毎朝、違う世界を体験する
朝起きると昨日とはまったく違う世界が窓の外に広がっている。ノートPCのモニタという窓の外に。昨夜書いたブログのエントリーには、見知らぬ人や、あるいは普段ブログを読んで知ってはいたものの、まったく交流のなかった著名ブロガーからコメントやトラックバック(注1)がついている。そのトラックバック先をたどると、昨日までは決して見つけることのできなかった情報が容易に見つかるようになっている。また、別の朝にはAmazonアフィリエイトに大量の注文があるのに驚いたり、さらに別の朝にはトラックバックで他のブロガーと続けていたやりとりをまた違うブロガーが「おもしろい」といってうまく要約してくれたり。PCのモニタという窓の向こうでのつながりが、そんな風に日々の生活に喜びや驚きをもたらしてくれるのが現在のWeb環境だったりします。
情報が自然に寄ってくる?
自分でブログを通じて情報発信を続けていると、欲しい情報が自然に寄ってくると感じることがよくあります。もちろん、ブログを書いているだけではダメなんですけど、ブログを書くためのネタ探しを他のブログ記事やニュース記事などのRSSリーダ(注2)やソーシャルブックマーク(注3)などを使ってうまく効率的に収集したり、自分のエントリーにコメントやトラックバックをしてくれた人のブログを読んだりしていると、検索エンジンでキーワード検索なんかするよりも、はるかに興味のある情報を見つけることができるような気がしています。
これは考えてみれば当然と言える部分もあって、要するに自分のブログにコメントやトラックバック、ブックマークをしてくれるような人はそもそも自分と興味、関心の領域が重なる部分が多いのでしょうし、RSSリーダで読んでいるブログに関しても、そもそもあるエントリーが気に入って登録することが多いので、そのブログを書いているブロガーが私にとってしっくり来る内容のエントリーを書いてくる確率も自然と高くなるのだろうと推測できます。
その上、ブログを書くということは、自分がどんなことに興味があり、どんなことを考えているかを日々、表明しているようなものですからそこに自然と似たような情報を持つ人たちが集まってきて、情報提供してくれるようになるのは、当たり前のことなのかもしれません。
Web上での情報の自己組織化
このように現在のWeb上では、欲しい情報がそれを欲しがる人のところに自然と集まってきて、トラックバックやソーシャルブックマークなどを通じて情報間にリンクが貼られ、気がつくといつの間にか、関連する情報の集団が形成されるといった現象が日々あちらこちらで展開されているのではないかと思います。
ほっておけば溶けてなくなってしまう雪だるまやテーブルから落ちて粉々に割れたガラスのコップ、子供がバラバラにしてしまったおもちゃなど、自然界にあるものの多くは「外部からの干渉がなければエントロピーは一定かあるいは増加する」というエントロピー増大の法則(注4)に従い、時間の経過とともに秩序を失っていく傾向にあります。しかし、その一方で、雪の結晶化や都市での階層別ゾーニングの形成、あるいは受精卵が複雑な胎児に姿を変える生命現象など、あたかもエントロピー増大の法則に反するかのごとく、自発的に秩序が生成される現象も少なくはありません。こうした現象を複雑系の科学の分野では「自己組織化」(注5)と呼ばれていたりしますが、まさに現在のWeb上で日々繰り返されている情報のクラスター化はWeb上での情報の自己組織化と呼んでもいいのかもしれません。
実際、学術論文出版の引用と注釈の審査システムのコンセプトを手がかりとして、こうしたWeb上での情報間のリンクの生成に自発的な秩序生成が行われていることに気づいたのがGoogleでした、その後、有名なPageRank(注6)というアルゴリズム(注7)を組み立てて成功したのは周知の事実です。当時はGoogle創業者のラリー・ペイジのような才能をもった人しか気づくことのなかった「Webのネットワーク上での情報の自己組織化」という現象も、もはや、トラックバックやソーシャルブックマークなどの新しいツールの登場により、ごくごく普通の人にも体感できるくらいに、ありふれた現象となってきているのかもしれないなと思ったりします。