「CX」=エモーショナルな価値をともなう体験
近年、頻繁に聞かれるようになった「CX(カスタマー・エクスペリエンス)」。その定義は答える人によって様々で、現場マーケター・統括マネージャー・経営層などのレイヤーによっても、この言葉から想起される実際的な戦略の抽象度は異なるのではないでしょうか。
『CX(カスタマー・エクスペリエンス)戦略』では、「CX」の本質的な価値を提示するとともに、各レイヤーが一貫した「CX」を顧客に提供するための指針が紹介されています。
では、著者である田中氏が考える「CX」の本質的な価値とは一体どのようなものなのでしょうか。同書内で、同氏は以下のように解説しています。
商品やサービスを購入する過程、利用する過程、その後のサポートの過程における経験定期な価値(心理的・感情的な価値)
つまり、「CX」は顧客とのタッチポイントにおける単なる体験ではなく、「エモーショナルな価値がともなう体験」を指すと田中氏は主張しています。顧客の購買行動が変容し、「価格」や「商品・サービスの品質」だけでは企業を選ばなくなってきているように感じる今の時代、このような体験が求められるのも納得です。
しかし、「言うは易く行うは難し」で、顧客の感情に働きかけるような体験を生み出すことはそう簡単ではないはずです。そこで同書では、野村総合研究所が「CX成功の指標」としている「ジョハリの窓」を紹介しています。
お客様は「神様」ではなく、心を持った「人間」
「ジョハリの窓」とは、サンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフト氏とハリー・インガムが発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」。「自分は気づいている・気づいていない」「他人は気づいている・気づいていない」の2軸で形成される4象限を、野村総合研究所ではそれぞれ「自社」「顧客」に置き換えて考えているそうです。
本来「対人関係」において適用される思考モデルを、「CX戦略」の根底に置いている野村総合研究所。このことは、私たちに「お客様は神様ではなく心を持った人間だ」という事実を再確認させてくれます。「顧客」とは実体のない漠然とした存在ではなく、意思を持ち、感情の起伏を持った一人ひとりの集合体、とも言えるのではないでしょうか。
混同されがちな「CS(顧客満足)」との違いについても、田中氏は以下のように見解を述べています。
「CSはWhat(どんな商品・サービスがほしいか)」の理解にとどまるのに対し、CXはWhy(なぜ商品・サービスがほしいのか)」の理解まで踏み込む。
企業視点で「What」を考えていた時代から、顧客視点で「Why」を考えていく時代へのパラダイムシフトを力強く感じさせる本書。「CX戦略」を実践する企業事例の紹介や、現場・経営層などのレイヤーごとに異なる施策への言及もされており、幅広い方に示唆を与えてくれるオススメの1冊です。