「食」へのストレートな思いが、自発的な社会貢献活動につながる
菅野:なぜ、自発的な取り組みが次々と生まれるんですか?
篠原:元々「食」を提供する会社ですから、「お客様に食べる幸せを届けたい」という想いの強い社員が多く集まっています。先ほどのグローバル・マルチブランド戦略も、食の感動体験を様々な文化の人に届けたい」という想いが元となり描かれた戦略です。またCSRにかかわるメンバーの多くは店舗で直接お客様と関わってきた経験があり、人との繋がりに心を配る社員が多いと感じています。
そういったお客様に対する社員のピュアな想いが、結果的に社会によい行動となって現れているのかなと、私なりに理解しています。
会社はそういう社員の動きに対して、積極的に耳を傾け、必要な仕組みを支援することに協力的です。トリドールが掲げるミッション「Finding New Value. Simply For Your Pleasure.」と、社員の実際の行動がぶれていないので、無理をしていない。だからこそ持続する。そういうわけでトリドールのサステナビリティは良い循環になっているのだと思います。
菅野:無理をしていない、ってとても大事なことですね。LIFULLでもシングルで子どもを育てる方や、外国籍の方、LGBTQの方など、いわゆる住宅弱者を支援する「FRIENDLYDOOR(フレンドリードア)」という活動を行っています。

篠原:住宅弱者の方をサポートする活動は、LIFELLの提供する主軸サービスを「あらゆるLIFEを、FULLに。」というミッションで拡張させた素晴らしい取り組みですね。社会が変遷する中で困る人は必ず存在して、困っている方々をサポートすることをベースとした取り組みやビジネスがこれから先増えていくのではと感じます。SDGsの活動とビジネスそのものの距離が近づいているので、当然そこに対するマーケティング活動の関わりも変わっていくのですかね? 菅野さんはどう思っていらっしゃいますか?
菅野:まさにそこが大事なところかなと思っていて、こうした社会的に意義のあることを、マーケティング活動の中心に置いて、収益につなげるのはまだまだ難しいんじゃないかと思っているんです。
篠原:私も同感です。そもそも資本主義社会の中で、既存ビジネスと両立させていくことはかなり難しく、どうしても無理が生じてしまうのかなと。サステナビリティやSDGsって、経済活動を取り巻くステークホルダーをハッピーにしながら、その波やうねり、響きを無理なく一緒に心地よいものにしていったり、大きくしたりすることだと思うので、そもそも中心ではなく、そのまわりで共存・共生し合う、という表現が近いのかもしれません。
菅野:「社会活動を無理なく自然に行って、それが波のように広がっていく」という考え方、とても共感しました。特別なことだとかまえずに、当たり前にやることこそ変革なんですよね。今取り組んでいる企業活動の解釈を拡張していくというやり方もあるのかなと思いました。
篠原:変に意識しないで、自然に取り組んだほうがあるべき姿に近づきそうですよね。
信頼は獲得するものじゃない。気づけばそこにあるもの
菅野:この連載の目的って、これまで「ハンター」のように数字やコンバージョンを追いかけてきた僕が、マーケターとしてのあり方を見直そうというものなんです。篠原さんのお話を聞いて、信頼を「獲得する」という言い方は「ハンター用語」だったと、反省しました。
篠原:信頼って獲得するものじゃなくて、積み重ねるものですよね。気づいたらそこにあるもの。
菅野:本当にそうですよね。ちなみに海外のほうが日本に比べて社会活動に対する意識や行動はポジティブですか?
篠原:ポジティブかつ、社会貢献に関して意識が強いと感じています。この違いは教育、文化、宗教など、様々な違いが生み出しているのかなと。また、海外はSDGsが策定される以前から、ESGが企業にとっての重要指標としてスタンダードになっている傾向があります。つまりそういった取り組みが日本より意識的に刷り込まれている、かつ「やっていて当たり前」感が強いのではないかと個人的に思います。
