感情などのあいまいなニュアンスから写真を探せるコミュニケーション型の画像販売サービス
――早速ですが「ピットリー」のサービス内容について教えてください。
林:ピットリーは画像素材を販売するサービスです。簡単にサービスについて紹介すると、写真素材提供者(カメラマン)がピットリーへ写真を登録します。次に登録された写真へAIが自動でタグ付けを行います。このピットリーのユニークなポイントが「楽しい」「悲しい」などの感情のキーワードも合わせて付与されるところです。
林:素材購入者は、ピットリーのサービスでAIとコミュニケーションを取りながら探して購入することが可能です。マーケターの方ですと、Webコンテンツ作成や企画書、プレゼン資料を作成する際に画像販売サービスを使われている方も多いのではないでしょうか。
林:でも画像を選ぶときって、なかなか自分が考えているような写真に出会えず時間がかかったりします。そこでAIを使ってニュアンスや、「楽しい」「悲しい」などの感情を用いて検索できるサービスを開発しました。
通常の素材サイトでは、「雨空」の画像が欲しい場合、そのまま検索キーワードに入れれば、まさしく意図した画像が出てくるはずです。ただ、漠然に「悲しい雰囲気の空」の素材を探したい場合はどうでしょうか。ここで難しいのが「悲しい=雨」は近いイメージを持つ方も多いかもしれませんが、雨だけではなく、「夕方の寂しい空」「夜の静まり返った空」や「曇りのどんよりした空」なども、悲しい雰囲気に含まれるかもしれません。
三井:ピットリーでは下図のように、「キーワード+感情」から画像を検索できます。
三井:「悲しい雰囲気を持った空」をピットリーで探す場合は「空(キーワード)+悲しい(感情)」で検索してみてください。そうすると、下図のようにAIが判断して、曇りや夜など様々なシチュエーションでの「悲しい」イメージを持った空の素材を選んでくれます。
三井:一方、「空+楽しい」で検索すると下図のように入道雲/一面青空/虹などの爽快かつ楽し気な素材が表示されます。
三井:このようにピットリーは、キーワードだけでなく、感情といったニュアンスからも検索できるので、 イメージした画像をより素早く検索できるのが特徴です。
独自の画像解析エンジンを構築し「3方良し」を目指す新モデル
安部:画像へのタグ付けは、ディープラーニングで構築したピットリー独自の画像解析エンジンを使っています。検索するためには、画像1枚1枚に検索キーワードにヒットするタグ付けが必要ですが、AIを使うことでこの作業にかかる時間を短縮できることに加えて、タグの内容にばらつきがなくなります。
画像を学習データとしてディープラーニングに学習させることで、風景画像に関しては狙い通りのタグ付けが自動でできるようになっています。
林:とは言え、まだピットリーでの自動タグ付けの精度は100%ではありません。そのため、写真の販売元であるカメラマンさんにピットリーの先生として、必ずタグ付けしてもらっています。それによってタグ付けされた写真が学習データとなって、どんどん賢くなる。ピットリーという環境が、AIを学習させる場所としても上手く活用できるのではと考えています。
本来なら我々がやるべき手間を、カメラマンの方々に担ってもらうことで、学習データを作るためのコストが圧縮できて、カメラマンさんへのフィーも多く払えるようになります。
かつ、そのフィーの金額は、売れ行きランキングを導入して増やせるような施策を検討し、提供者のモチベーション向上や質の高い写真が届くような仕組みにすることで、みんながWin-Winになるサービスを目指して作ってきました。
林:そうしてピットリーの精度が高まっていった先に、「ピットリー派遣」という形で、画像解析エンジンを各企業の課題解決に活用する、新たなビジネスモデルへの展開も想定しています。無限大に新しいビジネスモデルを創造できるような期待感を抱いています。
「デザイン」「システム」「AI」三者三様の強みをサービスに集約
――皆さんは合同会社ピットリーを立ち上げられていますが、本業のビジネスはどういったことをされているのでしょうか。
安部:はい。私は開発会社専門のデザイン会社、アベデザインでソフトウェアやアプリのUI/UXデザイン、展示会で利用するパネルやチラシ、カタログの制作をしています。
林:私の経営するフォレストバーウッドは、流通業界に長くいたメンバーと立ち上げた会社で、その強みを生かして主に販売管理や在庫管理システムなどをクラウドで提供しています。
三井:私が在籍するSigfoss(シグフォス)は、AIソリューションプロバイダーとして、画像認識や自然言語処理、機械学習といったAI技術を応用した業務用ソフトウェアの開発を行っている会社です。国内自動車メーカーと共同で自動運転システムのアルゴリズムの研究開発などにも携わっています。
――そのような違う分野のプロフェッショナルとして活動されている皆さんが、どのようにして出会われたのでしょうか?
