コミュニティマーケティングを始めるための前提条件
とはいえ、自社サービスに関心のあるユーザーを集めてオープンなコミュニティを形成するにしても、そこには前提条件がある。それは、コミュニティの「中心になる人」と「仲間になってくれる人」を見つけることだ。
「この方々を見つけるためには、まず徹底してユーザーの状況や課題感を知ることが必要」と山田氏は指摘する。各ユーザーが自社サービスをどのように使っているか、データで把握しないことには、活発なコミュニティ活動に貢献してくれる人を見つけるのは難しい。
そして、ユーザーの状況や課題感を知る取り組みは、カスタマーサクセスの活動にも重なる。ユーザーに自社サービスの活用を促し、生産性向上を支援する過程で、おのずとユーザーの状況や課題感に詳しくなるからだ。Sansanではカスタマーサクセスの業務であり、かつコミュニティの活性化に貢献する人を見出すのにも役立てている策として、次の3つを実践している。
ひとつは、データ収集ツールのGainsightの活用だ。自社サービス「Sansan」だけでなく、ユーザー企業が併用していることが多いSalesforceやMarketoといったツールでのアクティビティも確認できるため、ユーザーの自社サービスを含めた活用状況を理解できる。次に、ライフサイクルマネジメントの把握。長期の利用を前提に、顧客のライフサイクルを導入期~定着期の4段階に分けることで、セグメントしやすくなり、時期によって生じがちな課題も推測できる。最後に、スコアリングだ。Sansanでは利用率をはじめとする4つの軸、さらに細かい指標をもって顧客の活用状況を独自に数値化している。
これらを通して中心になる人=1st Pin(ファーストピン)、そして仲間になってくれる人を探すことができる。
コミュニティマーケティングのプラクティス分析
前提条件が整い、データが集まった段階で山田氏が提案するのは、改めてコミュニティマーケティングの要件定義と事業活動への効果を押さえておくこと。「コミュニティマーケティングに限らないが、戦略、戦術、実行のうち『戦略』が最も希薄になりがち。コミュニティの立ち上げでも、運営自体は難しくないが、何のためにやるのかを明確にしておかないと『集まって楽しかった』で終わってしまうことが多い」と山田氏は話す。
では“何のためにコミュニティマーケティングを行うのか”の回答でもある、コミュニティマーケティングの事業活動への直接的な効果とは何だろうか? 山田氏は「導入期(OnBording)の工数削減」「プロダクト活用促進による継続率上昇」「新規顧客へのリファラル効果」の3つを挙げる。既にそのサービスで成功を上げたイノベーターや習熟度が高い上級者と、まだ使い始めたばかりの初級者が同じコミュニティで交流することで、従来ならサービス提供会社が担当していたチュートリアルの役割を部分的に担い、横のつながりができることで利用の継続も望めるというわけだ。
山田氏が先に紹介した3社の好例は、いずれにおいてもこうした効果がうかがえるという。だが、どのBtoBサービスでもこれらの例を真似できるわけではない。
「この3社にはいくつかの共通点がある。プロダクトが比較的難解で、Q&Aで交流が生まれやすいこと。テクノロジーに強いユーザーが多く情報発信力も高いこと。そして、プロダクト自体が業務インフラ化しやすいこと。残念ながらSansanはこれに合致しなかった」(山田氏)