飛ばしてコンバージョンさせるのではなく、読んでもらうコンテンツへの誘導を中心にしています

 入社して間もないころ広告の審査部門にいたことがあるのですが、その時の体験から、広告も記事も同じコンテンツと捉えている読者が少なくないことを実感しました。広告だからといって、読者を質の低いコンテンツへ誘導したくないですよね。コンテンツの内容がメディアにそぐわない広告については、パブリッシャー側でブロックするなどの運用が必要です。

――収益性向上のために導入されたということでしたが、その効果はいかがですか?

柳田:収益向上へのインパクトは大きなものでした。2015年から2018年にかけて、運用型広告全体の規模は約3倍に拡大しています。その中でレコメンドウィジェットは、ユーザーが新しいコンテンツに触れる機会を増やしただけでなく、バナー広告の収益減を埋めることに大きく貢献しました。ヘッダービディングなどを駆使することで、レコメンドウィジェットは、媒体のページ単価を上げるためにも欠かせないフォーマットになっていますね。

デジタル時代のパブリッシャーの在り方

――かなりの成果が出ているのですね。広告マネタイズの成果を得るために、意識的に取り組んでいることはありますか?

柳田:新しいアドテクノロジーの導入には、積極的に取り組みたいと考えています。導入すると決めたら、なるべく早いタイミングで実装したいですね。収益性を追求する上でも大事ですが、単純に新しいことをやりたいという気持ちもあります。そのほうが楽しいですから。もちろん、どんなテクノロジーでもいいわけではないので、そこに目利きは必要となります。

 また、パブリッシャーの広告マネタイズは営業などビジネス周り出身の方が担当していることも多く、必ずしもテクノロジーに詳しくない場合が多い。社内のエンジニアとテクノロジーを提供してくれる会社の間に入って、伝言ゲームのようなことをやっていると、なかなかスピードが上がりません。

 ですので、新しいテクノロジーをスピード感を持って導入していくには、自社のメディアの仕組みもテクノロジーも理解している専任のエンジニアをチーム内に抱える必要があると考えています。現在、8人中2人がエンジニアというチーム体制を敷いていますが、来年の1月にはもう1人エンジニアを増員する予定です。ビジネス担当者とエンジニア担当者2人というのが、理想の最小ユニットだと思います。

 アウトブレインのサポート体制にはもちろん満足していますが、何か起きた時、自社にアドテク専任のエンジニアがいるのといないのとではスピード感が全然違ってきます。今後、デジタル媒体で広告ビジネスをスケールさせるには、広告マネタイズのチーム内におけるエンジニアの重要性がさらに高まるのではないかと思います。

――最後に、今後の目標とアウトブレインに期待していることをお聞かせください。

柳田:アウトブレインの機能をより活用し、収益性の向上だけでなく、グロースハックの領域にも展開していければいいなと考えています。

 また、アウトブレインの「Sphere(スフィア)」という構想に期待しています。これは、招待されたプレミアムなパブリッシャーのみが参加できるプラットフォームを形成して、優良なユーザー群を生み出し、エンゲージメントと収益性を高めるという考えで、展開されているものだとうかがっています。近年ではパブリッシャーの意識も変化しているので、Sphereは、親和性の高い媒体同士がつながりメリットを享受できる環境になると思っています。

 加えて、記事のレコメンドについても、質の向上に継続して取り組んでいただきたいです。レコメンドの精度が媒体での体験を左右することもありますから、読者ニーズに合った質の高い広告がレコメンドされるようにしていただきたいですね。レコメンドウィジェットを提供する事業者もかなり多くなりました。アウトブレインには、今後も市場を良い方向に導く旗振り役を務めていってほしいです。

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