WPPジャパンCEO就任の背景
——WPPジャパンのCEOに松下さんが就任されたニュースは、日本でも大きな話題となりました。まずは松下さんのキャリアについてお聞かせいただけますか。エージェンシーとブランド、どちらも経験された上で、エージェンシー側に身を置かれているのが特徴かと思うのですが。
私は大学を出てすぐレオ・バーネットというアメリカの会社のアドエージェンシーに入社しました。最初は商品が消費者に届く直前の、コミュニケーションの部分に携わっていたわけですが、自分の興味に従ってどんどん内側に入り込んでいったんです。
たとえばエージェンシーからブランドに移った時に、プロダクトマーケティングが気になりましたし、その次は商品のプランニング、その次は開発といったように、商品が生み出されるところまで興味を持ちました。ゲーム会社にいた時は、エンジニアやデザイナーと共にゲームを開発する経験も持ちました。
そういった意味では私のキャリアは「エージェンシー」か「ブランド」かというよりも、広告・マーケティングから開発まで、プロダクトを作って売るところまで、すべてを経験したというところでしょうか。この総合的な経験を生かしてクライアントと新たな価値を作るのが、自分と組織の役割だと考えています。
実際、WPPは自社プロダクトをはじめ、マーケティングプランニングのサービスや、コンテンツ制作やマス・デジタル広告事業など幅広く展開しています。これからは代理店という受け身のサービスではなく、クライアントの「パートナー」としてどの分野で何を提供できるかが重要だと考えています。
——松下さんにとって、WPPジャパンのCEO就任はどういった意味のあるチャレンジだったのですか。
ワクワクの一言です。どんなカルチャーバックグラウンドの人でもグローバルCEOになる機会はあると思うのですが、長年海外で仕事をしてきた日本人の私が日本市場で今までの経験を生かして、リスクをとって挑戦できるというのは貴重な機会です。だからこそ、やってみたいと思いました。
新生WPPジャパンのパーパスやストーリーを固めた1年
——CEOに就任以降、2022年はどういった活動に注力されてきたのでしょうか。
前のエッセンスでの仕事はアメリカを拠点にしていたので、CEOに就任した当時は、WPPジャパン内にあるブランドの一社一社がどんなビジネスをしているのか詳しくは知りませんでした。CEOとしてまずやったことは日本全15社の代表と会ってお互いを知ることでした。2日間のオフサイトミーティングを実施して、交流しました。
そこで気づいたのが、私だけでなくカンパニーの代表同士も初めて会う方が多いということ。これまでWPPとして皆それぞれ活躍している中で、横のつながりを作る体制がそもそもなかったのです。なので皆でスタートラインに立った感覚がありました。
オフサイトミーティングを実施した目的は、将来に向けてのビジネス戦略を見ていくためでもありますが、同時にリーダーとしてそれぞれが抱えてきた経験をシェアしてもらうことが大きな狙いでした。
というのも、日本の経済全体がここ20年くらい大変な状況にある中で、広告業界も伸び悩んでいますし、皆同じように苦労し悩んできたはずなんですよね。うまくいったこともいかなかったことも、ナレッジをシェアしてもらう。そこに80%ほどの時間を割いたことで、学びや可能性の発見がいろいろとありました。
そこから約2ヵ月後に「ad:tech tokyo(以下、アドテック)」への出展が控えていたんです。皆で力を合わせて取り組むプロジェクトとして最適なタイミングでした。WPPジャパンとしての今後の方向性が見えてきたところだったので、アドテックを新生WPPジャパンのローンチだと見すえて、パーパスやストーリーを固めていきました。
参加者の声を聞き交流したいという思いがあったので、アドテックの事務局と相談してWPPのステージを持つことに決め、自分たちで2日間のプログラムを作ることになりました。準備期間は2ヵ月とかなりタイトでしたが、お互い得意な分野を任せ合って、これを通して社員が一丸になりましたね。