変化にしなやかに適応するアジャイル組織
このようなVUCA時代の先行きの見えなさに対する解決策として、経営においても「アジャイル組織」がキーワードとして浮上しています。ソフトウェア開発の現場で用いられることの多いこの言葉は、個々のプロジェクトに紐づいた小規模のチームを構成単位とし、施策の検討段階から実施・効果検証までのプロセスを短いサイクルで繰り返すための組織設計を指します。
アジャイル組織が先述したマス型組織と比べて外部環境の変化に柔軟に対応することができる理由は、次の比較図によって説明することができるでしょう。

マス型組織においては細分化されたタスクを効率的にこなす仕組みが重要であるため、構成員のスキルセットが均質化する傾向があります。さらに、オペレーションの構築と維持そのものが目的化することで「手段オリエンテッド」な意思決定が起こりがちです。マーケティングで言えば「自社商品を出来るだけたくさんの人に届ける」という目的に対して、「全国◯千人の販売員ネットワークを有効利用する」という手段が先に立っている状態です。
その一方で、アジャイル組織は個々のプロジェクトに紐づいてチームが組成される以上、組織の特性は「目的オリエンテッド」です。チームの構成メンバーのスキルセットは多様であることが好ましく、目標達成のための手段を各々の裁量で臨機応変に選び変えることが推奨されます。「ROIの最大化」や「CV数の最大化」という目的のために、SEM、ASP、SNSなど複数のチャネルを同時並行的に検討し、最も成果の高いチャネルを重点的に強化するといったやり方は、まさにアジャイルなマーケティング組織の手法と言えるでしょう。
採用環境の変化
「市場の予測不可能性」という経営課題にしなやかに対応するためには、手段の硬直性を捨て、目的オリエンテッドで自律的なチームを作る必要があります。こうした課題に合わせて、採用のあり方も変化を余儀なくされます。
これまでの採用は、専ら「外部データベースから母集団をかき集め、選考を通じてふるいにかける」という狭い領域にフォーカスしてきました。その結果、新卒採用にあたっては大手ナビサイトへの出稿などを通じて不特定多数のオーディエンスに向けて自社を露出させ、中途採用にあたっては欠員を即時に埋めるためにエージェントを利用するといった手法を中心とした採用慣習が定着することとなります。
こうした採用慣習は、既に構築されたオペレーションフロー(どうやるのか)に沿って人員を配置するというマス型組織の要請によって生み出されてきたものですが、既に見てきたことからも明らかな通り、それがVUCA時代の経営課題に対する本質的な解決につながることは期待薄です。