安部:出会いは、2017年10月に開催された「FUJITSU TECH TALK」のイベントです。そこで林さんはイラストを、私は趣味でたくさん撮っている写真を販売したいと意気投合したことが発端でした。
安部:イベントで紹介された富士通さんのAI「Zinrai」の活用例を見て、画像を販売するために必要なタグ付け作業をAIで行うことで、人的コストを下げられるのではないかと話が盛り上がりました。
それと富士通さんからは、参加者とのコミュニケーションの場を提供いただくだけでなく、技術支援などのサポートも手厚いため、その仕組みを活かせば我々のような中小企業でもビジネスを立ち上げられるのではと思いました。そこにAIの知見を持った三井さんを紹介していただき、3人で会社を立ち上げてプロジェクトを形にすることにしました。
互いのビジネスが競合しておらず協業しやすかったこと、それぞれの得意分野で力を発揮することで投資が少なく済むことなど、いくつかの要素が上手く合致したと考えています。
マーケティング活用を見据えてAIを成長させていく
――富士通様とはどういった協力関係で進められているのでしょうか。
安部:我々のビジネスを進めるためのキーとなる存在です。まず通常なら出会うことのなかったであろう2社と「FUJITSU TECH TALK」で出会いの機会をいただけた時点で非常にありがたいと思っています。
また、ピットリーのシステムも富士通クラウドの仮想サーバを活用したり、プロモーションもご協力いただいたりしています。開発コストは重荷になるので、そうした参加者向けの特別支援プログラムの存在は大きかったですし、富士通からのサポートもあり、ビジネスも加速できました。これから先、さらに富士通と連携を深められるビジネスにしていければと思っています。
林:開発者の方たちが集まるコミュニティで、実際にビジネスの形に仕上げるような集まりはなかなかありません。FUJITSU TECH TALKというコミュニティは様々なビジネスを模索可能な場なのだと実感しています。
日本には素晴らしい製品がたくさんあるのに、価格の安さやデザイン性で外資に押されてしまっている部分があります。そのような背景下、我々のように協業することで、中小企業も大きなところに売り込むチャンスをいただけることがある。
だからこそ、我々のモデルケースを「FUJITSU TECH TALK」を知らないような他の開発の方々に知って欲しいという想いがあります。
次世代のマーケティングツ―ルに仕立て上げる
――ピットリーの使い方として、具体的にはどのようなものを想定されていますか。
三井:プロダクトとしての使い方と、マーケティングとしての使い方があると考えています。
三井:前者は、Webサイトの運営担当者や資料作成などで画像素材を使いたいと考えている人たちと、素材購入者とカメラマンをはじめとした写真素材提供者とを結びつける役割を持っています。
後者はその先の話で、登録された写真の属性を分類するだけでなく、写真に何が写っているかを見つけてデータとして取得していきます。そうしてある程度汎用化したAIになったら、企業のマーケティングに活用できるのではと考えています。
たとえばSNSなどの写真投稿ツールで、1ヵ月の投稿の間にコーヒー缶が何回登場しているかを銘柄別で分けることができるので、メーカー企業が自社ブランドの利用状況を把握するのに使えます。どんなシーンで利用されていたのか、シーンまで捉えることができるようになれば、よりマーケティングに活用できるものになると思います。
そうしたSNSに投稿されたデータから、企業のマーケティングに使えそうなものを分析する基盤にしていきたい。自分の会社に特化したマーケティングツールに仕立てるようなことも考えています。
――今後の展望について教えてください。
安部:最優先課題は、画像素材数を充実させていくことです。ピットリーに関しても、当面の間は勉強期間と見据えて、素材購入者のイメージ通りの素材を提案できる精度を上げていきます。その後、カメラマンのビジネスを助ける、購入者の検索にかかる時間を短縮するためのアップデートを平行して行います。
林:カメラマンさんやユーザーに喜んでもらえる仕組みを作りつつ、ピットリーの内部の人たちも楽しく動けるような環境作りをしていきたいと考えています。
三井:先ほどお話ししたようなビジネスモデルは、膨大な画像量と、作業の一部をカメラマンさんに代行いただくことで成り立つものです。そしてそれを達成するには、サービサー側のインフラ料金を継続して上回る利益ひいては、ユーザーであるカメラマンさんの利益を生み出し、カメラマンさんに持続的に活用いただく必要があります。
そのため、プラットフォーマーとしてまずはコンテンツを充実させてサービス利用者を増やすこと、それによってカメラマンさんたちが儲かる仕組みを作ること、その両輪をまずはしっかり回していきたいです。また、ピットリーを使ってみたいという方は、是非ピットリーサービスページにアクセスしてみてください。