生活者が企業に求めるものは「価格」から「信頼」へシフト
――2020年は、COVID-19の影響から、世の中のデジタルシフトの流れが急速に加速しました。生活者の消費行動や働き方が変わるなか、企業との関係性はどのように変化しましたか。
熊村:パンデミックによって、生活者と企業の関係性は一気に5年分ほど変化したと言われています。ただ、こうした変化はコロナ禍で突然訪れたことではなく、この10年で徐々に起こってきたことです。
毎年アメリカ全土のCMOを対象に行われている「CMO Survey」によると、「消費者が企業に対し重視しているものはなんですか?」という質問に対して、2009年は「値段・価格」という回答が最も多かったのに対し、2019年は「信頼」という回答が最も多かったと言います。つまり、生活者は企業に対して、安さよりも信頼や安心感を求めるようになってきています。
また2020年2~3月頃、新型コロナウィルスの感染拡大にともない、アメリカの人々は企業に「3つのR」(Relief・Response・Redeployment)を求めました。世の中の困りごとにすばやく反応し(Response)、感染者や医療従事者、その周辺の人々を助け(Relief)、自社のリソースを割いて社会に貢献する(Redeployment)企業を評価したのです。
日本でも、酒造メーカーが自社の製造ラインで消毒液を作ったり、繊維メーカーが空いているラインで防護服を作ったりする動きがありましたよね。このように、生活者は今、企業が寄り添い、助けてくれることを期待しています。
――生活者とSNSの向き合い方にも変化はありましたか。
熊村:この半年~1年で、大きく変わりました。コロナ禍で外出できなくなった生活者は、ネット検索に依存するようになっています。みなさんの中にも、COVID-19に関する情報や、欲しい商品を買えるサイトを探し回り、日用品や食事の配達サービスを検索するのに多くの時間をかけた方は多いでしょう。
生活者と対面でコミュニケーションすることができなくなった今年、デジタル広告に予算を割く企業が増えたと同時に、ソーシャルメディア上の声を集め、分析しようとする企業が増えました。それは在宅の環境下で生活者のインサイトをリサーチすることが非常に難しくなったからです。もちろん一つの会議室にユーザーを集めてグループインタビューを実施することはできませんし、Zoomでインタビューするにも限界があります。
ユーザーに寄り添う姿勢をアピールし、生活者との距離を近づけるためにも、ソーシャルメディアが有効だと考える企業が急増したのです。
「広告」という文脈においてもソーシャルメディアは重要なものとして位置づけられています。実際、アメリカにおける広告予算に占めるソーシャルメディアの割合は年々増え、既に十数%に上っている企業もあります。ソーシャルメディアで発信する場合、自社でオーガニックに投稿するより、ソーシャルメディア広告を駆使した方が効率がいいと考える企業も多いようです。
各社のマーケターが在宅でユーザーデータを集め、自社の行動を伝えるためにソーシャルメディアの活用を加速させるようになったのです。こうした背景から、コロナ禍でソーシャルリスニングは企業にとってなくてはならないものになりました。
自社発信より、ユーザー発信の受け皿を整えるべき
――ソーシャルリスニングの重要性が、これまで以上に増してきたわけですね。こうした生活者の変化を受け、日本の企業はどのように変化すべきでしょうか。
熊村:顧客視点でコミュニケーション設計をする必要があると思います。そのためにはまず、ソーシャルメディア上にある生活者の声をすくい上げる仕組みや環境を整える必要があります。その際、あえて自らがソーシャル上で積極的に発信する必要はありません。自社について発信してくれたユーザーの受け皿を作り、その声に耳を傾ける環境をまずは構築すれば充分でしょう。
とはいえ、ソーシャルリスニングは、人間の手で行うと膨大なリソースがかかってしまいます。マーケターやカスタマーセンターの担当者が、日々SNSを必死にエゴサーチし、血まなこになってタイムラインを追いかけていては疲弊してしまいます。
そこで、セールスフォース・ドットコムの提供する「Social Studio」をはじめとするソーシャルリスニングの高速化・効率化を実現するツールによって省力化することが望ましいと思います。
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接客もカスタマーセンターも、ソーシャルもすべて顧客体験
――従来、カスタマーセンターといえば電話やメール、チャットなどへの問い合わせ対応が中心だったと思います。SNSにも対応するのはどのようなメリットがあるのでしょうか。
熊村:生活者により良いブランド体験を届けることにつながります。近年、生活者は店頭での接客のみならず、広告クリエイティブやソーシャルメディア上の投稿も含めて、ブランドとのあらゆる接点を顧客体験だととらえるようになりました。
