マス・デジタル施策の分断が課題に
KDDIではこれまで、テレビCMを中心に広告宣伝を展開し、「三太郎」シリーズや「意識高すぎ!高杉くん」といったインパクトの大きいテレビCMでユーザーにブランドを印象づけてきた。テレビCM以外にもデジタル広告や交通広告、イベントなど様々な広告宣伝を行っている同社だが、これまでメディアごとに担当部署が分かれ、年間を通じてメディアごとに割り振られた予算の範囲内でそれぞれが広告宣伝施策に取り組む体制となっていた。
もちろん、全メディアが目指すべき共通の目標は定めていた。しかし、その目標に対して各メディアがどのような役割を果たすかを担当間で共有することはなく、マスメディア、デジタルメディアで統合的なアプローチが行えていなかった。
またそうした施策を行った効果測定データについても、これまでは各担当がExcelで個別に管理しており、ばらばらの状態だった。効果測定データを閲覧したいと思っても、データベースのどこにあるのか見つけることすら困難で、その都度各メディア担当者に「データを送って欲しい」と依頼をしていたという。
「広告宣伝効果分析プロジェクト」を開始
そこで同社は2019年3月、「広告宣伝効果分析プロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトを率いた馬場剛史氏は、その背景を次のように語る。
「これまでマス広告とデジタル広告で担当チームが分かれていて、費用のかけ方も広告宣伝計画の立て方もまちまちでした。その結果、目指すKPIに対してどのメディアやクリエイティブがどのように効いていて、どう貢献しているのかがわからず、予算の計画も立てにくくなっていました。今の時代、テレビCMを見ない人も増えてきたり、消費者のメディア接触が大きく変化している中、マス・デジタルの最適な組み合わせで、費用最小でリーチを最大化できるかが大きな課題でした。そのため、マスメディアとデジタルメディアのチームを統合し、すべてのメディアを一気通貫して一つの部署、一つのプラットフォームで管理することにしたのです」(馬場氏)
あらゆるメディアの効果検証を一気通貫で行うことで、貢献度の高いメディアに適正に予算をアロケーションしようと考えたのだ。
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オン・オフのデータをすべて「Datorama」に統合
組織体制の変更とともに着手したのが、すべてのデータをひとつのダッシュボードで統合すること。リサーチを重ね、慎重にヒアリングを行った結果、セールスフォース・ドットコムの提供する「Datorama(デートラマ)」が最適だと判断した。様々な取引先から利便性や信頼性の高さについて聞き及んでいたこと、大手企業の導入・効果改善実績が豊富だったことが後押しになったという。
「広告宣伝効果の可視化はかねての課題だった」と馬場氏はいうが、組織変革に着手し新たにデータ統合プラットフォームを導入するのは、ひと筋縄ではいかなかったはずだ。その点について「導入にあたり、力を入れたところが2つあった」と馬場氏はいう。
「まず、『データを集めてくる』ことに奔走しましたね。各チームで管理していたExcelなどのデータがどこにあるのかをヒアリングし、一ヵ所に集約するのは、多くの時間と労力がかかりました」(馬場氏)
「Datorama」に統合したのはデジタル広告の出稿実績やブランドサイトのPV数はもちろんのこと、オフラインメディアであるテレビCMのGRPデータや、第三者調査機関による調査データなど多岐にわたる。直近では、au PAYの決済データなど実績データとの連携も行い、分析の範囲を拡大している。今後は店頭への来店者数など、営業実績データとの連携も視野に入れている。
集約したデータは「マゼラン」にエクスポート
もう一つ馬場氏が注力したのは、社内の意識統一だ。
「それまで各メディア専任の担当者がいて、その人が管理していたデータを『あなたのデータを出してください、ひとつのダッシュボードで一元管理してチームで共有しますから』ということなので、新しい仕組みの必然性をしっかり説明する必要があります。それはメンバーだけでなく、経営陣に対しても同様です。Datoramaと『XICA magellan(以下、マゼラン)』を導入することで、短期的な工数やコストの削減にとどまらず、広告宣伝が事業にどう貢献しているかを可視化し、中長期的な目線で最大限効率のいい広告出稿を実現したいという思いを丁寧に伝えていきましたね」(馬場氏)
