クラシルのマーケ責任者とデジタルマーケ担当が登場
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、ご自身の担当業務について教えてください。
野村:delyのマーケティング部門を統括しています。いわゆるプロモーション、CRM、カスタマーサクセスといったユーザー接点の管理だけでなく、レシピの考案や動画の撮影、編集、デザインといったコンテンツの制作まで、クラシルにおけるtoCのマーケティングをすべて見ています。
栗原:クラシルのデジタル広告の運用を担当しています。主に新規ダウンロード数と利用者数の増加を目標にしています。
宮地:Facebook Japanでクライアントソリューションマネージャーをしています。主にクライアント様の広告運用やキャンペーン設計などについてアドバイスをする役割です。
水谷:私は、エージェンシーパートナーマネージャーという形で、広告代理店と向き合っています。以前、エンターテインメント・メディア業界のクライアント様を支援しており、その際にdely様も担当していました。
Instagramは発見のメディア
MZ:クラシルのInstagramアカウントは、いつ頃からどのような目的で立ち上げましたか。
野村:サービス開始当初の2016年には立ち上げていましたね。開設当時はクラシルも分散型メディアとして運営していたこともあり、まだアプリがありませんでした。そのため、Instagramアカウントはレシピ動画をより多くの方に知ってもらうための重要なメディアの一つでした。
現在は、アプリやWebといったオウンドメディアがメインの接点になっているので、InstagramをはじめとしたSNSは「オウンドメディア以外でユーザーと接点を作るための場」と定義しています。
アプリやWebでは、アプリを開いたり、能動的に検索したりしないと、クラシルを使っていただく機会がありません。ただ、Instagramではコンテンツのレコメンドや広告を通じてクラシルを知っていただけるので、そのような場所での接点作りは非常に重要だと思っています。
水谷:確かに、Instagramは発見のメディアとも呼ばれています。ふとしたときに自分の気になるコンテンツが流れてくるという出会いが発生するので、普段サービスに触れていない方にも届く部分はあると思います。
クラシル流・Instagram運用の秘訣とは?
MZ:アカウント運用を日々続ける中で、どのようなことを意識していますか。
野村:「アカウントとしてどういったコンテンツを提供することがユーザーにとっての便益になるのか」という点を突き詰めて考えることが非常に大事であるという前提で、そのために表現をどう工夫するとユーザーに届きやすいかを仮説立てながらPDCAサイクルを回し続けることを常に意識しています。直近では、カルーセルのフォーマットを使った投稿が効いています。特にInstagramのユーザーは、レシピを保存して後から見返していることがわかっていたので、「白菜レシピ3選」「つくりおきレシピ3選」とテーマ別にレシピをカルーセルでまとめました。
このように、Instagram上のユーザーの動きに、どういった意図があるのかを理解し、最適な形の発信を日々続けてPDCAを回し続けています。
MZ:マーケティングにおいてInstagramはどのような役割を果たしていますか。
野村:アプリやWebなど、自社で作っているサービス以外の場所で、ユーザーとの接点を作り、認知を取る役割を果たしています。Instagramはオーガニック投稿にはリンクを貼れないため、アプリストアへの遷移やダウンロード数にどれくらい寄与したかを直接的に見ることはできません。そのため、目的をアプリのインストールやユーザーのアクティブ化などの「直接的な貢献指標」に置いてしまうと、効果が見合わなくなってしまいます。
でもクラシルのInstagramをフォローして投稿を見てくださったり、保存をしてくださったりすれば「クラシルっていいな」と思ってくれる方も増えるはず。そしてふとしたタイミングで、クラシルのアプリの広告と接触したときにユーザーになってくださるのではないかと思っています。
ダイナミック広告で数万本のレシピ配信をほぼ自動化
MZ:広告活用に関してお聞きしたいのですが、現在はダイナミック広告をメインに活用されているそうですね。
栗原:Instagramでは、新規ダウンロードを目的とした広告はすべてダイナミック広告による配信です。それ以外の手法も試してはいるのですが、CPIが一番良い上に手間もかからないので、ダイナミック広告は非常に有効だと思っています。
また、Facebook広告のうち、Instagramフィード面への配信が6割〜7割となっており、我々にとってInstagramは、広告という視点でも重要な媒体になっています。
