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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(PR)

紙とデジタルの違いが購買行動に与える影響は?集英社ECサイトでの実証実験で得た、4つの知見

 顧客にとって真に意味のある“オンオフ統合”とはどのようなものか。「デジタル×アナログ振興プロジェクト」を進める日本郵便は、これまでも産学連携で数々の実証実験を行ってきた。今回実験に参加したのは、ファッション誌から発展したECサイト「HAPPY PLUS STORE」を提供している集英社。同社のECサイト会員に紙とデジタルのカタログを送付した際の購買行動に現れた違い、カタログに掲載するアイテム数がもたらす変化などが明らかになった。

コンテンツ制作力×デジタル・アナログで事業を創造

――はじめに、Project8(集英社子会社)の中谷さん、集英社の石塚さんにおうかがいします。まずは手掛けられている事業について教えてください。

中谷:集英社のブランド事業部とProject8では、女性誌ブランドの事業領域を広げるべく、デジタル・アナログ横断で、これまで培ってきたコンテンツ制作力を活かしたビジネスを展開しています

石塚:たとえば2007年にオープンした公式通販サイト「HAPPY PLUS STORE」は、集英社のファッション誌発の商品をネットで購入できます。目指しているのは「雑誌で紹介されている商品が、そのまま買える」という世界観。ファッション誌と連動したECサイトとして、リッチなコンテンツで商品の魅力を伝えることを大切にしてきました。

中谷:近年では、これまで展開してきた圧着式はがきやカタログに加え、メルマガの企画にも力を入れています。雑誌クオリティのデジタルコンテンツ企画や、MAツールを使ったメルマガのパーソナライズ配信にも挑戦しているところです。

(左)株式会社Project8(集英社子会社) 中谷 みどり氏 (右)株式会社集英社 石塚 雅延氏
(左)株式会社Project8(集英社子会社) 中谷 みどり氏
(右)株式会社集英社 石塚 雅延氏

――続いて、今回の実証実験の目的をお聞かせください。

中谷:紙とデジタル、それぞれのチャネルにおいて、コンテンツがどのように作用しているのかを知ることが目的です。私たちは単に多チャネルでコンテンツを展開すればそれで良い、ということではなく「お客さまの目線で意味のある体験を設計するには、どうすれば良いのか」「私たちの強みである編集力をどのように活かすか」に関心をもってきました。

 また、雑誌制作における“暗黙知”について解明したいと考えていました。当社には雑誌制作のノウハウとして、たとえば「1ページあたりの掲載商品点数は何点までにすべき」といった経験に基づくルールがありますが、こうしたルールは果たして本当に正しいのか、根拠を知りたいと思っていたのです。

4つのパターンを用意し調査

――ここからは、今回の実験を設計・実施された上智大学の外川先生、東京国際大学の平木先生にも加わっていただきます。実験の概要について、ご説明いただけますでしょうか。

(左)上智大学 経済学部 外川 拓准教授(右)東京国際大学 商学部 平木 いくみ教授
(左)上智大学 経済学部 外川 拓准教授
(右)東京国際大学 商学部 平木 いくみ教授

外川:今回の実験では「HAPPY PLUS STORE」の会員に、紙もしくはEメールのカタログどちらかを送付し、ランディングページ(以下、LP)へのアクセス、そして購買の2つのプロセスに至る行動と意識を調べました。

中谷:使用したのは「NAIL BOOK」というカタログです。人気のネイルブランド「NAILS INC」の様々なカラーを紹介するもので、豊富なカラーバリエーションを伝え、実際に塗ったときのイメージが浮かぶようなクリエイティブにしています。紙のものは冊子状になっています。

 また今回は掲載する商品数による違いも確認したかったため、ネイルカラーを8色掲載したバージョンと、16色掲載したバージョンの2種類を用意しました。

「NAIL BOOK」のイメージ(クリック/タップで拡大)
「NAIL BOOK」のイメージ(クリック/タップで拡大)

外川:会員にはこの4種類のカタログのうち、いずれかが届く仕組みになっています。

送付するカタログのパターン

8色バージョン × 紙のカタログ
8色バージョン × デジタルのカタログ
16色バージョン × 紙のカタログ
16色バージョン × デジタルのカタログ

外川:続いて、会員の行動を追跡調査するにあたっては、(1)カタログを受け取ってから(2)LPへアクセスし、(3)購買に至るまでの3段階のプロセスを、Google Analyticsでウォッチしました。一方、意識データについては、購買者、非購買者の両方を含む1,047名にアンケートを実施しました。

紙とデジタルの差は、どの段階で現れたのか?

――それでは、実験の結果について教えてください。

外川:今回、特に次の4点に関して興味深い結果が出てきました。順に説明します。

【1】「LPから購買に至る割合の高さ」に差が現れる
【2】アイテム数が多すぎるのは逆効果
【3】紙のカタログの行動喚起効果は大きいものの、工夫が必要な点もある
【4】会員の属性による違いもある

【1】「LPから購買に至る割合の高さ」に差が現れる

外川:まず、紙のカタログを送付した場合とEメールでデジタルのカタログを送付した場合では、(2)LPへのアクセス率にはそれほど大きな差はありませんでした。

 ところが(2)LPへのアクセスから(3)購買に至る割合に、顕著な違いが現れたのです。紙のカタログを送付した会員の場合、LPにアクセスした約26%の方が購買に至りました。このことから、紙のカタログを受け取った会員は、購買意欲が比較的高い状態でLPにアクセスしていたと推測できます。

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中谷:これまでの経験則から、紙のカタログのほうが購買につながりやすいような気がしていたのですが、これほど大きな違いが数値で実証されて驚きました。また当社では、紙とデジタルによるアクセス率の違いについて、精緻なデータを取ったことがなかったので、その点も非常に参考になりました。