それはもちろんカスタマーセンターも同様です。カスタマーセンターでのユーザー接点も、生活者にとってはブランドとコミュニケーションできる貴重な場なのです。カスタマーセンターも、マーケティングやセールスにおける重要な顧客体験の一部であり、そこから直接的な売上やブランド価値が向上すると認識しなければなりません。
つまりカスタマーセンターはもはやコストセンターではなく、マーケティングやセールスにおける重要な顧客接点の一つであり、利益を生み、企業価値を高めるプロフィットセンターへと転換しつつあります。これから先、より良い顧客体験を届けるためには、あらゆる部署がマーケティングやセールスの視点を持たなければならなくなるでしょう。
そのとき、カスタマーセンターがすばやくソーシャルメディア対応ができれば、生活者のニーズや思いをいち早く知り、顧客体験を高めることにつながります。こうしたスピーディーな対応が、カスタマーセンターをプロフィットセンターへと転換させる一歩になるのではないかと思います。
とはいえ、以前はソーシャル上のユーザーの声をカスタマーセンターでリアルタイムに集約するツールがありませんでした。しかし今はテクノロジーの進化によって、ソーシャル上の声をカスタマーセンターに即座にダイレクトに紐付けることができるようになっています。当社の提供する「Social Studio」と「Service Cloud」をかけ合わせてソーシャル上の生活者の声に耳を傾ける方法も、その一つです。
――セールスフォース・ドットコムでは「Social Studio」や「Marketing Cloud」を「Service Cloud」とかけあわせて、どのようにソーシャルリスニングに活用しているのでしょうか。
熊村:たとえば当社では英語圏を中心に「Salesforce Customer Success Group(@asksalesforce)」というTwitterアカウントを運営しています。言語は英語に限られますが、このアカウントに寄せられるメンションや問い合わせは、世界を3つのエリアに分け、8時間ずつのシフト制で24時間365日対応することになっています。メンションは、問い合わせ内容に応じてカスタマーサポートセンターやセールス担当、各ソリューションの担当に振り分けられるような体制を整えています。
当社以外のケースでは、マレーシアやフィリピン、香港などアジア圏の航空会社で、フライトの遅延や欠航をユーザーに伝える上で「Social Studio」と「Service Cloud」を活用しています。刻々とフライト時間が迫る中、サポートセンターの返答を待っていたらフライトに間に合わなくなってしまうリスクがともないます。そのとき、企業の問い合わせフォームを検索することなく、手軽にスピーディーに問い合わせができる手段として、ソーシャルメディアでフライト情報を伝達しています。
生活者の「待てる」時間は年々短くなっている
――企業として、このようなリアルタイムな対応ができないとこれから先、生活者からの信頼を損ねたり、機会損失をしたりしてしまうのでしょうか。
熊村:そうですね、リアルタイムな対応がより一層求められるこれから先、ユーザーの問い合わせに対する迅速な回答窓口、回答手段としてのソーシャルメディアはますます重要な位置付けとなるでしょう。
はからずも多くの企業は、このコロナ禍で生活者と相対してコミュニケーションできない不安を感じたはずです。これまでは対面で直接会って話をすることで解決できたことも、長期化する在宅生活でうまく実現しないケースもたくさんあったことでしょう。
生活者側も、オンライン上に接点のない店舗やブランドを無意識のうちに切り捨ててしまうようになりました。カスタマーセンターから「しばらくお待ちください」と言われて、生活者が待てる時間は年々短くなっています。テクノロジーの進化によってあらゆることが瞬時に解決するようになった結果、生活者はよりリアルタイム性を求めるようになったのです。回答までのアイドルタイムが長くなれば長くなるほど、企業への信頼度は下がってしまうでしょう。
それに、いくらオンライン上に接点があったとしても、その存在が知られていなければ、窓口が存在しないも同然です。人々の生活様式やテクノロジーの進化に合わせて企業側もユーザーとの接点を拡張していかなければ、大きな機会損失となってしまうでしょう。
――これから先、カスタマーサービスやCX担当者はどのように生活者と対峙すれば良いのでしょうか。最後に、担当者に向けてアドバイスをお願いします。
熊村:企業が行うべきは、生活者に対していつどんなときも最高の顧客体験を提供することです。広告クリエイティブを提供することも、適切なサポートを提供することも顧客体験の一つ。これから先、企業がビジネスを押し進めるためには、生活者の声に耳を傾けることが一つの方法となるでしょう。
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