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米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

WalmartのD2C(DNVB)売却の裏側

「既存店舗を活かす」という甘い言葉が持つ危うさ

 Walmartは、2019年半ばから、「既存の」4,600店舗を活かした食料品配達サービス「Delivery Unlimited」を開始し、Amazonと勝負をしようとしている。現段階の生鮮品宅配競争では、WalmartのほうがAmazonより優位だが、この「既存店舗を活かす」戦略が吉と出るかどうかはまだ不明な部分が多い。

 一方でAmazonは、総合配送センターへ巨額の投資を行い、その端末として「Amazon Prime配送車」を展開し、ダイレクトに顧客宅につながる勢いを増している。既に配送の「自動化」までの投資レールを引いているのは想定内。全米における総合配送センターの拠点数は、Amazonの110拠点に対して、Walmartはまだ20拠点しか投下できていない。Walmartがリアル店舗を利活用するために起こるジレンマが、この数字には表れている。

 Walmartはインハウスのブランド作りのテストを始め、自社の店舗配送に頼らない配送センターへの投資を急いでいる。店舗を軽んじるのではなく、店舗客の「目(インプレッション)」は保持しつつ、パイプの出口で稼ぐという「飴玉」を構築しはじめた。

Walmartを先回りできる日本市場への明るいヒント

 実店舗という負債をオンライン上の資産に逆転させたいと願うWalmartのジレンマは、現在の日本の都市通勤圏においては、実は先回りできる有利な環境が揃っている可能性がある。日々の食料品を中心とした「日用品の買い物」に関して、「通勤・帰宅中」「土日の行楽の帰り道」に、消費者が自ら「無料配達人」となって持ち帰る習慣が米国に比べて圧倒的に多いからだ。定量的なデータでは比較できないが、日本でのコンビニやスーパーの立ち寄り頻度が車社会の米国よりも多そうなのは想像しやすい。車社会の米国よりも、日本では安価に早くディストリビューションのパイプの「出口」を構築できる可能性がある。

 現在の日本の百貨店やチェーンストアが「来店時体験」のUX強化とばかりに、テーマパーク的な「入り口」のエクスペリエンス向上を目指しても、実はLTVの最大化には限界がある。サクサクと会計と持ち帰りが便利な匿名プライバシーに配慮したオンライン+「出口システム」を構築すれば、「配送」というコストを削減した世界に類を見ないサービスパターンが誕生する可能性すらある。

 現在のキャッシュレス化促進のその向こう側に「立ち寄り・持ち帰りの便利さ」が大きな価値を持つ。日本にはD2C事業への投資以前に、LTV最大化に向けた「意外な」特徴がここにありそうだ。「割引・ポイント」といった入り口への出費よりも、圧倒的な価値を生む出口に投資している企業はどこか。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/04/24 15:15 https://markezine.jp/article/detail/33257

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