SNS広告のジレンマ「KPIを重視するとリタゲに偏り過ぎる」
MarkeZine編集部(以下、MZ):初めに自己紹介をお願いいたします。
村岡:ネスレ日本の媒体統轄室という部署で、マスとデジタル両方を活用したプランニングを行っています。プランニングの中で、これまでも電通デジタルさんに協力していただきながら、様々なSNS広告を展開してきました。
馬籠:電通デジタルで、プラットフォーム部門の統合/開発グループに所属しています。FacebookとTwitter、LINEの広告を横串で効率よく運用していくことをミッションに、新しいツールの開発やその活用を進めています。
馬:同じ統合/開発グループで、新しいツールの有効な活用方法を見つけていくと同時に、社内での利用促進も行っており、中でも、今回ご紹介するDANツールを主に担当しています。
DANツールは、電通イージスネット・ワーク・インドのデータサイエンスチームが開発した、SNS広告の運用を最適化するためのツールです。
MZ:まず、DANツールを採用する前の状況についておうかがいします。ネスレ日本ではSNS広告に関して、どのような課題を抱えていたのでしょうか。
村岡:弊社は、「ネスカフェ アンバサダー」と「ネスレ ウェルネス アンバサダー」の2サービスに注力しています。
「ネスカフェ アンバサダー」は、職場向けにコーヒーマシンを無料で貸し出し、職場の皆様に、手軽にリーズナブルな価格でコーヒーをご利用いただけるサービスです。KPIはアンバサダーのリクルート数と定め、SNS広告の運用を続けてきました。
そこで大きな課題となっていたのは、施策がリターゲティングに偏ってしまっていたことです。KPIであるリクルート数やCPAを重視すると、やはりコンバージョンに近い層をターゲティングしがちになります。認知や検討にも予算を配分していきたいと思いながらも、セグメント設定の難しさや運用効率への懸念から、なかなか踏み出せない状況が続いていました。
運用の属人化がフラットな提案を阻む
MZ:電通デジタルは、実際に運用を行う広告代理店として、どのような課題を感じていたのでしょうか。
馬:リーチに関しては、ずっと問題意識をもっていました。クライアント企業のKPIがCPAの場合、Facebookの広告運用では、コンバージョン率の高いであろうユーザーに優先的に配信可能な類似拡張ターゲティングを活用することが多いです。
ただ、その場合どうしても配信可能なオーディエンス数が限られてしまうため、クライアント企業の高い期待に対して、適切なCPAで、リーチの拡大につなげられるのかといった不安要素を払拭できませんでした。
馬籠:多くの運用担当者が同様の問題を抱えていると思うのですが、運用の「属人化」も大きな課題でした。運用型広告の場合、クライアント企業ごとに担当者が付くので、どうしてもその担当者しかわからない情報や知見が生まれてしまいます。
担当者によって得意な領域や勝ちパターンが出てきてしまうことも、属人化を生む理由の一つです。一度勝ち筋を知ってしまうと、そこにこだわり、どうしても視野が狭い提案になってしまいがちです。職人肌の人ほど、そうなりやすい傾向にありますね。
ネスレ日本様の課題「リターゲティングへの偏り」を解決するにあたって、先入観を取り払い、フラットな視点で新たにリーチすべき層を探していく必要がありました。このため、DANツールの利用を提案したという背景があります。
人が想定できなかった興味関心層を次々と抽出 個々の効果測定も可能
MZ:今回は「ネスカフェ アンバサダー」のFacebook広告にDANツールを活用されたそうですが、どのような効果があったのでしょうか。
馬:今回、Facebook広告のリターゲティングと類似ターゲティング、DANツールで抽出した興味関心の3つの方法で同時配信しました。その中でDANツールが最も良い成果を挙げ、2番目に良かったリターゲティングと比べて、CPCは7分の1程度に、CTRは3倍ほどになりました。
MZ:狙い通りの結果が出たのですね。DANツールのどのような機能を活用したのでしょうか。
馬:DANツールには4つの機能があります。今回は「THE PLANNER(以下、プランナー)」と「LASERSIGHT(以下、レーザーサイト)」の2つの機能を中心に活用しました。プランナーは設計段階で、レーザーサイトは運用を始めてから使うものです。
プランナーは、ターゲットの年齢、性別、目的、予算などの与件を入れることで、Facebookが提供しているAPIやDANツール独自のデータベースを基に関連性の高い興味関心カテゴリーを抽出し、プランニングに活かせるツールです。
今回、「コーヒー」「ネスカフェ」「ネスレ」などのキーワードを与件として入れていたのですが、「カフェモカ」など一般的に連想しやすいもの以外にも、「お茶」「エビ」「キムチ」など、人が運用している限りでは到底考えつかないようなキーワードが出てきたのです。
馬籠:しかも、実際にそれらのキーワードで運用してみると効果を確認できました。DANツール独自のレコメンドにより、高い精度のターゲティングが可能になっています。
馬:また、レーザーサイトは運用時に各興味関心の効果を見ることができるツールです。Facebook広告の基本機能では、複数の興味関心を設定していた場合、一つひとつの効果の計測ができないのですが、レーザーサイトであれば各興味関心の効果を厳密に測定できるため、効果の高いキーワードに予算を寄せることができます。
