長時間のプログラムは難しい?
――先ほど休憩時間と個人ワークの話がありましたが、オンラインの場では、長時間のプログラムは難しいものなのでしょうか。
小田:連続で行うなら、長くても1時間半が限界だと思います。私たちは基本的に、1時間に1回は休憩を入れるようにしていますね。
オンラインは身体性に拘束がかかりやすく、疲れやすいためです。カメラが固定されていて画面の前から離れられなかったり、イヤホンというひもでつながれている状況だったりして、身体を動かしにくい。常に見られているかもしれないという心理的な拘束もかかっています。
――オフラインとは異なる配慮が必要なのですね。
小田:一方で、だからと言って長時間のプログラムが難しいかと言われれば決してそんなことはなく、既に4時間以上のプログラムも何度も実施しており、うまくプロセスを設計すれば、1日のワークショップも可能だと考えています。
参加者が休憩中もずっと座りっぱなしにならないよう、声かけにも工夫をしています。「ぜひ飲み物を用意してきてくださいね」とか「休憩時間におすすめの本を紹介してほしいので、本棚から持ってきてください、休憩明けに紹介してもらいます」といった声かけで、PCの前から意識的に立ち上がってもらっています。

居心地の良いカフェのような場を目指す
小田:もうひとつ、オンライン・オフラインに関わらずワークショップで僕たちが大切にしているのは、参加の仕方を多様に確保してあげること。一番良い状態のコミュニティは「居心地の良いカフェ」に例えられるんです。
――詳しく教えてください。
小田:ずっと居たくなるような、あるいは常に心地よい活気で溢れるカフェは、その場への参加の仕方にグラデーションがあります。常連さんばかりでは入りづらいし、一見さんばかりでは居心地が良くない。入り口は入りやすい雰囲気があり、奥にいけばちょっと静かで常連さんがくつろいでいる。
様々な人がひとつの場に集まっていると、そこで話されていることから互いに学び合うような動きが生まれます。実際にカフェが充実していたことが、様々な芸術家が新たな文化を生み出していくことにつながったとも言われています。
ワークショップやイベントも、人によってその場へのコミットメントやコミュニケーションの特性が違うことを考慮する必要があります。モチベーションにもばらつきがあって当然です。いろんなパスをデザインすることで、どんな人でも参加しやすくなる良い場につながります。
――先ほどの「役割を選んでもらう」話と、通じるものがありますね。
小田:そうですね。その話と組み合わせて、深く参加したい人も、ライトに参加したい人も内包し、参加の仕方をデザインしてあげる。よりアカデミックに紐解けば、「実践共同体」という考え方とつながります。
たとえば自社プロダクトに関する様々な意見をユーザーから拾い上げるイベントをオンラインで企画しているとします。でもいきなり「自分のプロダクトについて改善点を出してください」といっても、なかなか難しいですよね。最初にプロダクトをフルに活用してくれている人の経験を直接シェアしてもらい、その後チャット欄に愛のある指摘を書いてください、といったように、直接音声と映像で参加してもらう形と、テキストベースで参加してもらう形を使い分けたり、投票機能にちょっとしたひねりを加えた項目を用意したりすることが有効でしょう。
バスキュール社が開発した「Connected Flip」のように、新しいツールもどんどん生まれています。当然参加者がついていけないほどの設計をしてはいけませんが、まだまだオンラインの場作りの可能性は広がっていくと考えています。
私たちが実践にあたってアカデミックな理論を重視しているのは、単なるノウハウではなく、考えるためのまなざしがそこにはたくさん詰まっているからです。これだけ大きな変化が訪れている今だからこそ、場当たり的なノウハウに終始するのではなく、基本から考え直すことが大切です。ぜひ今回紹介したまなざしを皆さんの現場に取り入れてみて、新しい場作りに生かしてみてください。
――本日はありがとうございました。