Brazeが日本市場にもたらした「グロースマーケティング」の概念
3月2日(火)10時55分から行われる「MarkeZine Day 2021 Spring」のセッションでは、メルカリUSの現王園氏、Brazeの菊地氏と新田氏を迎え、Brazeが支えるグロース戦略とリアルタイムエンゲージメントについて、より具体的な取り組みを共有いたします。ぜひご参加ください!お申込みはこちらから。
MarkeZine編集部(以下、MZ):カスタマーエンゲージメントプラットフォームの「Braze」は、2011年に米国で誕生して以降、グローバルで幅広い企業に導入されています。2020年10月に満を持して日本法人が設立されましたが、菊地さん、この数ヵ月の反響はいかがですか(参考記事)?
菊地:非常にポジティブに受け入れられていますね。我々が提唱する「グロースマーケティング」という概念にも、ユーザーの行動や心理までリアルタイムで把握して施策に展開できるという特徴にも、初めて触れる企業さんがほとんどです。ただ、話をしていくと「まさにこうした仕組みを求めていた」といった声を多くいただき、Brazeによって加速するマーケティングについて活発に議論できています。
一方で、この数ヵ月で気づいた課題もあります。日本のDXやカスタマーエンゲージメントの市場にはかなりエンジニアが少なく、またエンジニアと組んでビジネス成果を上げられるプロマーケターも少ないのが現状です。この点に対して我々は、体制や環境づくりまでアドバイスできる“トラステッド(信頼される)・ベンダー”になるべきだと感じています。
MZ:改めて「グロースマーケティング」について、どのような概念なのかうかがえますか?
菊地: B2Cの世界では、よく「グロースCRM」と呼ばれたりします。「CRM」自体は以前からある概念で、顧客との関係を適切にマネジメントしてリテンションを図ることですよね。対して「グロースCRM」や「グロースマーケティング」は、顧客との関係強化によってビジネス収益を上げていく、エンゲージメント構築をもってグロースさせるという考え方です。
カスタマーエンゲージメントプラットフォームとして我々が大きく描いている絵は、ブランドが消費者の心理に寄り添い、そこから自然にエンゲージメントが発生し、ひいては自然と収益をいただけるようになることです。
消費者の心理変化の瞬間を捉え、エンゲージメント基点でアプローチ
MZ:あくまで消費者の心理変化を起点にアプローチするのですね。ただ、心理まで捉えることも、それをさらに施策に展開することも、とても難しいのでは?
菊地:そうですね。深層心理まで含めて顧客のプロファイルを把握するには、多種多様なデータの統合が必要ですが、それには膨大な時間と手間がかかり、当然リアルタイム性も損なわれます。それが、マーケティングの大きな課題のひとつになっていました。
リアルタイムでアプローチする上では、消費者の心理変化の瞬間を捉えて、そこで発生するエンゲージメントを起点に適切にメッセージを伝えることが重要になります。Brazeではユーザーの属性や行動データが瞬時にアップデートされ、そのときどきの興味関心に応じて接触できます。
MZ:具体的に、Brazeはどういった技術的な特徴を持っていて、どのような支援が可能なのか教えてください。
菊地:Brazeは一言で言うと、未来思考なエンゲージメントを実現できるアーキテクチャです。エンゲージメント活動の結果、お客様がどういう反応をしたかを吸い上げる『インタラクティブフィードバックループ』という機能もあるため、常に最新化されたお客様のペルソナを保持し続けられます。
ブランドが消費者に対して行ったエンゲージメントに対する反応を常にキャッチアップし続けることが、グロース(収益)にもつながると思います。また、リアクションをキャッチアップしないエンゲージメント活動は一方的な求愛活動に似ていて、消費者のロイヤリティを失ってしまいます。
そうした前提のもと、具体的にBrazeが支援できる領域は大きく分けると3つのレイヤーがあります。まず、顧客を統合したマーケティングプロファイル基盤になることです。顧客の様々なデータをリアルタイムで把握し、パーソナライズしたメッセージを届けていくことができます。
