データ提供は、ユーザーの共感が重視される時代へ
廣澤:データを扱う上では、倫理やポリシーをについて関心を持ち理解することが必要だと思います。中村さんはその点に関して、どのようにお考えですか。
中村:今、利用者の皆様のプライバシーに対する関心が高まっています。改めて個人情報の取り扱いには気を付けるべきタイミングですし、ビッグデータを扱うなら、法律の理解も必要でしょう。

Facebookの場合は、利用者の皆様のプライバシー保護を第一に考えています。広告の透明性だけでなく、今後は新機能の開発などを通じて、利用者の皆様がご自身の情報をコントロールする権利や選択肢がある状態を作ります。
廣澤:CRMという言葉がありますが、これは主語が企業でお客様をコントロールするという視点が強いと思います。方や、新しい概念ではないですがVRM(Vendor Relationship Management)という言葉があります。顧客側も自分たちが情報を渡しても良いと思える企業・プラットフォームにだけ、情報を渡そうという考えが強まるなど、データのあり方が揺らいでいるように思います。
中村:先述したように、昔はデータを保有していることが価値でした。しかし今後は、自分たちのサービスを明らかにして利用者の皆様に「この情報を使わせてください」と共感を得て、許諾を取る形になっていくかもしれませんね。利用意図を伝えて透明性を高める必要があります。ここは、マーケターの次の課題です。
廣澤:その点についてマーケターはもっと真剣に向き合わないといけません。個人の考えですが広告主は、ファーストパーティとして必ずしも個人情報を持つ必要はないと考えています。しかし、保有しなくなることで、個人情報に関する問題が自分には無関係であるという考えが生まれ、データを活用することへの倫理観も一緒に失ってしまう危険性があります。その点は気を付けなければならないと考えています。
マーケターは2極を把握し、トレンドの次を追いかけよう
廣澤:最後に、セレンディピティについて伺います。海外では、似たような意見を持つ人の情報にしか接しないことで特定の意見に固執・偏重してしまうエコーチェンバーや、アルゴリズムによって自分の見たい情報しか入ってこなくなるフィルターバブルが、しばしば問題に挙げられます。
整備された情報だけが届くようになっていく中で、セレンディピティのような偶然性といったものは今後どうなるとお考えですか。
中村:2つ考えを挙げると、まずターゲティングによる最適化が不可能なオフライン環境であれば、セレンディピティは起きるのではないでしょうか。たとえば、屋外広告や交通広告です。そこからInstagramでハッシュタグ検索をするようなシナジーを感じています。
廣澤:オンオフ統合によって、新しいコミュニケーションが登場する可能性もありますね。
中村:もうひとつは、利用者側がターゲティングをされるかどうかの選択肢を選べるような時代が来るかもしれないこと。ターゲティング広告が減り、その結果、ユーザーが触れる広告の世界が広がる可能性があります。
また、いつか「この情報はターゲティング最適化された結果だ」と利用者の皆様も気づく時がくるでしょう。人は両極端なところがありますから、最適化された状態を嫌と思い、逆を求める動きが生まれるかもしれない。
廣澤:逆を求めるというのは、どんなものにも限界効用があるということかもしれませんね。お気に入りのシャンプーがあっても、一時的に飽きて別のを買い、また元のブランドに戻ってきてというのを繰り返すものです。この限界効用はモノに限らずサービスにも起きると考えられるので、あらゆるものがデータ化され個人の意思決定のほうが逆にデータによって管理されているかのような状態が、果たして本当に正しいのかと疑念を抱く時が来るかもしれない。
中村:トレンドは移り変わっていきますから、マーケターは2極を見ておかないといけません。両極端を理解しながら、仮説を立てて次のトレンドの動きとタイミングを検証するのが大事です。今のトレンドを追うだけでなく、その反対側の世界で起きている出来事にも目を向けるべきだと思います。
