25社の“倒産に至る過程”が教えてくれること
今回紹介するのは、荒木博行氏による『世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由』。荒木氏は2社の経営に携わりながら、グロービス経営大学院において「マーケティング・経営戦略基礎」などの科目を教えています。実務と教育の両方の場面で、失敗事例は貴重な学習材料になると感じてきたことから、本書の執筆に至ったそうです。
本書は25の企業の倒産理由を「戦略上の問題」と「マネジメント上の問題」の2つに分類し、その過程を紹介しています。特徴は「その会社はなぜ間違えたのか」「私たちは何を学ぶべきなのか」という解釈に、多くのページが割かれていること。経営層に限らず、マーケターも含め様々な立場のビジネスパーソンが、自分の置かれている状況に当てはめて考察できるよう工夫されています。
分析できないことにはチャンスがある
たとえば、インスタントカメラで有名な「ポラロイド」の倒産から著者が引き出した学びは、「分析」と「学習」のバランスをとることの重要性です。
ポラロイドは、スティーブ・ジョブズ氏が「国宝」と呼ぶほどの才能をもっていた発明家・科学家のエドウィン・ハーバート・ランド氏が設立した企業。1947年に発表したインスタントカメラで大きな成功を収め、小型化や画質向上を達成することでシェアを拡大していきましたが、ライバルメーカーのコダックやオリンパスといったメーカーが次々と市場に参入してきたことで、優位性を失っていきます。
もちろん同社はそれを黙ってみていたわけではなく、デジタル技術をベースにした商品の企画・開発を進めていました。ところが、市場が未知数だったことや自社のフィルム需要を奪ってしまう可能性があったことから、最終段階で商品化を躊躇し、結果的にアナログカメラのブラッシュアップに多額の研究開発投資を振り向けてしまいます。そうしてデジタルカメラの本格的な時代が到来した頃には、他のプレーヤーに置き去りにされてしまったのでした。
著者曰く、同社の失敗は、市場が存在していない新しいビジネスは「分析」が難しいにもかかわらず、既存事業と同じ尺度で測ろうとしてしまったこと。「新たな技術を一旦世に出した上で、市場の可能性を『学習』していく」姿勢が欠けていたのです。
私たちは常に「学習気質」を同時にインストールしておく必要があるのです。つまり「分析できないことにはチャンスがある。失敗を通じて学習していこう」というスタンスです(p.38)。
分析できることや説明可能なことには着手しやすい一方、未知の領域に踏み込むのは覚悟が必要です。しかしマーケターが「分析」と「学習」を同時に進めていくことは、企業が正しい方向へ進んでいくために欠かせないはず。このように本書は、一見遠い世界の出来事に感じられる「倒産」を教材に、日々の行動や意思決定に活かせる示唆を与えてくれます。
ちなみに著者は、本書の執筆にあたってインタビュー等は実施せず、書籍などの公開情報のみを基に書き上げたそうです。目的を的確に設定し徹底的にリサーチすることで、既に公開されているデータからこれほど深く学ぶことができるというのも印象的です。読者の立場や視点に応じて、様々な読み方ができる本書を、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。