2つ目は、複雑化していくカスタマージャーニーの構築を担えることです。ブランドと消費者との“Braze”、融合を掲げるとおり、より近しい関係性を築けるようなジャーニー構築を支援します。
最後は、オムニチャネルでのアプローチです。一人の顧客に対して一貫したメッセージを、スマートデバイスやIoTデバイス、またメールなどレガシーな手段も織り交ぜてしっかりと届けていきます。これら3点が、グロース戦略の大きな基軸になります。
データを活用したカスタマーエンゲージメントは未開拓 アプリ内でまだできることがある
MZ:日系企業の導入は、今回のメルカリUSさんのほか、楽天やオムロンなどBtoCの大手企業で相次いでいます。BtoC領域で「グロースのためにCRMに注力する」という考え方は、あまり聞いたことがありません。
菊地:確かにCRM自体は、長期的なリードナーチャリングやホットスコアの管理が必要なBtoB領域で主に発展してきました。一方BtoCでのCRMは、データ活用が進んでいなかっただけに、我々のプラットフォームが非常に革新的なインパクトを起こすと思っています。顧客のデータをリアルタイムで把握・分析できると、エンゲージメント構築のスパンをプロダクトの特性に合わせることや、その粒度を細かくしていくことができます。
MZ:なるほど。では現王園さんにお話をうかがいます。昨年、noteに「パーソナライズ化されたCRMを実現するための3つのステップ」として、メルカリUSのCRMがいかに成長してきたかを詳細に書かれていました(参考記事)。現王園さんの役職名にもなっている「Growth Marketing/CRM」では、どのようなミッションを持たれているのですか?
現王園:“Growth Marketing”は、日本では聞き慣れないかと思いますが、文字通りメルカリUSのグロースを担っています。一度流入した顧客に、より頻度高く使い続けていただくことももちろんグロースにつながるので、CRMでリテンションも見ています。新規獲得とCRMの両輪ですね。
以前は広告運用のチームに所属しており、既存顧客に主にリタゲ広告で接触してLTV向上に取り組んでいました。ただ、アプリ内でのプッシュ通知やメールなどの施策がまだ不十分だったので、広告費を使うよりもまずアプリ内を改善すれば、エンゲージメントを高められるのでは、と。その思いがあって、CRMに異動したんです
「WHO」を可視化し、リアルタイムで施策を打てる環境を構築
MZ:Brazeは、いつから導入されているのですか?
現王園:私が3年ほど前にCRMに移ったとき、既にBrazeは導入されていたものの活用は進んでおらず、全員に同じプッシュ通知を送るような施策にとどまっていました。同時にBrazeを介さずに自社ツールでメールが送られていたりもしていて、データの一元管理や施策のトラッキングができない状態でした。
そこでまず、すべてのコミュニケーションの記録をBrazeに統合し、顧客のデータや反応も含めてしっかりと見られる環境を作りたいと考えたんです。はじめは「売ったことがあるか」「買ったことがあるか」「両方の経験者か」などの属性データの一元化に着手し、常にBraze上に最新の状況が同期されるようにしました。
MZ:Brazeを参照すると、まさに今このユーザーがどういうステータスかがわかるわけですね。
現王園:そうですね、誰に何をどうやって送るかというマーケティングの基本「WHO・WHAT・HOW」のうち、「WHO」のコントロールが可能になりました。そうなると、「まだ売った経験がない人だけにプッシュ通知を送ってみよう」といった、構想で止まっていた施策もできそうだ、となって。エンジニアと模索しながら試したところ、極めて簡単にできたんです。
次に「WHAT」を掘り下げていきました。たとえば「こういう人にはこんな商品をレコメンドする」といったパターンは社内で作りますが、BrazeはそれらともAPIでリアルタイム連携ができるので、負荷がほとんどありません。これらのトライアルで成果が出始めて以降は、エンジニアも増やすことができ、前述の属性だけでなく、売る・買う、カートに入れるといった重要なイベントをトリガーにした施策も開発してきました。
メルカリUSの実践 グロースマーケティングを深化させる3つのフェーズ
MZ:約3年のグロースマーケティングの実践を経て、今どのような状況にありますか?
