話題のクレヨンしんちゃんの交通広告、どう生まれた?
続いてのディスカッションでは、2人が関わってきた広告について聞く。食の社会課題をビジネスで解決するオイシックス・ラ・大地のマーケター井上氏と、「ブランドと社会を結びつける」ブランドジャーナリズムを標榜し、啓蒙するクリエイターの牧野氏。そんな2人がタッグを組んだ企画が、3回にわたって行われたクレヨンしんちゃんとコラボレーションした交通広告である。
初回は、作品の舞台である春日部駅に、母親・野原みさえにフォーカスした母の日メッセージの広告を出稿した。続いて父の日には、父親・野原ひろしが登場。「いいパパってなんだろう?」と問いかけ、「家族にとっていいパパが、1番いいパパだよね」のメッセージを込めた。この広告は、春日部駅と、ひろしがみさえにプロポーズした北千住駅にも掲載されている。そして3回目は、夏休み終わりに掲載された、しんちゃんによる「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」の交通広告だ。
一連のクリエイティブは、SNSでシェアされ、大きな反響を呼んだ。特に3回目のアイデアは、井上氏によるもの。「夏休みのお母さんはすごく大変ですが、あまり知られていない事実。さらに、家族から労られることも少ないという声もありました」と、以前Twitterで話題となっていた #主婦らの夏休み戦争 のハッシュタグを参考にしたと明かす。
また、駅を限定した広告には狙いがあった。「限られたリソースの中で、どうやって多くの人に届けるか?」を考え、希少性・限定性のある交通広告を使い、それを見た人達によるSNSのシェアでメッセージを広げる作戦に出たそうだ。

「井上さんが、Oisixのコアバリューやお客様のことを、ずっと考えていらっしゃる人だからこその発想」です(牧野氏)
この取り組みは、予想外の展開を見せる。メディアに取り上げられ、「母親は夏休みも忙しい」のメッセージが、より多くの層へ届いた。また、話題化を受け、企業としてのオイシックス・ラ・大地も評価され、社員のモチベーション向上や採用促進にもつながっている。さらに、小学校の授業で取り上げられるなど、幅広い定性的な効果を生み出したという。冒頭、井上氏は「事業成長へつながる広告は良い広告」と定義したが、「広告の企画者はKPI以外の効果も、視野を広げて見ていく必要がある」と語った。