マーケターの成果を証明し、部門間をつなぐハブに
――「カスタマーエンゲージメント」という言葉は、日本でも昨今よく聞かれるようになりましたが、画一的な定義があるわけではない状況です。御社ではこの概念やCEPというソリューションをどう捉えていますか?
カスタマーエンゲージメントは直訳すれば「顧客との絆」になりますが、これをビジネス上で捉えて強化していくCEPを、我々は「グロースするためのCRM」だと考えています。エンゲージメントという言葉が入るからかもしれませんが、CEPも“絆を深める”“好感度を高める”といった抽象的な目標を追うツールに思われがちです。それはそれで大事な要素ですが、中心ではない。やはり、企業と消費者の接点を深めた先に「収益を上げること」がCEPの役割です。
――Brazeはあくまで、収益化のためのソリューションである、と。
そうです。ただしもちろん顧客に負荷がかかる方法ではなく、企業との関係性を消費者目線でごく自然に進化・深化させて、その先に収益化がある……という構図です。
これは冒頭でお話しした、僕自身の課題感にも関係しています。この数年、デジタルを扱うマーケターやデジタル系の支援会社は、なかなか自分の成果をKPIに定義しにくい状況があったと思います。直接の収益チャネルをもっていたら別ですが、そうでない場合はアクイジションの成果にとどまり、経営層に「マーケティング投資が収益につながっていない」と受け止められてしまうケースも多く目にしてきました。
エンドユーザーが今まさにどんなことを思い、どう行動してどのように収益に結び付いたかをしっかりと可視化して示せば、マーケターの仕事の成果を証明でき、その上でマーケティングの部門と関連部門を正しく結び付けられます。部門間を仲介する、ハブになる機能を担えるのが「グロースCRM」と言われるBrazeの立ち位置だと考えています。
GPS×リアルタイムの成功事例 バーガーキング「The Whopper Detour」
――Brazeはグローバルでは相当成長していますが、日本におけるCEP市場は、どのようなフェーズだとご覧になっているでしょうか。
前述の話と関連しますが、少し抽象化された概念に基づいていたり、収益につながるかを無視した“心地よい体験”の提供に留まっているソリューションの市場はあると認識しています。ですが、それはゴールではありません。
エンゲージメントの向上という態度変容の先に収益構造が生まれること、その際に顧客がナチュラルにお金を払ってくれて、LTVが向上していくというスパイラルは、まだ日本には生まれていないと思います。我々はBrazeの拡大を通して、正しいCEP市場を構築していきたいと思っています。
――では、事例を教えてください。たとえばメルカリさんでは、日本ユーザーへの展開はこれからという段階ですか?
そうですね、今まさに準備中です。メルカリさんは、出品者がいないと在庫がないわけなので、単に購入を促すエンゲージメントをしているだけでは不十分だというのが特徴的です。米国ではBraze上で、出品者と購入者のパネルを細かく区切ってコミュニケーションチャネルも切り替えながら、エンゲージメントを高めています。当然、人によっては出品も購入もするので、そのジャーニーも踏まえてパーソナライズしています。日本でも、同様の支援をしていく予定です。

――他に、どういった事例がありますか?
バーガーキングさんが米国でBrazeを使って展開したキャンペーン「The Whopper Detour」は、2019年カンヌライオンズのDirect部門とMobile部門でグランプリを獲得した、いい事例だと思います。モバイルアプリのダウンロードとプッシュ通知のオプトインをしたユーザーが、競合であるマクドナルド店舗の近くに差し掛かるとバーガーキングのクーポンが配信され、近くの店舗に誘導されます。

ファストフード店の売上は、立地にかなり左右されます。仮に駅を出て右に曲がるとマクドナルド、左に曲がるとバーガーキングがあったとすると、右に行こうとしている人や既に歩いている人を左に向かわせるのはすごく難しい。そこでバーガーキングは、まさにそこを歩いているユーザーを捉えてクーポンを配信することで、デジタル上で防衛線を張ったわけですね。