現王園:振り返ると、メルカリUSのグロースの歴史には3つのフェーズがありました。初期はまだ、メルカリUS自体の磨き込みが必要だったこともあり、前述のように一斉配信のみの段階。そこからプロダクトが成熟し、同時にBrazeの活用も進めて、この3年はグロースに注力すべき段階でした。グロースマーケティングの土台を作り、とにかく施策の数を打つことを重視していました。
今、イベントをトリガーにした施策は、仮説を立てたら即実践できるようになったので、もう一段階「WHAT」の精緻化に取り組んでいます。訴求する内容や接触の頻度も含めて、パーソナライズをもっと進めようとしています。
MZ:こうした仕組みを、あまりCRMのデータ活用が進んでいなかったBtoCの企業にも知ってもらえると、新規獲得から長期的な顧客化へという一貫したマーケティングが効果的に実現できそうです。
現王園:BtoBとBtoCの大きな違いは、データ量だと思います。BtoCはより顧客の多様性が幅広いので、難易度の高さを私も痛感しています。その中でコミュニケーションを最適化するなら、やはり何らかのプラットフォームがないと厳しい。かつ、いくつ仮説を立てても試さないことには確度がわからないので、「数を打てる」ことはグロースマーケティングの基盤選びの重要な観点だと思います。
今、我々のメンバーもそれぞれ在宅勤務ですが、以前と変わらず柔軟に動けているのは、Brazeの機能開発やつなぎ込みの容易さ、データのリアルタイム同期があってこそです。コストを抑えて自由度高く施策を打てるので、本当にアジャイルなマーケティングを可能にしてくれています。
MZ:菊地さん、メルカリUSさんではご紹介いただいたように三段階でグロースマーケティングを深化させていますが、日本企業は現在、どのフェーズが多い印象でしょうか?
菊地:圧倒的に最初の、一斉配信にとどまっている企業が多いと思いますね。もしくは、基盤が不十分でそれすらも難航している場合があります。「そもそも顧客は誰なのか」を可視化できていない点を、まずクリアする必要があると思います。
Brazeが目指す「エンゲージメントの民主化」
菊地:メルカリさんとは長期的なパートナーシップの下、先日もビジネスレビューに参加させていただいたのですが、プッシュ通知の開封率の高さに驚きました。それを少し紹介いただけないですか?
現王園:この1年ほどは、業界平均に比べて約2~4割高い開封率になっていますね。特に差が大きい月は、個々のユーザー行動を起点にした施策を実施した時期なので、パーソナライズの効果が明白です。これまでの実践の成果が積み重なって、今があると思います。
3月2日(火)10時55分から行われる「MarkeZine Day 2021 Spring」のセッションでは、メルカリの現王園氏、Brazeの菊地氏と新田氏を迎え、Brazeが支えるグロース戦略とリアルタイムエンゲージメントについて、より具体的な取り組みを共有いたします。ぜひご参加ください!お申込みはこちらから。
MZ:お話をうかがっていて、Brazeだからユーザーのモーメントを逃さずに施策を打てることができ、ユーザーの気持ちやニーズに沿っているから成果が上がり、メルカリUSの事業成長につながっているのだとよくわかりました。
現王園:ユーザーには、「Wow!」という驚きを提供したいですね。このタイミングでこれを提示するなんて、わかってるじゃん!……みたいな。直近の課題は、接触頻度の最適化です。人によって「多すぎる」と感じる頻度が違い、そこを見誤ると気持ちが離れて顧客を失いかねませんが、個別に推測して全キャンペーンに適用するのはすごく難しい。Brazeでこの部分をオートメーション化できたら、課題をまたひとつ超えられそうです。
菊地:ご意見、プロダクト責任者にすぐ伝えます。まさに、我々の目的はそんなマーケターやエンジニアの思想を究極的にオートメーション化することです。とにかくお金をかければある程度の開発はできるでしょうが、それは我々の目指すスタイルではありません。最小の投資で最大の効果を上げられる、「エンゲージメントの民主化」を実現したいと思います。