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ソーシャル・マーケティング成功の法則

予算ゼロでもマスに届く!ソーシャル・マーケティングの「コンセプト作り」と「メッセージング3原則」

 近年、ミレニアル世代を中心に、ソーシャル(社会的)なモノやコトへの感度が高まり、“社会に良いことを行っている企業の商品を買いたい”というニーズが高まっている。「おにぎりアクション」の企画・立ち上げを行い、アジア・マーケティング3.0アワード 大賞を日本人として初めて受賞した大宮千絵氏が、事例を交えながらソーシャル・マーケティング成功の法則を解説する本連載。今回は、予算ゼロでもマスに届く「コンセプト作り」と「メッセージング3原則」について解説いただいた。

予算ゼロでもマスに届く!ソーシャル・マーケティング成功の法則

 10月1日(木)~31日(土)まで、ソーシャル・マーケティング活動のひとつである「おにぎりアクション2020」が開催されている。今年で6年目の開催となり、アフリカ・アジアの子どもたちに給食を届けようと、既に約6万枚の写真がSNSや特設サイトに投稿されている。

おにぎりアクションとは…
国連が定めた10月16日「世界食料デー」(世界中の人が食べ物や食料問題について考える日)を記念してNPO法人TABLE FOR TWO International(TFT)が2015年から開催しているキャンペーン。おにぎりにまつわる写真に#OnigiriActionを付けてSNSまたは特設サイトに投稿すると、協賛企業が寄付し、TFTを通じてアフリカ・アジアの子どもたちに給食5食が届く。

 連載第1回では、ソーシャル・マーケティングを行う意義について解説したが、今回はこのおにぎりアクションをヒントに、「予算ゼロでもマスに届く、ソーシャル・マーケティング成功の法則」を解説していきたい。

 “予算ゼロでも”としたのは、このような社会的な取り組みを行おうとする際、最初から実施に向けて潤沢に予算があるということはあまりないためである。では予算がなければ大きなことはできないかというと、そんなことはない。現に「おにぎりアクション」はマーケティング予算ゼロからスタートしたが、その後世界50ヵ国から230万人が参加、450万食の給食を開発途上国に届ける取り組みとして成長している

 では、こうした社会的な取り組みを多くの人に「知って欲しい」「好きに(ファンに)なって欲しい」「参加してほしい(または購入してほしい)」と考えたとき、必要なものとは何だろうか。様々な要素があるが、まず何より大切なのは、“人の心を動かす”ことだ。そして、人の心を動かす上で最も大切と言えるのが、「インサイト」である。

まずは「インサイト(心のホットボタン)」を見つけることから

 インサイトとは、用語としては“消費者の行動や思惑、それらの背景にある意識構造を見抜いた事によって得られる、購買意欲の核心やツボのこと”を指す。簡単にいうと「心のホットボタン」と呼ばれている。消費者が「これをやってみよう」「これを買ってみよう」と、行動に至るスイッチのようなイメージである。

 これは消費者の根底にあるが、本人さえも気づいていない事が多い。そのため、マーケターは消費者の言葉だけに着目をするのではなく、表情や行動を深く洞察し、多角的・定性的にアプローチすることでインサイトを探っていくことが求められる。

 昨今、特にSNSを活用したマーケティング施策を企画する際、「どうすると拡散する(バズる)か」「どんなことをするとおもしろいか、画になるか」と言ったことから検討していくことも多いが、まずは「顧客(参加者・購入者)のインサイトは何か」「何に心を動かされるのか」を、活用するツールを想定する以前に考えてみることが、成功への近道だと感じている。顧客のインサイトを考えたうえで、「そのインサイトを捉えるには、各ツールでどう発信していくと良いのか」を考えて行くのが、人の心を掴み、多くの人に参加してもらえるための秘訣と言える。

 おにぎりアクションの場合、ターゲットとしたメイン顧客は「小さな子を持つ親」であった。顧客を様々な場面で洞察していくと、下記のような印象的な言葉・シーンに遭遇する。

・母となった複数の女性が、「子どもができてから、我が子だけではなく世界中の子がかわいく思えるようになった」と話していた
・日々の生活の中で、“誰かの為に自分ができることをしたい”という想いが強くなっている
・離乳食や食事を作る機会が増え、“食の大切さ”を感じる機会が増えている。特に我が子に対し、子どもの心身の健康と成長を願いながら食事を作っている(あるいは購入している)

 こうした、一つひとつの要素はバラバラな事象を総合して考えていく中で、「我が子に食事を作るとき、“我が子のように、子どもたちがみんなお腹いっぱい食べられますように”と、世界の子どもたちに気持ちが派生しうる」という事が見えてくる。

 そこから、「世界の子どもたちへの慈善活動に参加する」という行動を促すためには、顧客の日常生活にある“我が子にご飯を作るシーン”で、「世界の子どもたちがおなか一杯食べられますように」というインサイト、つまり心のホットボタンを掴むべきだと考えた。これがおにぎりアクションのインサイトであり、コンセプトの原点である。

アイデアの掛け算で、インサイトに基づいた「コンセプト」を作る

 インサイトを見つけたら、次はそれに基づいたコンセプト作りだ。コンセプトには、やはり新しさやユニークさが必要だ。しかし、「今世の中にないものを作る」ということは、簡単なことではない。自分が思いつくことというのは、既に世の中の誰かが先駆けてやっていることがほとんどである。ではどうやって新しいものを生み出すのか。

 筆者がお薦めする方法は、“アイデアを掛け算”することだ。異なる強みや知見、バックグラウンドを持つ者が何名か集まり、アイデアを話して組み合わせていく。おにぎりアクションでは、顧客インサイトに基づき、顧客が日常生活でご飯を作るシーンに注目した。その中でも、顧客が手で握り、日本人にとって身近で親しみのある存在である「おにぎり」を題材としようと考えた。その「おにぎり」をテーマとし、

・社会を良くする動きを大きくするには、人との一体感や、一緒に頑張る人がいることが重要。写真を世界地図上に投稿して、参加者が一体感を持てる仕組みを作ってはどうか
・企業もそれを応援できる仕組みにしてはどうか。たとえば、写真を投稿すると、企業がマッチング寄付をするという仕組みにしてはどうか
・マッチング寄付は、わかりやすく1投稿で100円などとして、参加者が自分の貢献が明確にわかる仕組みにできないか

 と言ったように、どんどんと異なるアイデアを組み合わせていった。

 その結果生まれたのが、「おにぎりの写真を投稿すると、1枚につき給食5食が届く。その5食分(100円)の寄付は、協賛企業が提供する」という企画コンセプトである。“予算ゼロ”の状態で多くの人に知ってもらい、参加してもらう企画を作るには、人がそのアイデアを見たり聞いたりした時に、瞬時に理解し興味を示してくれるものにできるかどうかがポイントだ。

 コンセプトメイキングしたメンバー全員がそのコンセプトを瞬時に理解し、「おもしろそうだ」と自分たちも感じ、ひとつの鮮明な絵を描けたことも、一つの大きなカギだったと言える。

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この記事の著者

大宮 千絵(オオミヤ チエ)

株式会社ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業開発部
行政事業責任者・ソーシャルビジネスプロデューサー
元 特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International CMO

2007年より日産自動車株式会社にてグローバル・マーケティングリサーチ業務に従事。マーケティングの力を活か...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/14 09:00 https://markezine.jp/article/detail/34515

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