パートナーとバリュー・チェーン全体での価値創出へ
MarkeZine編集部(以下、MZ):両社では協業してリテールAIの活用を進める活動を行っていると聞いています。まず、その背景について教えてください。
永田:背景にあるのは、2012年に弊社が生活者へ提供する価値を、パートナー企業とバリュー・チェーン全体で高めていく“取り組み”が必要だと考えたことです。それまでは、バリュー・チェーンの川上から川下までを自社で揃える「自前主義」を掲げていたのですが、それでは難しいことが明らかになってきました。
そこから熟考する中で出会ったのが、マイケル E. ポーター『競争戦略論Ⅰ』(ダイヤモンド社)に書かれていた、クラスター戦略(関連する企業群が1つとなって成長を目指す戦略)です。我々はこの戦略を参考にし、自社の利益最大化のために互いの領域を侵犯し合う“取引”ではなく、関連企業を含めた“取り組み”で生活者に提供する価値を高めていく方向に舵を切りました。
そして、クラスター戦略の実現には、自社と関係各社の役割を明確に示す必要があります。弊社はメーカーへのデータ共有が一番貢献できる役割だと感じていました。そして、このビジョンを共有し、一緒にイノベーションを起こせるメーカーとの取り組みをスタートしたのがリテールAIの活用が始まった背景です。
トライアルの持つデータをマーケティングに活用
MZ:では、そのクラスター戦略の取り組みに、サントリー酒類(以下、サントリー)も参画したのでしょうか。
中村:実は、最初我々は参画企業には入っていなかったのです。トライアル様と各メーカーが集合し、クラスター戦略を掲げて流通ステークホルダー内での「ムダ・ムラ・ムリ」を、AIの力を使って効率化していく構想を別のところで知りました。
トライアル様は、ITの力でデータを見える化するプラットフォーム作りにも注力されていて、そのデータをマーケティング活動に活かせたら相乗効果が生み出せると思い、自らお願いしてオブザーバー的な立ち位置で参画したのが始まりでした。
参画して以降はクラスター戦略を実現すべく、トライアル様の持つデータをブランド育成の観点で各メーカーや特約店などと共有しつつ、サントリーとして「ムダ・ムラ・ムリ」を削減するために何ができるかを考えて提案させていただいてました。