「Sansan」におけるコミュニティマーケティングの事例
冒頭で紹介したように、Sansanはサービス立ち上げの初期からカスタマーサクセスに注力してきた。その過程で、自社でもコミュニティマーケティングに着手し、サービス導入期のサポート工数削減や継続率の維持向上に効果を上げたいと考えたという。しかし、先の3例の共通点を参照すると「『Sansan』自体はとてもシンプルなサービスで使いやすく、質疑ベースで上級者と初心者がコミュニケーションを取れる期間が非常に短い」という点にぶつかった。
「元AWSの小島氏が提唱する『オープンかつ関心軸がそろっている象限でコミュニティマーケティングが有効』という部分でも、“名刺を読み込みデータで簡単に管理できるサービス”を使うユーザーにうまくあてはまる関心軸が見つからなかった」と山田氏は振り返る。ユーザーは皆、名刺を読み込むこと自体に関心があるわけではない。どのような傘でユーザーを束ねたらいいか、考えあぐねたという。
自社サービスと同じようにシンプルで、ユーザーの関心軸がそろわないサービスのオウンドメディアなどを参考にした末に、山田氏が見つけたのは「人脈の可能性を広げる」という切り口だ。
「『Sansan』の導入も活用自体もゴールではない。我々が目指すのは、名刺を社内で共有して“人脈”の価値を最大化していただくこと。そう言語化できたとき、我々が設けるコミュニティは『人脈の可能性を追求する』場にしたいとイメージが固まった」(山田氏)
コミュニティは顧客とともにサービスを成長させる営み
具体的には、まず「『Sansan』を使って人脈の可能性を広げた人」を「Success事例」と位置づけ、30人ほどにインタビューして記事コンテンツを制作。これをベースに、既存ユーザーからSuccess事例に該当する人を随時探してインタビューを追加しながら、同時にその方々には初級者ユーザー向けのセミナーなどに登壇してもらうようにした。
並行してコミュニティを開設して会員を募集。ユーザーを「C層:一般的に活用している層」「B層:Success事例に登場している、ROIを体現している層」「A層:サービスを強く支持し、プロダクト開発などにも協力的な層」の3つに分け、AやBの人には積極的に声をかけてコミュニティに誘導。年間で各層ごとのオフラインのユーザー会、また年1回の全員向けのイベントを計画し、全体のコミュニケーション設計を図って実施していった。
現在、ログイン画面で前述のコンテンツを訴求して流入を図りながら、オンラインコミュニティのβ版をリリース、運営を開始した。全員向けのイベントでは、年間を通して「『Sansan』を使って最も変革をもたらした人」を表彰するアワードの開催も予定している。
「Sansan」の場合、理想的なサービス活用を体現している“人”をSuccess事例と位置づけて可視化し、それを目指してユーザーが集まれるようにしたことが成功の要因だろう。「コミュニティは顧客とともにサービスを成長させていく営み。事業のドライバーにもなり得る」と山田氏。データ収集や関心軸の設定だけでなく、サービス自体を含めた全体のつながりを意識して設計することが大切だ。