馬籠:通常こうした施策では、ある程度刈り取りを行ったら、また新たなキーワードを考える必要がありますが、レーザーサイトは新しいキーワードもレコメンドしてくれるため、高速でPDCAを回せます。運用効率を上げながら、より相性の良いユーザーにリーチできる状態を構築するツールです。
「クライアントのことを考える力」を伸ばすためにツールを使う
MZ:DANツールの効果を実感したのは、具体的にどのような場面でしたか。
村岡:DANツールは、企業側の盲点に気づかせてくれると思っています。
たとえば「コーヒーメーカー」という単語について。私たちは、「ネスカフェ バリスタ」のことを「コーヒーマシン」と言っていて、プロモーション時も「コーヒーマシン」という単語を使うことが多い。ですが、あるとき、実は一般的なお客様の間では「コーヒーメーカー」という呼び方のほうがメジャーだったと、社内で話題になりました。
そのときDANツールを確認してみると、既に「コーヒーメーカー」というキーワードが重要だと出ていたのです。ユーザーデータをしっかり捉えているなと感じました。当事者だとつい見逃してしまうようなことを教えてくれるのは、ありがたいですね。
馬:運用担当者の立場では、ツールを活用することで分析・判断にかかる時間を削減でき、作業効率が上がるので、その時間を使ってよりクリエイティブなことをできるのが良いところだと思います。
馬籠:これまでの広告担当者は、Excelを使って解析するという作業が多かったのですが、ようやくそうした仕事が自動化される時代になってきました。クライアント企業とお話しする時間を増やし、考える力を伸ばしていくために、ツールを使って作業をどんどん効率化していきたいですね。
村岡:作業そのものはバリューを生まないですからね。それより戦略戦術を考えるほうが重要ですので、広告主としてもとてもありがたいです。
「こんなユーザーに配信しませんか」運用担当から逆提案も可能に
MZ:今回の事例を基に、DANツールのさらなる活用に関して想定されていることはありますか。
馬籠:今回はFacebook広告でしたが、Instagramでも活用いただけます。また、今後はTwitterでも使用できるよう、開発中です。
馬:成果を挙げた事例が増えているので、広告担当者にはぜひ逆提案にも活用していただきたいです。クライアント企業から、「このようなユーザーにアプローチしたい」というご要望を聞くだけでなく、ツールに与件を入れてみた上で、「このようなユーザーにもアプローチしてみませんか」と能動的な提案ができると、より喜んでいただけるはずです。
村岡:広告主にとってはキーワードの良し悪しはゴールではなく、最終的に成果につなげることが重要です。1,000万円で1,000件取れていたものが、DANツールを使って800万円で同じ件数を取れるようになったら、余った200万円で新しいキーワードを取りにいけばいい。そのような逆提案が増えていくと、嬉しいです。
馬籠:今までは、ユーザー分析のスペシャリストに教えてもらわないとなかなか良いキーワードを抽出できないケースもあったと思いますが、DANツールを使えば誰でも良質なキーワードを出すことができます。脱属人化やコンサルタントの質の担保といった面でも、役に立ってくれるはずです。
スピーディーなPDCAを支えるDANツール
MZ:最後に、DANツールの活用も含めた今後の展望をお聞かせください。電通デジタルでは、広告主企業に対して、どのような支援を行っていきたいと考えていますか。
馬籠:やはり、運用効率化は突き詰めていきたいですね。クライアント企業とより深い会話ができるよう、作業に費やす時間を削減したいです。
我々が任せていただいている部分以外にも、クライアント企業には様々な目標があり、課題があります。ただ広告を運用するだけでなく課題解決を考え、より良い提案ができる担当者を増やしていきたいと考えています。
また、これまでも当社と電通イージスネット・ワーク・インドのデータサイエンスチームは、日本の新時代のクライアント企業に最先端のソリューションを提供するために密接に協力してきました。DANツールを使用してネスレ日本様の大幅な改善に成功したことは、国境を越えた両チーム間の親密なパートナーシップの成果の一例だと考えており、今後も連携を強化していきたいです。
馬:ネスレ日本様の運用で、「エビ」や「キムチ」が関連性の高い興味関心層として出てきたように、DANツールは人では想定できないような興味関心層が出てくるツールなので、受け入れられないと感じる企業も多いようです。当社のメンバーでも、活用しきれていない人がいます。まずは社内メンバーの活用レベルを均質化して、誰もが使えるような状態を目指していきます。その上で提案に活かしてもらい、どのクライアント企業にもメリットを感じていただけるようにしたいですね。
MZ:ネスレ日本では、SNS広告運用に関して、今後どのような展開を考えていますか。
村岡:2020年までに、全体売り上げの中でEC比率を20%にまで上げていくという目標があります。そのために、「ネスカフェ アンバサダー」と「ネスレ ウェルネス アンバサダー」は重要なビジネスになります。SNS広告を活用し、しっかり成果を出すために、PDCAを回していきたいですね。
今回の取り組みで、スピーディーにPDCAを回すのにDANツールは非常に有用だということがわかったので、今後はFacebook以外にTwitterなどの他プラットフォームでの展開も視野に入れていきたいです。