オンラインへの移行で陥りがちな“手段の目的化”
――小田さんはこれまで多くのワークショップをディレクションしているとうかがいました。オンラインでの開催に移行していかがですか?
小田:はい。SHIBUYA QWSで展開している「QWSカルティベーション」というプログラムや、企業向けの商品開発のワークショップをオンラインで行ってきました。
オフラインで行ってきたイベントやワークショップをオンラインで開催する際、陥りやすいワナがあると感じています。それはオフラインの良さを“再現”しようとしてしまうことです。イベントやワークショップで達成すべき目的があり、それを達成する手段として場づくりをしているはず。「オフラインでやってきたことをオンラインでもやらなければ」と考えるのは、手段が目的化している状態です。
ミミクリデザイン マネージャー/デザインリサーチャー 小田裕和氏
商品開発や人材育成のプロジェクトを中心に、ディレクションやファシリテーションを担当。意味のイノベーションやデザイン思考といった方法論や、そのための教育と実践のあり方について研究を行っている(MarkeZineでの連載はこちら)。東京大学大学院 情報学環 特任研究員。 博士(工学)。
小田:私たちがワークショップを展開する上で大切にしているのは「創造的な対話の場で学習や創造を生み出す」ことです。すでにオフラインで実績があったプログラムだとしても、オンライン環境で大切にしている姿を実現するためにはどうすれば良いのか、という視点でプログラムを設計し直しています。
――オフラインでやってきたことをスライドさせればよい、というわけではないのですね。再設計にあたり、どんなことを考えていけば良いのでしょうか。
小田:まず整理したいのは、どのようにオンライン環境を捉えて設計していくかということです。私たちは教育学の研究をベースにヒントを得ていますが、中でも「学習環境デザイン」という領域で扱われている捉え方がまず大切になってきます。
小田:学習環境デザイン論では、場のデザインを「活動」「空間」「共同体」「人工物」4つの要素の組み合わせとして考えます。学習の場で捉えれば、どんな空間で、どんな仲間と、どんなものを用いて、どのような活動を通じて学ぶのか、ということです。これは、学習の場以外にも展開できる捉え方で、合コンのメタファーでよく説明するのですが(笑)。
活動:どんなアクティビティを通じて親睦を深めるのか。
空間:どの街でやるのか(恵比寿なのか新宿なのか)、どんなお店でやるのか(値段や広さ)。
共同体:どんな関係性の人たちが集まるのか。友達同士なのか初対面なのか。
人工物:参加者の服装、出てくる料理はどんなタイプか。
小田:このような要素の組み合わせで合コンという場が立ち上がるわけですが、何か1つでも違うと、そこから生じる関係性の質は大きく変わるということがイメージできると思います。セミナーやイベントも、オフラインからオンラインに変えただけでも、生み出される関係性の質は大きく変わってくるはずです。
――確かに、オンラインの利用によって地方の人が参加できるようになるといった可能性も見えてきています。
小田:そうです。それは新しい共同体のあり方だと思います。私たちがコロナ禍でオフラインでの活動に制約が生まれてもあまりギャップなく展開できているのは、この4要素を分けて場を捉え再設計することができたからだと思います。