自社データも活用し、一人ひとりに合わせた接客を実現
――今回開発されたソリューションも、重要な要素の発見やデータのセグメント化といったAIの強みを活かしたものなのでしょうか。
住岡:その通りです。簡単にいうと、アドビが提供する「Adobe Experience Cloud」とマイクロソフトが提供する「Microsoft Azure」を連携し、AIを活用した最適顧客セグメントの抽出と最適シナリオの予測・実行を自動化することができます。
――ソリューションを開発した経緯について教えてください。
住岡:「Adobe Experience Cloud」内の「Adobe Target Premium」のAdobe Senseiを活用した自動パーソナライズ機能では、最も購入につながりやすい誘導シナリオを一人ひとりの顧客に合わせて予測・実行し、可視化することができます。
ただ主な分析対象はWebサイト内の行動であり、マーケティング担当者からは、Webサイト外のデータも含めた上で自動最適化したいという声が上がっていました。私たち自身も、顧客企業と接している中で「自社が保有する、会員情報などのファーストパーティデータをなかなか活かしきれない」という課題をよく耳にしていたのです。
そこで、「Microsoft Azure」であらゆる領域のデータを統合した上で顧客をセグメント分けし、どのような顧客にどのような施策を当てるのかを設計してから、「Adobe Target Premium」で施策を自動最適化していくソリューションを開発しました。
森:カスタマージャーニーは人が作るものであり、実際にPDCAを回してから見えてきたボトルネックを解消するために施策を考えるのも人の役目、と認識されている方が多いと思います。ですが、それではスピーディーな改善はできません。
これに対して今回開発したソリューションは、カスタマージャーニーを形成するプロセスのほとんどを自動化するため、高速でPDCAを回せるようになります。
住岡:また「Power BI」との連携により、なぜAIがその結論に至ったのかを日々ダッシュボードで確認できるため、業務効率化に貢献できるところも強みです。
マーケティング担当者は施策を進めていく中で、本当にこの検証でいいのか、このクリエイティブでいいのかなど、根拠を求められるシーンが多く、その都度説明用の資料を作らなければいけないことも多い。でもそんな仕事は本質的には必要ないはずです。
――このソリューションがカスタマージャーニーを最適化していくフローについて、もう少し詳しく教えていただけますか。
森:まずお客様のデータを統合し「顧客セグメントの抽出」を行うと、属性の近いユーザーグループが形成されます。
次に顧客の属性や過去の行動から、その時点で最も購入につながりやすいシナリオが予測されます。たとえば図の「商品Bの閲覧」を行っている顧客にその商品を購入してもらうには、次にどの情報を提示すればよいのか。過去のデータを基に、最も可能性が高いのが「機能X紹介」であると示してくれます。人間では、これほど精緻な分析は難しいでしょう。
住岡:「顧客セグメントの抽出」については、あくまで人間が認識しやすいよう顧客情報を整理するための仕組みです。顧客体験がセグメント単位で最適化されるのではなく、完全に1to1で個別最適化された施策を実行することが可能です。
AIが提示する良質なヒントを基に、戦略策定が可能に
――このソリューションで顧客体験を最適化していくにあたって、AIと人はそれぞれどのような役割分担をしながら進めていくイメージになるのでしょうか。
住岡:まず、AIがターゲットを抽出し、何をどのようなタイミングで実施すればよいのか教えてくれます。でもそれはあくまで、ヒントの提示に留まります。AIは「これを見た瞬間に効果が上がりました」という過去事例を見せてはくれますが、それをそのまま再現していいのかどうか、何を施策化すればいいのかということは、人が考える必要があります。
森:たとえば、ある百貨店のマーケティング担当者が、「優良顧客向けのキャンペーンを実施したい」と考えたとします。ただ、自社の優良顧客はどのような属性なのかは把握しきれていません。
そこで、自社がもつデータを統合し、「Microsoft Azure」に取り込むと、「女性が過半数を占めている」「土日の昼間に来訪する確率が高い」「購入前に回遊する傾向にある」といったユーザー属性が導き出されます。
「Microsoft Azure」からユーザー属性を受け取った担当者は、「土日の昼間に店舗を回遊している女性にクーポンを配布すればいいのではないか」と施策案を考えます。そして、実際にクーポン施策を「Adobe Target Premium」に設定したら、後はAIが誰にクーポンを当てるべきかを自動的に判定し、最適化していきます。
ここでのポイントは、施策を当てるのは必ずしも“優良顧客”だけではないということです。そもそもこのクーポン施策は“優良顧客”向けのものでしたが、この施策で効果が見込めるその他のターゲットまで、AIが自動的に探索してくれます。もちろん、ビジネス上の意図をもって特定の顧客にのみ施策を当てる、という調整も可能です。
ここまでの流れを見ると、担当者はプランニングのみを担当し、分析・最適化作業はほぼすべてAIが担っていることがわかりますよね。マーケティング担当者の作業時間を一気に短縮し、施策の精度・投資対効果も向上してくれるのが、今回開発したソリューションの強みです。