※本記事は、2020年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』52号に掲載したものです。
勢いよく買収したD2C(DNVB)を売却と縮小へ
オフラインの流通業態の変革について、日本では米国Walmartの事例が取り上げられることが増えてきた。確かにオンラインから牙城を築くAmazonに対して、オフライン店舗出身の事業者の中でWalmartだけが「孤軍奮闘」している。
既に破産したBarneys New Yorkだけでなく、巨大百貨店Macy’s、JCPennyらの不振や、アパレルブランドの破産・閉店が相次ぐ中で、Walmartは2020年1月31日に発表した年度末決算では米国のオンラインの売上を対前年比37%増加させている。
日本でも三越伊勢丹や丸井グループをはじめ、相次ぐD2Cブランドへの投資が始まっているが、これらの一見華やかな新D2C事業立ち上げ(M&A)の流れは、単にWalmartの3年前のトライアルを、改良なきままに後追いしている印象を受ける。
その表面報道とは別に、Walmart内部では既にオンライン事業に関する「息切れ」が起きているのは、あまり報じられていない。推定によるとWalmartの2019年のオンライン事業の「売上」規模は約2.3〜2.4兆円(210〜220億ドル)。ところが営業利益は約1,870億円(17億ドル)の赤字であり、2018年の約1,540億円(14億ドル)の赤字幅からさらに増加している状況のようだ。
赤字の要因は、これまで買収してきたD2C(DNVB)事業の不調にある。Walmartは2017年から2018年にかけて、男性用衣料品ブランドの「Bonobos」や女性用のプラスサイズの衣料品「Eloquii」をはじめ、15社以上のDNVBを買収していた。既にWalmartは2019年にはこれらの買収を中断し、買収済みブランド「ModCloth」を売却、そしてDNVBの名付け親であったBonobosのアンディー・ダンCEOも手放してしまった。
筆者もDNVBには感銘し称賛する立場であったが、WalmartのDNVB買収戦略は「顧客ファネルの入り口」に手を出しただけで「出口なき」施策で終わった。DNVBという「球根」を買収し、Walmartの流通土壌での育成により、既存のWalmartの来店客とは違った新たな客層という「作物」を収穫しようとした。ところが土壌の改良が間に合わず、顧客との接点はブランドが持つエネルギーとともに徐々に喪失していった。
失敗の要因は、顧客に密着したディストリビューション網での支援が組めなかったことにある。Walmartは、DNVB買収策を2年という期間で反転・売却に踏み切り、損失を最小化させて、次の手を打っている。