CMとネット広告だけでは「ファネル」はつながらない
大人気コンテンツを事例に、ヒットの新しい潮流を解説した書籍「爆発的ヒットは“想い”から生まれる~SNSから始める新しい時代のマーケティング」。著者の堺氏は、メディアコンサルタントやコピーライターとして活動しながら、「テレビとネットの融合」をテーマに、研究や情報発信を続けている人物です。
同書の序章で論じられているのは、SNSの登場をはじめとするメディア構造の変化が、広告コミュニケーションに与えた影響について。「ファネル」や「AIDMA」が示す購買プロセスに照らし合わせてみると、次のような混乱が生じているのが見えてくるといいます。
認知を担うCMはいまもかなり効果を発揮する。比較・検討や購買はインターネットが担えるようになった。だがその間、好意や興味の喚起、そして検討の一部の部分がスポッと抜けてしまっている。ファネルがつながっていない状態だ。(p.25)
認知と購買をつなぐ「ミドルファネル」は、従来、新聞や雑誌といった紙媒体が担ってきた部分でした。デジタル時代の今、ファネルを再びつなげるためには、どのようなコミュニケーションが有効なのでしょうか。
「コミュニティ」と「想い」が爆発的ヒットを生む
大ヒットしたドラマや映画の分析を通じて見えてきたのが、ミドルファネルを埋める役割を「コミュニティ」が果たしていたということ。著者は、ヒットコンテンツに関するツイートの数や内容を追うだけでなく、Twitterを通じてファンたちに「一体なぜ盛り上がっているのか」という疑問をぶつけ、会話をする中から、ヒットとコミュニティの関係を探っていきます。
また著者は、ファンのツイートから見えてきた内容を基に、映画やドラマの関係者へインタビューを実施。同書にも当事者の声が豊富に引用されていて、突然起きたように見えるヒットの裏側には何があったのかを理解することができます。
さらに同書では、「コミュニティ」を育てるカギとなる「想い」についても言及。コンテンツの制作者は、「想い」が伝わりやすいというSNSの特性を活かし、「自分の想いをさらけ出すべき」だと呼びかけます。マーケティングに当てはめて考えてみると、商品・サービスに込められた想いや、作り手の想いを、より積極的に届けていくことが必要だと言えそうです。
数々の事例を読み進めるうちに、CMを大々的に打てば消費者に届いた時代と比べると、コミュニケーションの正解がわかりづらくなったと感じる方もいるかもしれません。しかし著者は、同書の最終章をこう締めくくっています。
1億人に同じ夢を見せようとするのは異常だったのだ。もっと人間にとって自然な世の中に近づきつつある。マーケティングやコミュニケーションも、いままでよりずっと人間らしくなっていっているのだと私は信じている。(p.233)
SNSやネットによるデジタル化で、コミュニケーションに人間らしさが戻ってきているという流れを理解することで、広告・プロモーション戦略のヒントが見えてくるのではないでしょうか。
デジタルとマスを掛け合わせたコミュニケーションに関して理解を深めたいマーケターはもちろん、ヒットコンテンツの事例をじっくり学びたい方にも、おすすめできる1冊です。