エンタメ・メディア業界の広告出稿量が2倍に、なぜ?
MarkeZine(以下、MZ):昨今、マンガアプリやニュースアプリなどをはじめとしたエンターテインメント&メディア業界で、急激にFacebook&Instagramの広告活用が進んでいると聞いているのですが、どの程度の変化が起きているのでしょうか。
古田:エンターテインメント・メディア業界の出稿量で見ると、2018年から2019年の1年間で約2倍に増えています。
MZ:なぜそれほど出稿量が増加しているのでしょうか。
古田:出稿増加の大きな理由の一つとして挙げられるのが、Instagramの成長です。読者の皆さんもご存じだと思いますが、Instagramのユーザー数は急激に伸びており、月間アクティブアカウントが3,300万も超えています(2019年6月当時)。それだけ、日常的にInstagramを利用する方が増えています。
その結果、Instagramを通じてサービスを登録したり、商品を購入したりという体験も自然と行われるようになっており、広告の効果も高まっているわけです。
そして、エンターテインメント&メディア業界の出稿が伸びた理由があります。それは、2016年にローンチしたストーリーズ広告との相性が良かったからです。フルスクリーンで没入感のあるフォーマットが動画やマンガコンテンツと非常にマッチしていて、広告効果も高かったことから同業界での出稿量は大きく伸びました。
MZ:Instagramが世に浸透してきたことと、エンターテインメント&メディア業界と相性の良い広告メニューの活用が出稿量増加につながったということですね。
古田:その通りです。Facebook広告は出稿していたけど、Instagram広告は出稿していなかったという企業も、ストーリーズ広告用にクリエイティブを工夫して配信したことで、広告効果とボリュームが改善し新たなユーザーにアプローチできると思っていただけたのだと思います。
進む新規獲得にとどまらない活用
MZ:このようなInstagram広告の出稿を強化する流れは、他業界でも起きているのでしょうか。
古田:起きていると思います。Instagram広告が登場した頃は、ファッション・ビューティー業界の企業の出稿が多く、ブランディング目的の施策がほとんどでした。ただ、最近では商品の販売促進やアプリインストールなどに寄与するダイレクトレスポンスを目的とした施策でも活用されています。
MZ:それは、投稿画面からリンク先に飛べるようにしたことなどが影響しているのでしょうか。
古田:その通りです。直近ではInstagramのショッピング機能が人気となっていますが、このことからもユーザーがInstagramの投稿や広告をタップして外部遷移することに抵抗がなくなっていることがわかります。
MZ:エンターテインメント・メディア業界では、アプリのインストールなどダイレクトレスポンスを目的とした出稿が多いのでしょうか。
古田:そうですね、会員登録やアプリのインストールといった顧客獲得を目的とした広告が多いです。ただ、直近でその傾向にも変化が起きています。
たとえば電子書籍、電子コミック業界の場合、プレーヤーが急増し競争が激しくなっています。数多ある競合サービスの中で認知を獲得し、ユーザーが「マンガを読みたい」と思ったときに自社サービスを想起してもらえるような施策が求められています。そのため、新規獲得だけでなく、再訪を促すような広告を運用する企業も増えています。
FacebookとInstagramの広告では、認知から獲得、継続利用を促すところまで、フルファネルのアプローチができる環境が整っているとも言えます。
エンタメ・メディア業界が抱える課題とは?
MZ:エンタメ・メディア業界がフルファネルでFacebook&Instagram広告を活用しているという話がありましたが、これらの企業が広告の活用を進める中で、何か課題はありましたか?
古田:クリエイティブ制作と入稿作業の膨大化が課題になっていました。広告配信に使うコンテンツは、基本的には人気なものを当てるのが一般的です。ただ、どのようなコンテンツに興味を持つかは人それぞれ。人気があるからといって必ずしもすべての人に響くわけではありません。
そのため、出稿量を増やそうとすると、従来以上に様々なジャンルの作品を広告クリエイティブとして用意する必要があり、またそれらの作品に相性が良さそうなオーディエンスを作成して入稿する作業において、広告運用担当者に、担当者に大きな負担がかかっているケースが多く見られました。
ただし、私たちのチームでは、ダイナミック広告がそれらの課題を解消できるとして、積極的に導入を進めています。
MZ:ダイナミック広告ですか。ECや不動産、旅行などで活用されているイメージなのですが、エンターテインメント&メディア業界でも活用ができるんですね。
古田:確かに、ECや不動産、旅行で活用されるイメージが強いダイナミック広告ですが、エンターテインメント&メディア業界でも活用できるんです。
同業界は、記事や動画、マンガ作品など、膨大な量のコンテンツを抱えているにも関わらず、それらを広告クリエイティブとして有効活用できていませんでした。ダイナミック広告は、まさにその膨大なコンテンツを効果的に広告活用することができるソリューションなので、この業界との相性も高いと考えました。コンテンツを商品と捉え、各ユーザーに最適なものを提案すれば、ダイナミック広告も活用できるのです。
運用工数の点から見ても、ダイナミック広告は非常に有効です。マンガサービスやニュースアプリなどには膨大なコンテンツがあり、その中からユーザーごとに広告を出し分けようと思うと、大きな工数と時間がかかります。
