限定的なマーケティングはもはや持続しない
ではこの時代に、パーパスドリブンなブランドにはどんなことが求められているのだろうか。そのキーワードは、「サステナブル」と工藤氏は指摘する。
サステナブルとは、決して環境問題解決に限った話ではなく、健康や福祉、教育、貧困、働きがい、エネルギー、ジェンダーをはじめ、顕在化している様々な社会問題に持続的に向き合うことを意味する。「今がよければいい」「限定的なターゲットを幸せにすればいい」という限定的なマーケティングは、もはや持続しない。同時に、企業自身も、組織の在り方自体にサステナビリティの軸を検討していく必要があるのだ。
「パーパスドリブンを実現するためには、サステナブルは必須科目であり、マーケティングの形を変えていくでしょう。マーケティングは、世の中の人の意識や行動を変える力をもっています。サステナブルを軸としたパーパスドリブンなブランドを育成するマーケティング、いわば『サステナブル・マーケティング』の輪を世の中に広げていくことで、きっとマーケターは世界を良い方向に変えていくことができるはずです」(工藤氏)
ただ現実としては、持続可能な選択をしながら、持続不可能な選択もせざるを得ない、という矛盾もはらんでいる。たとえば、企業の生産活動では「原価の安さ」「利益率の高さ」を優先してしまうが、これらは人口減少が進みシュリンクする経済状況では、いずれ立ち行かなくなる。
ここで工藤氏は、「2025年がターニングポイントになる」と語る。2025年は、ミレニアル世代以降が生産年齢の過半数を占め、消費行動のメインプレーヤーになる節目の年で、大きな転換点になるという。たったあと4年で、SGDsに興味関心が高く、ブランドパーパスの有無で購買行動に影響を受けるミレニアル世代が、マジョリティになるのだ。

「今やるべきことは、来るべき2025年に向けて、持続可能な選択の一択をとれるように、社員を含めた企業の価値観やビジネスモデル、仕組みのシフトチェンジに備えることです。急な転換はできないので、今から企業の仕組みを変えて、できることから向き合っていく必要があります」(工藤氏)
マーケターは今、「生活者や地球にとってより良い社会」と「ブランドにとって良い市場」をつないでいくことが求められている。認識変容や行動変容を起こして、市場を創造することがマーケティングの本質であれば、その実現は決して不可能ではない。
SDGsやサステナブルがトレンドだから取り組むという姿勢は、生活者にすぐに見抜かれてしまう。社会価値と経済価値を相関させ、社会と企業価値を共有することを企業活動の軸に置かなければ、ブランド毀損に陥る危険性もあるだろう。
解決すべき社会課題を基点に、マーケティングを組み立てる
これまでのマーケティングは、「儲かるか・勝てるか」が出発点だった。一方、サステナブル・マーケティングでは「解決すべき社会課題が何か」を起点に組み立てていく。そしてゴールとしては、「売上・利益の高さ」に加えて、「社会課題解決と利益拡大との両立」が求められる。
一見相反しそうなゴールを両立させた状態だが、その定義は、目指すべき目標によって異なる。それゆえに、新たなKPIの設定や、仕組みの構築が必要になる。サステナブル・マーケティングにおいても、ビジネスとしてKPIを追っていくことに変わりはない。
たとえば、原価や時間軸においては、「昨対比」「既存品対比」「1gあたり」といった既存の判断軸ではサステナブル・マーケティングは立ち行かない。経営の強い覚悟のもと、新しいエクイティの試算方法や判断軸を生み出さなければ、チャレンジできない。同時に理念だけではビジネスは成り立たないので、事業の継続性という視点は不可欠だ。
「利益の考え方として、儲けを生み出すために再投資をするのではなく、『どうしたら社会課題を解決できるのか』という視点で再投資をしていきます。この実行には、組織の指針(to do)ではなく、在り方(to be)がより重要になってきます」(工藤氏)

昨年15周年を迎えたユーグレナは、「経営理念」「ミッション」「スローガン」をなくし、ありたい姿としての「フィロソフィー」を設定し、「サステナビリティ・ファースト」というto beの状態を掲げている。
これまでもサステナビリティに取り組んできたユーグレナだったが、「隅々までパーパスが完全に浸透していたわけではありませんでした」と、工藤氏は顧みる。企業としてのありたい姿を提示することで、発想の枠が変わり、「地球や社会のサステナビリティ」と「自社組織のサステナビリティ」を両立させる考え方に変わることができたという。