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“意味のイノベーション”で問い直す、生活者との関係性

リサーチ・データで正解探しの罠に囚われないために “意味”を起点に次のヒットを考える

 生活者の価値観は多様化の一途をたどり、商品やサービスはコモディティ化の波に飲み込まれつつある。「性能の優れた商品を、マス向けに宣伝する」というマーケティングの手法に限界が見え始め、企業には、生活者の文脈に寄り添いながら、自社の商品がもつ価値(=意味)を丁寧に伝えていくことが求められるようになった。本連載では、デザイン思考と相対する「意味のイノベーション」の考え方を通じて、生活者との関係を問い直しながら、ヒット商品・強いブランドを構築していく方法を解説する。

コモディティ化を乗り越えるには

 筆者の属するミミクリデザイン(note:@mimicry)では、ワークショップを通じて企業が新たな商品や事業、マーケティング活動を展開する支援をしています。たとえば飲料メーカー様とのプロジェクトでは、新たなお酒のコンセプトを開発するため、生活者の「夜の時間」にはどんな意味が存在しているのかを、量的/質的なリサーチとワークショップを通じて検討してきました。

 日々マーケターや商品開発の担当者に向き合う中で感じるのは、多くの企業が「生活者の価値観が多様化していてつかめない」「技術やコンセプトで差を付けても、すぐにコモディティ化してしまう」「長くブランドに興味をもち続けてもらうのが難しい」といった課題を抱えているということ。同時に、これまでとは違ったやり方で生活者との関係を構築していく動きが見え始めているのも事実です。

 本連載では、そのヒントとなり得る「意味のイノベーション」の考え方を紹介し、マーケティングの実践に活かしていく方法についても、具体的にお伝えしていきます。

生活者が求めているのはモノではなく、その意味

 「意味のイノベーション」は、イタリア・ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ教授が提唱した理論です。ベルガンティ教授は、生活者が求めているのは商品やサービスそのものではなく、自分にとっての「意味」であり、企業はアイデアやソリューションではなく、人々にとっての意味を届けることが重要であると説いています。

 たとえば任天堂のWiiは、意味のイノベーションの優れた事例として知られています。たいていの場合、子どもが一人で熱中するものだった家庭用ゲーム機に、「操作に詳しくなくても遊べる」「家族みんなで楽しめる」といった新たな意味を与え、ゲーム機と生活者との間に新しい関係を構築したのです。

 また、近年注目を集めているデジタルサービスの中にも、利便性を高めただけでなく、サービスがもつ意味を根本的に変えてヒットした例が見つかります。

Spotify ムードミュージック

古い意味:音楽ストリーミングサービスを使う理由は、音楽に簡単にアクセスしたいからだ。
新しい意味:音楽ストリーミングサービスを使う理由は、その時々の状況に合った新しい音楽を探したいからだ。

Airbnb

古い意味:トラベルサービスを使う理由は、安全で質の高いホテルを見つけたいからだ。
新しい意味:トラベルサービスを使う理由は、現地の本物の社会文化生活に触れたいからだ。

※出典:『突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』ロベルト・ベルガンティ(著)pp.317-318。

 一方、性能に優れ、トレンドに即した商品であっても、思うように売れないケースも存在します。それは、生活者側の商品に対する解釈が大きく変化していないことが原因であると考えられます。ベルガンティ教授は以下のような図を示しながら、いかに急進的な意味の革新を起こすかが重要であると指摘しています。

『デザイン・ドリブン・イノベーション』ロベルト・ベルガンティ(著)を基に筆者作成
『デザイン・ドリブン・イノベーション』ロベルト・ベルガンティ(著)を基に筆者作成

 図の左上「テクノロジー・プッシュ・イノベーション」は、技術の急進的な変化によって起こるイノベーションで、左下の「マーケット・プル・イノベーション」は、ユーザーが既にもっていた潜在的なインサイトを見出し、それを実現させることによって起こる緩やかなイノベーション。どちらも、生活者がもっていない新たな意味を引き起こす「意味のイノベーション」とは区別されるものです。

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この記事の著者

小田 裕和(オダ ヒロカズ)

株式会社ミミクリデザイン ディレクター/デザインリサーチャー。東京大学大学院 情報学環 特任研究員。千葉工業大学大学院工学研究科博士課程修了。 博士(工学)。千葉県出身。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、そのための教育と実践のあり方について研究を行なっている。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/23 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32552

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