企業の行動が、広告になる
最初のディスカッションテーマ「良い広告の条件とは?」に対し、井上氏・牧野氏はともに「事業成長させられる広告は、良い広告」と答えた。話題化や認知向上は、本質ではないという。広告は、売上やブランドへの寄与が大前提なのだ。
その上で牧野氏は、広告とプロダクトの距離に言及。Oisixが展開していた「牛乳支援」のキャンペーンを例に挙げ、「商品に広告的機能が組み込まれている」と絶賛した。これは、緊急事態宣言下の学校の休校にともない、大量破棄の危機に晒されていた給食向けの牛乳を、Oisixが販売した取り組みだ。
大きな反響から、牛乳は同社の新規会員向け「おためしセット」内にも同梱され、多くの消費者がOisixを通して支援に関わった。牧野氏は「商品そのものに、社会的意味があります。Oisixのサービスに直結し、さらにコミュニケーションにもなっている。理想的な形です」と話す。
このOisixの事例のように、企業や商品、サービスが社会課題に取り組むメッセージを乗せた広告は増えている。その理由を、井上氏は2つ挙げた。1つ目は、社会と生活者の変化にともない、メッセージやクリエイティブもまた、変わってきていること。2つ目は、チャネルの多様化とアドテクノロジーの発展で、細かなターゲティングが可能になったことだ。つまり、届けたい人へ深いメッセージを届けられる環境が生まれている。
さらに牧野氏は、「SNSによるメディア構造の変化が大きい」と語る。市井のリアルな声がシェアされて重視されると、広告用に作られたフィクションのメッセージは届きづらくなる。
「広告より行動が重視されます。今のままでの広告は、難しい」(牧野氏)
たとえば、アメリカのBlack Lives Matter運動を受けて、何社かのグローバル企業はSNSのアイコンを黒くし、自社のスタンスを発信した。しかし「実態をともなっているか?」「パフォーマンスで終わっていないか?」と疑問の声も上がっている。メッセージよりも、行動で示すことが求められるのだ。
井上氏も、「広告メッセージに、企業の姿勢と実態がともなうことが大事であり、誰かの成功フォーマットに沿うだけでは失敗する」と語った。