デジタル施策で再確認した、リアル店舗の役割
ワコールとSHIBUYA109エンタテイメントに共通する姿勢は、顧客理解に注力していることだ。篠塚氏は3D smart & tryを、「お客様に対して(自分の体のサイズを知るという)発見の機会を提供するサービス」だと説明する。
3Dスキャンデータにより顧客は、自分の体型を客観的数値で可視化できるようになった。篠塚氏は「数値をトリガーに、新たな接客のあり方も生まれました」とも語る。
「お客様は自分の体型データを指さしながら、理想とするボディラインや製品に対する要望を聞かせてくださいました。ワコールとしても、お客様が本当はどの部分を気にされているのかなど、言葉だけではわからなかった情報が得られ、次の製品開発に活用できる新たな気づきをいただきました」(篠塚氏)
とはいえ、3D smart & tryは順風満帆でプロジェクトが進行したわけではない。デジタルを活用した『セルフサービス』を導入することで、売り場の販売員からは「自分たちはいらなくなるのでは?」との不安の声が上がったという。
しかし、予想はよい方向に裏切られた。セルフサービスを実施した顧客は、デジタルデータを“たたき台”に、販売員にアドバイスを求めるケースが多くなった。篠塚氏は「販売員はコンサルタントの役割を担う、重要な存在であることを再確認しました」と説明する。
データをトリガーに新たな顧客像を知る
データをトリガーに新たな顧客像を知る取り組みは、SHIBUYA109エンタテイメントの専門分野だ。モデレータの川添氏は、澤邊氏を「ミスター顧客理解」と呼ぶ。SHIBUYA109エンタテイメントでは2018年5月に10~20代に特化した若者マーケティング研究機関「SHIBUYA109 lab.」を設立した。
「SHIBUYA109 lab.」では毎月グループインタビューや館内調査などを実施し、10~20代のトレンドや消費行動、価値観などに関するデータを収集している。澤邊氏は「そうした調査データから明らかになったのは、若い世代のトレンドは、上の世代が想像しているものと違うことです」と指摘し、以下のように説明する。
「たとえば、『好きなファッションブランドは?』という質問の回答、でいちばん多かったのが『特にない』でした。昔は好きな『好きなブランドの服だから買う』という“軸”がありましたが、今はSNSなどで情報を収集し、『自分が好きなスタイル』を軸に購入を決定します」(澤邊氏)
「さらに、以前よりも様々な情報ソースがありますから、よく吟味する傾向が強い。SNSの投稿やお店のWebサイト、実店舗にも(吟味のために)足を運びます。そこにはECとリアル店舗の境目はありません。午前中にSHIBUYA109に来店した人が、夕方に再来店して購入するという具合です」(澤邊氏)
篠塚氏も「その場で買わずに吟味する」という傾向は、SHIBUYA109の顧客と同様だという。「3D smart & tryのメイン顧客層は20代後半です。我々はいつのタイミングで一番納得して購入いただけるのか。そのトリガーとなるのは何かを理解することが大切です」と篠塚氏は賛同する。