ワールドカップ開催中のデジタルメディア利用実態
まず、「デジタル統合視聴率β版」を用いて、ワールドカップ期間中のデジタルメディア利用実態を見てみよう。スポーツに特化したデジタルメディアにおいて利用者が多く、かつ1日あたり利用時間が最も長い『スポーツナビ』を今回の分析対象とする。
スポーツナビは、Webサイト・スマートフォン向けのアプリを通して提供されている、野球、サッカー、ゴルフなどのニュース・関連情報を取り扱うスポーツに特化したデジタルメディアであり、毎月約1,000万人に利用されている。
なお、「デジタル統合視聴率β版」は、インターネット利用デバイス(PC、スマートフォン)を横断して利用率を把握できるように設計されているため、PC・スマートフォン、ブラウザ・アプリからの利用にかかわらず、重複のないスポーツナビ利用者数を計測できる。
図表1-1のとおり、スポーツナビの利用概況では、5月からワールドカップ開催期間である6、7月にかけての利用者数の増加は見られず、利用時間も微増に留まっている。
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一方、利用者の内訳(図表1-2)に着目すると、ワールドカップ開催期間中において男性30〜40代の構成比が1ポイントほど高まっており、特に大会前半となる日本代表戦の開催期間における当該年代の利用者数の水準が、大会の後半期間よりも高かった(図表1-3)ことがわかる。
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また、大会開催後の8月における利用者構成比では、男性30〜40代の構成比が大会開催前の水準に戻ることから、主に男性30〜40代にワールドカップの情報をキャッチアップするためにスポーツナビを利用する、一時的(パートタイム)なファン層(以下、パートタイム層)が創出されていたと考えられる。
パートタイム層の実像に迫る
次に、ワールドカップ期間中に創出されたパートタイム層の、具体的な生活者像に迫りたい。
パートタイム層の定義は、「5月〜8月のワールドカップ開催期間中のみスポーツナビを利用した人」とする。図表2-1のとおり、定義されたパートタイム層の属性構成として、前項と同じく男性30〜40代の構成が高く、インターネット利用者全体との構成比差では男性30〜50代の構成比差が高いことがわかる。
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まずパートタイム層の実像を明らかにするため、生活者360°Viewerを用いて、パートタイム層とインターネット利用者全体の生活時間、および生活・自分自身に対する価値観を比較する。「生活時間」では、パートタイム層には以下の特徴が挙げられる(図表2-2上段)。
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- 「趣味を楽しむ時間」、「仕事以外の目的でインターネットを利用する時間」、「仕事をする時間」を大切にする
- 「仕事をする時間」、「仕事以外の目的でインターネットを利用する時間」、「飲食を楽しむ時間」に生活時間を割く
また、パートタイム層の男性では、図表2-3の通りワールドカップ開催期間中にはスポーツナビ以外の新聞社等のデジタルメディア、試合のハイライト等が投稿される動画サイトの併用が増加している。
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その一因は、パートタイム層は、「趣味を楽しむ時間」、「仕事以外の目的でインターネットを利用する時間」を大切にする生活者であるため、インターネットを通しての情報接触が積極的になっていたのであろう。
次に、「価値観」として「自己認識」・「生活意識」では、パートタイム層には以下の特徴が挙げられる(図表2-2下段)。
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- 生活意識として、情熱を持ち続けたい、人よりも早く出世したい、周りに流されず自分で考え行動したい
- 自己認識として、ドキドキ・ワクワクするようなことが好きだ、周りのことより自分のことを優先したい、何事にも、好奇心が旺盛なほうだ
データドリブンのコミュニケーション支援
ワールドカップがスポーツナビに与えた影響の一つが、主に日本代表戦開催期間において男性30〜40代の利用者を増加させたことである。しかし、ワールドカップ終了後、その多くはスポーツナビを利用しておらず、パートタイム層に終わってしまったことも事実であり、イベント時に獲得した利用者をつなぎ止められれば、より強力な集客力を誇るデジタルメディアへ成長することも可能であろう。
パートタイム層の実像としては、デジタルメディアの活用に積極的な男性30〜40代が中核をなし、自分自身や日々の生活に対する刺激、情熱を求めた結果、ワールドカップの雰囲気に引き寄せられた生活者であった。したがって大会期間終了後も、刺激等を与えられるコンテンツを適切に提供することで、利用者の継続的な拡大が期待できるだろう。その結果、生活者と企業とのコミュニケーションを媒介する機会も高まり、媒体としてもより魅力的なデジタルメディアへ成長し続けることができる。
デジタルデバイスの利用人口は、インテージのマルチデバイス利用調査では、2019年度時点ではPC利用人口5,200万人に対してスマートフォン利用人口は6,200万人までに拡大しており、刻々と市場環境は変化を続けている。
ゆえにマーケターやメディア担当者は、市場全体および各デジタルメディアの利用状況を捉え、多面的に生活者の実像を描くことで、生活者とのより良いコミュニケーションを創り出すことが求められる。