今回のプロジェクトではオフラインメディアも含めた予算アロケーションを目的としていたため、テレビCMと交通広告のデータについても、「Datorama」で一元管理。そのデータを、オンオフデータの統合分析ツールとして高い実績を持つ「マゼラン」と連携して、オフライン広告のデータ分析を行った。
オフライン広告については、出稿前後に認知度や行動変容についてアンケート調査する方式を取っており、デジタル広告とは効果測定手法がまったく異なる。これまでメディアミックスで分析をしたくても、そのプラットフォームが整っていなかった。
保有するデータは一度すべて「Datorama」に集約し、そこからほぼワンクリックで「マゼラン」へエクスポート。どのテレビCMやどの交通広告が売り上げのうちどれぐらいの割合を占めているか詳細に分析し、予算のアロケーションができるようになった。
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効果分析の自動化で、スピーディーな予算アロケーションを実現
こうして組織改革まで踏み込んで大胆に効果検証体制を見直し、効果分析の一本化と自動化を実現したことにより、少しずつ変化が起こってきたという。
「まずは、工数削減ができました。実は組織を統合してみたら、違うチームでまったく同じ作業をしている人がいることがわかったんですよ。Datoramaとマゼランでデータを一元管理すれば、重複作業は発生しない。作業効率が格段によくなりましたね」(馬場氏)
現場のメンバーもこれまではレポート作成に莫大な時間と手間がかかっていたが、今では他の業務に時間を有効活用できるようになったと喜んでいるそうだ。人事異動があっても、Datoramaのダッシュボードを一緒に見ればすぐに状況を伝えられるため、引き継ぎの負荷も減ったという。
そもそもの目的だった適正な広告宣伝予算のアロケーションも短期間で実現した。
「Datoramaとマゼランを用いた予算アロケーションを導入したのは2020年4月ですが、それからほんの1~2ヵ月でテレビCM、交通広告、デジタル広告のすべてについて、どのような予算配分が適正なのか見えてきました。既に6月のメディア配分で実践しています。これほど早く、作業工数をかけずに予算のアロケーションが試算できるとは思っていませんでした。今まで施策の分析に費やしていた時間を、分析に加え次の予算のアロケーションという本質的な業務に充てられるようになりました」(馬場氏)
データへの向き合い方にも変化
それに加えて馬場氏が大きく変わったと感じているのは、データに向き合うメンバーの姿勢だ。
「これまで各メディア担当は、自分が責任を負っている数字しかチェックしていませんでした。しかしDatoramaとマゼランを導入したことで、あらゆるデータをいつでもリアルタイムで見られるようになった。その結果、これまでは各キャンペーン単位でとらえていた広告宣伝効果について、通年や数年といった中長期的な目線で変化を見るクセが徐々についてきている気がします。メンバーの視野が広がり、一つ上のレイヤーで分析するようになっていけばと感じています」(馬場氏)
これからの展望について馬場氏は、事業部側のマーケティングKPIを達成するための、適正なコミュニケーションプランと費用を宣伝部で分析し、提案できるようにしたいと考えている。
「Datorama×マゼランの組み合わせで、どのような目的を達成したいのかを常に意識し、そのための分析ができるようになりたいですね。これから先リモートワークが主流になれば、ミーティングをしてもメンバーの細かな表情や言葉のニュアンスを読みとるのがなかなか難しくなってきます。その時、データをもとに効果分析とディスカッションを行う体制があれば、ファクトに基づいてすばやく判断をくだせるはずです」(馬場氏)
大きな組織変革を行い、Datoramaによるオンライン・オフラインデータの統合に取り組んだKDDI。今後は宣伝部内で蓄積した分析結果や知見を成功事例として、他部署や経営陣と共有していきたいという。それによって同社における広告宣伝の位置づけがより一層高まっていくことを馬場氏は期待している。
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