水谷:多くのコンテンツを持つエンターテインメント&メディア企業様と、ダイナミック広告の親和性は非常に高いと思います。レシピといっても、人によって見たいコンテンツは絶対に違うはず。それをマーケティング担当者が一つひとつ仮説を立てて入稿して、全部ターゲティング設定を変えるのは、大きな手間がかかります。
ダイナミック広告ではそうした作業を自動化できるので、数万本というレシピ動画をお持ちなら、絶対に移行したほうが良いとご提案しました。
MZ:運用工数が大幅に下がるダイナミック広告ですが、導入にはどのような手順が必要になりますか。
栗原:データフィード(製品カタログ)を作成して、それをFacebook上のサーバーにアップロードします。アプリの場合はSDKの実装も必要ですが、初期設定を一通り終えれば、非常に楽になると思います。
宮地:以前はデータフィードを作る際、すべてのコンテンツのタイトルや食品の材料など一連のデータを出さなければいけなかったので、非常に時間がかかっていました。しかし昨年リリースした「スマートピクセル」によって、その作業も自動化できるようになりました。データフィードの作成にかかる工数も削減できています。
野村:弊社のマーケティング部は開発部との連携もかなり密なので、導入はそこまで手間はかかりませんでした。広告入稿の作業時間が圧倒的に減ったので、他の業務をする時間が生まれました。
ダイナミック広告によってCPIが3割低下
MZ:ダイナミック広告を導入して、どのような成果がありましたか。
栗原:2017年の11月くらいに導入したんですが、導入前のCPIから3割削減でき、アプリのダウンロード数は約1.5倍になりました。ダイナミック広告を導入して、パフォーマンスも大幅に向上しました。
宮地:CTRも導入以前より、2〜3倍増えていますね。ダイナミック広告によって、ユーザーが知りたいと思うコンテンツを適切に表示できている証ではないかと思います。
野村:また、これだけの数字が出せているのは、アカウント運用に日々尽力しているからだと考えています。他のアプリディベロッパーさんに話を聞くと、Instagramに限らずどのメディアでも広告の効率がある地点からどんどん悪くなったり、配信ボリュームが少なくなったりするケースが多いです。
広告で接触できるユーザーは当然限られているので、普通はそうなっていくものだと思いますが、現状我々はそういった状況に陥っていません。オーガニックのコンテンツ投稿でより多くの方にリーチできていることで、広告に接触したときに響きやすくなっていると考えています。
MZ:貴社の広告費の中で、Instagramの占める割合はどの程度になりますか。
栗原:Instagramに投下している割合が一番大きいです。獲得単価もInstagramが一番良いので。
MZ:delyがこれだけダイナミック広告を効果的に活用できている理由はどこにあると思いますか。
宮地:変に配信範囲を狭めず、アルゴリズムに任せた運用を心がけてくださっているのが大きいですね。また、クラシルはデータフィードの更新も自動化しているので、常に最新のコンテンツが揃っているのも素敵な点だと思います。新しいコンテンツを日々反映していかないと、季節や流行に合わせたコンテンツ提案ができなくなってしまうので。ダイナミック広告で成果を上げるには、データフィードを常に最新の状態にすることが非常に重要です。
さらなる効果拡大のために
MZ:クラシルでは、今後どのようにInstagramを活用していきたいですか。
栗原:Instagramの新しい機能を試した広告にどんどんチャレンジしたいです。また、新規でダウンロードしてくれそうな方に需要があるレシピをどれだけ作ることができるかも重要なので、コンテンツ開発にも注力していきたいと思います。
野村:引き続きInstagramの広告を活用していきたいと思っています。ただ、広告運用だけに注力しても、部分最適で規模が縮小していくリスクがあるので、様々なマーケティング施策に取り組まねばならないと思っています。現状は少数精鋭で人材も足りていないため、人材採用にもかなり力をいれています。
また、Instagramをきっかけに物が売れるケースもよく見かけるので、そういったコマースを目的とした活用も仕掛けていきたいです。
MZ:Instagramとしてはいかがでしょうか。
宮地:dely以外にも、マッチングアプリや漫画アプリなど様々なエンターテインメント&メディア企業でダイナミック広告の活用が進んでおり、効果も出ています。コンテンツを保有する企業であれば、一度試す価値はあると思うので、今後も様々な企業にチャレンジしてもらえるよう支援に尽力したいです。
水谷:クラシルのように、個々のユーザーがより受け入れやすく、関心を示しやすいコンテンツを表示するというのは、広告のあるべき姿の一つだと思っています。
ダイナミック広告がもっと普及していくと、ユーザーファーストな広告も増えていくと思うので、挑戦してもらえる企業を増やしていけるよう、今後も頑張ります。