リアルとデジタル、OMO施策におけるKPIとROIの定め方
ディスカッションは、SHIBUYA109エンタテイメントの澤邊亮氏、ワコールの篠塚厚子氏をパネリストに迎え、ECエバンジェリスト/ビジョナリーホールディングスの川添隆氏がモデレータを務めた。
「今回のMarkeZineDayのテーマは『見えないものを視る』。答えのない問いに対して、どう自分たちで考えていくか。小売として向き合っていくべきテーマだと、私自身も実感している」と川添氏はセッションの口火を切った。
そして冒頭、川添氏よりオムニチャネルとOMOの解釈の違いついて解説された。
「ユーザーの顧客時間軸で考えると、オムニチャネルは選択から購入までの領域にとどまっている。図表では疑似的な“四次元ポケット”と書いているが、どんなチャネルでも欲しいモノが手に入る環境をお客様に提供するのがオムニチャネル。企業側としてはモノが手に入る環境を整えることにオムニチャネルの意義がある。
一方でOMOに関しては、購入後のブランド体験からモノを手放すまで領域が広がっている。デジタルを経由して、いつでもブランドにアクセスできることが前提。そしてサザエさんのサブちゃんのように、常にお客様にストレスや不安のないモノ・サービスを提供できる関係性を構築することを目指し、顧客が物理的にも精神的にも取引コストを下げることができる世界だと考えている」(川添氏)
これを受けて、SHIBUYA109エンタテイメントと、ワコールの取り組みが紹介された。
SHIBUYA109エンタテイメントは、SHIBUYA109ブランドを活用したショッピングセンター(SC)運営を軸に、ネット通販事業、施設のイベントスペース運営事業、壁面を活用した広告・メディア事業や直営事業などを展開し、新規事業にも力を入れている。澤邊氏は、SCの運営、EC事業やオウンドメディアの「109ニュース シブヤ編集部」の立ち上げにも携わってきた人物だ。現在は、「SHIBUYA109総支配人」「MAGNET by SHIBUYA109総支配人」という立場で、オムニチャネルやOMOの推進を担っている。
一方、女性向けインナーウェアの開発・製造・販売を手がけるワコールは、2019年5月に新サービス「3D smart & try」(女性限定)を開始した。同サービスは、3Dボディスキャナーによる計測が、セルフサービスで利用できるもの。利用者は計測したデータをもとに、自分の3Dアバターや計測値、体型特徴分析を見て楽しめるほか、AI(人工知能)と会話しながら商品をチェックしたり、ビューティーアドバイザー(販売員)のアドバイスを受けながら下着を選択したりできる。
篠塚氏は「『自分に合った下着は欲しいが、(販売員がサイズを測定する)フィッテングには抵抗がある』という女性は少なくありません。特に若い方は対面での接客よりも、デジタルを好む傾向にあります。3D smart & tryは自分のボディデータをもとに、体型を管理するボディケアサービスの1つです」と説明する。
当初、篠塚氏は3D smart & tryの第一号店は「スモール実験」程度の規模で考えていた。しかし、上司からの提案は表参道ヒルズでのポップアップ開催。経営陣の期待と覚悟を感じた。KPI(Key Performance Indicator)は「関心を持ってくれた人数」だ。結果、想定した人数を大幅に上回る顧客が来店した。篠塚氏は「最初は、『こんなに人通りが多くて、人から見られる場所で“自分の身体を計測すること”に興味を持って立ち止まってくださる人がいるのか』と不安でした。しかし、結果的にはお店の外にも列ができるほど、多くの方に関心を持っていただけました」と振り返る。
一方、SHIBUYA109エンタテイメントのKPI やROI(投資対効果)は、目的によって異なるという。澤邊氏は「商業施設の場合、その目的によって見る数字も実施する施策も違います。さらにECとリアル(実店舗)では、ROIの軸自体が異なります」と説明する。