しかしダイナミック広告であれば、FacebookとInstagramの広告配信システムが、自動的かつ最適にコンテンツとユーザーをマッチングしてくれます。担当者の手間が一気に削減できるうえ、より高い成果も期待できるんです。
ダイナミック広告活用のコツとは
MZ:エンターテインメント&メディア業界の皆さんは、ダイナミック広告を具体的にはどのように活用しているのでしょうか。
古田:一般的にダイナミック広告は、既存顧客へのリターゲティングに使われることが多いのですが、Facebook&Instagramにおいては、ダイナミック広告を新規顧客獲得に使えることが大きな特徴になっています。ただ一口に「新規顧客」といっても、クライアントによって欲しい顧客は当然異なります。「LTVが高くなるポテンシャルを持つユーザーを集めたい」「特定カテゴリのファンのユーザーを集めたい」など要望は様々あります。
そのようなクライアントの多様な要望にも、FacebookとInstagramのダイナミック広告は応えることができます。たとえば電子コミックサービスにおいて、CPA効率だけで考えると少女マンガのジャンルが良いけれど、ROASで考えると別ジャンルの効果も高いといったケース。Facebook&Instagram広告では、ユーザーが広告経由で購入した作品の金額を参照しながら、その金額が最も高くなるように配信する「バリュー最適化」メニューも使えるため、ダイナミック広告と組み合わせることで、より売上に直結する作品ジャンルを抽出し、最も相性の良いユーザーへ自動配信することができます。
MZ:アプローチしたい顧客に自動で配信できるということですね。ダイナミック広告を有効活用するためのコツを教えてください。
古田:まずは、自社が持つコンテンツをできる限り製品カタログとして格納することが重要です。つい人気のコンテンツだけ入れておけば良いと思われがちなのですが、申し上げた通りどのようなコンテンツに興味を持つかは人それぞれです。
コンテンツ量の多いサービスの場合、売上の低い商品群が、全体売上の大きな割合を占めるロングテール型の売上構成となっているはず。そのため、ニッチなコンテンツであってもどんどん製品カタログに追加すべきなのです。
ユーザーの嗜好性を捉える仕組みとは
MZ:ユーザーに響くコンテンツを保有しているのに、ユーザーに訴求できない状態は非常にもったいないですね。
古田:できる限りコンテンツを揃えていただければ、あとは各コンテンツが響きそうなユーザーをアルゴリズムで抽出して広告を配信します。それも、年齢や住所などただ表層的な情報だけでなく、行動から読み取れるインサイトを捉えたうえで届けます。
たとえば私は香港映画が好きなのですが、ダイナミック広告ではない従来の広告手法では、私に香港映画作品が表示されることは、ほとんどありません。なぜなら、私の年齢や性別といったデモグラフィックな情報だけで判断すれば、流行のハリウッド映画が好きだろうと広告運用者は予想するからです。
でもFacebookとInstagramのダイナミック広告の場合、私のオンライン上の行動をきちんと見たうえで香港映画、もしくはそれに近い作品がレコメンドされる。普通の広告では実現できないような、インサイトを突いたレコメンドができるわけです。
MZ:では、どのような仕組みで各ユーザーの嗜好性を判断しているのでしょうか。
古田:ダイナミック広告を利用する際、自社WebサイトにFacebookピクセル、アプリの場合はFacebook SDKまたは提携している計測SDKを追加いただく必要があるのですが、これを通じてFacebookが、各ユーザーのサイトおよびアプリ上の行動を学習します。
どのようなユーザーがどの作品に興味を持ち最終的に視聴したのか、その行動データを総合的に分析し、その分析をもとに、新規顧客においても相性が良いと予測した作品クリエイティブを配信しているのです。広告主も知り得ないようなユーザーのインサイトをあぶり出し、一番相性の良いクリエイティブを出すという一連の流れをすべて自動化しています。
今後はROAS、LTVを意識した活用促進を
MZ:今後、エンターテインメント&メディア業界での活用はどのように変化すると思いますか。
古田:現在はとにかく安く新規顧客を獲得するといった施策が多いですが、今後はROAS、LTV向上を意識した施策が増えていくと思っています。たとえば電子コミックサービスや動画配信サービスに登録したものの、コンテンツ量が多すぎて自分好みの作品が見つけられず、サービスの継続利用につながらないケースも多いと聞いています。そこで、InstagramやFacebookの広告でユーザーが好むと思われるコンテンツをレコメンドすることで、ユーザーがサイトに再来訪し、コンテンツを検索するという手間を省かせることができるため、効果的にサービス・アプリの継続利用を促すことができます。このような活用は今後促進していきたいですね。
また、海外配信へのニーズも高まると考えています。特にマンガコンテンツは世界中にファンがいるので、海外向けに電子コミックサービスの広告を配信する企業も少しずつ増えてきています。FacebookとInstagramの広告プラットフォームは万国共通なので、海外配信も簡単に行えます。
MZ:ありがとうございます。この解説を踏まえ、実際の活用状況について、エンターテインメント&メディア業界のマーケターに今後話を聞いていきたいと思います、お楽しみに!