 【2】アイテム数が多すぎるのは逆効果

外川:次に説明するのは、掲載アイテム数によって「ついで買い」の程度に差が出ていたということです。8色バージョンのカタログのほうが、16色バージョンのカタログより掲載商品以外の「ついで買い」をするユーザーが多いことがわかりました。

平木:要因として考えられるのは「膨満感」です。カタログにあまりに多くのアイテムが掲載されていると、それを見ただけで満足してしまい、購買まで至らない可能性があります。

 そのためカタログではユーザーの興味関心を「腹八分目」に留めておき、LPへ誘導して購買意欲をさらに高める工夫も必要なのではないかと感じました。

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紙のカタログを有効に使うためのポイント

【3】紙の行動喚起効果は大きいものの、工夫が必要な点もある

外川:本実験では、会員への事後アンケートを通じて、「行動喚起効果」についても調査することができました。その結果わかったのは、紙のカタログのほうがより後半のステージ、つまり検討、購入の段階まで進んだユーザーが多かったということでした。

中谷:これまで培ってきたコンテンツ制作力が活きた結果かもしれませんね。

外川:そうですね。一方で、紙のカタログを送付したグループに「買わなかった理由」を尋ねたところ、特徴的だったのは、「『あとで買おう』と思っていたら忘れた」という回答が多かったこと。これは、紙を活用するときの強い示唆になると思います。

 一般的に、紙は「一覧性がいい、保存性がいい」ことが魅力だと言われてきましたが、ともすると「あとでじっくり読もう」とそのまま置いておかれてしまう可能性もあるということが明らかになりました。

石塚:リマインドは重要なポイントになりそうですね。思い出してもらうことができれば、購買につながる可能性はもっと高まるのかもしれません。

【4】会員の属性による違いもある

外川:それから、今回紙のカタログの施策が最も響いたのは「入会して間もない層」でした。これは入会したてのユーザーにとって、紙のカタログの送付が驚きや新鮮さにつながり「サプライズ効果」となったことを示唆しています。

平木:私たちは過去に、デジタルネイティブに対して紙媒体のDMとEメールによるクーポンを送付した研究をしたことがあります(参考記事)。すると、意外にもデジタルネイティブにとっては紙媒体のDMをもらうと「嬉しさ感情」が高まるという結果が出たのです。紙媒体から伝わる人としての温かさ、特別感のようなものがあるのかもしれません。

外川:カスタマー・ジャーニーの視点から考えても興味深いですね。今回の実験では、LPに至る前に接したメディアが異なるだけで、その後の購買行動が大きく変化していました。ユーザーは昨今様々なメディアに接しますが、最初に接したメディアの影響が一番強くなる可能性が見えてきたのは、重要だと思います。

コンテンツ×最適なチャネルで人の心と行動を動かす

――改めて、本実験のご感想をお聞かせください。

石塚:紙カタログの購買率、行動喚起率、新規入会者に対する効果が、Eメールに比べてこれほど大きかったことに驚きました。先生方によると、同様の条件の実験で購買にこれほど大きな差が出たことは珍しく、コンテンツの完成度の高さが影響していたことがうかがえるそうです。改めて、コンテンツには人を動かす力があるのだという手応えを感じました。

外川:集英社さんがカタログ用に企画されたコンテンツは、内容もデザインも大変完成度が高いものでした。しかしながら、その世界観をデジタル上でそのまま表現しようとしても、画面のサイズや色味の見え方といった制約を受けてしまいがちです。一方で紙媒体には、企画の持ち味やクオリティの高さを余すところなく表現できるという特長があります今回確認された購買率などの違いについても、こうした紙媒体の特性がコンテンツの魅力をさらに引き立てた結果ではないかと考えています

 また、紙メディア、デジタルメディアによる購買の差が如実に現れたことや、どの層のユーザーに紙のカタログが響くかについて分析できたことは非常に興味深かったですね。また、ユーザーが購入をやめるタイミングやその要因についても、紙とEメールによる違いが明らかになり、おもしろいと感じました。

石塚:そしてこの実験の結果を受け、新規会員にはすでに紙のカタログを送付しはじめています。紙媒体でやっていることをそのままデジタルでやればいいということではありませんので、長年雑誌を制作してきたノウハウをうまく活かしていけたらいいですね。

中谷:デジタルであれば、お客さまのニーズに合わせてコンテンツを臨機応変に作り変えることもできます。ファッション誌のコンテンツとして、流行の変化や四季・気候のずれによる需要の変化にも、細かく対応できるといいですよね。“デジタル発・雑誌クオリティ”のコンテンツがあっても良いですし、それぞれの良さを掛け合わせていきたいです。

――最後に、デジタル×アナログの最適解を探るにあたって、さらに解明を進めていきたい点を教えてください。

平木:今回の実験では、「ついで買い」についておもしろい知見が得られた一方、当初明らかにしたかった「掲載アイテム数による購買の違い」について十分に分析しきることができませんでした。選択肢の数が多いとき、衝動買いをうながし購買数が増えるのか、または、迷うことで購買数が減るのか。さらには、購入数の増減によってどのような商品の選択が進んだのかといった購買の数と質の両面から、掲載アイテム数の効果を掘り下げて分析してみたいです。

外川:ユーザーごとの心理状態や会員入会の時期の違いによって、紙メディア、デジタルメディアのどちらが心理変容・態度変容に有効なのか、今後もより一層研究していきたいと思います。こうした研究が進めば、どのメディアをどのタイミングで活用すればユーザーをブランドのファンにできるのか、詳細なデータが集まり、実務にも活かせるより具体的な示唆を得ることができるはずです。

――本日はありがとうございました。

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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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