人材の不足がDXの進展を阻んでいる
ここ数年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が様々な場で語られていますが、未だ取り組めていない企業も多く存在します。果たして、DX推進を阻む障壁とは何でしょうか。当社が実施した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション&デジタルマーケティング 2019年度調査」によると、その筆頭として「投資コスト」が上げられています(図表1)。DXプロジェクトは大規模・長期間になる傾向にあるため、必要コストを不安視する声が多くなっているのです。
一方で、次点としてあげられているのは「スキル・人材不足」です。この課題意識には、デジタルやテクノロジーに関するスキルや専門性を有する人材が企業内で不足しており、市場全体でも希少性が高くなっている現状が色濃く反映しています。
一般社団法人情報サービス産業協会の「JISA-DI調査」によれば、情報サービス産業の雇用不足感(DI値)は2018年度末時点で79.2ポイントを記録しました。これは9四半期連続の悪化であり、需給ギャップが持続的に拡大していることも踏まえると、DXの推進に欠かせない、テクノロジーを基盤とするとする人材の不足は深刻な状況にあります。
いかに巧みな戦略を描き、洗練されたサービスを考案したとしても、これを具現化するのは人材です。推進するリーダーやスタッフをどう確保・育成するか、すなわち他社に先駆けた人材難の克服が、DXの実現に極めて重要な論点となると言えるでしょう。
たとえばCDO(チーフデジタルオフィサー)は、デジタル時代の経営層として、認知が広がっている新たな役職です。DX推進のリーダーは誰かと問われた際、最も多いのは、CIOという回答ですが、CDOと回答する人の割合も増加しており、旗手としての期待が高まっています(図表2)。
実際に、CDOの設置有無は、DXの取り組み度合いを大きく左右します。CDOを設置してDXを担当している場合、複数領域で大規模に取り組まれる割合が高く、CDOを置いていない企業を大きく引き離しています(図表3)。
一方で、CDOを設置している企業はまだまだ限られています。総務省の「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)によれば、設置している日本企業は約5%で、欧米と比較して大きく立ち遅れています。また設置している場合でも、CIO/CTO/CMOとの兼務や、インターネット担当セクションの部長級が務めているケースが多いのが実情です。経営層の一員として、裁量と責任を持ち、全社変革に取り組むリーダーとしてのCDOが次々と生まれることが期待されます。