ユーグレナのサステナブル・マーケティング実践
ユーグレナは、会社の出自自体が「サステナブル・カンパニー」なので、サステナブル・マーケティングが実行しやすいと思われがちだが、実際はそうでもないと工藤氏は語る。ここで工藤氏は、自身が取り組んだ「ヘルスケア事業」のリブランディングの取り組みについて共有した。
リブランディング以前、ユーグレナの製品は、健康意識が高い人のための高付加価値商品ラインアップのため、限定的な人しか健康にできない状態だった。「戦略として間違いではありませんが、会社の目指す方向性として限定的な人しか健康にできない状態でいいのかという問題意識がありました」と工藤氏は当時を振り返る。

「ユーグレナという企業でも『売ろう』という気持ちが先走ってしまい、こういう状況に陥っていました。そのため、差別性・企業フィロソフィーとの距離感に、私自身課題を感じていました」(工藤氏)
では工藤氏は戦略を変更するために、何から取り組んだのだろうか。まずは出発点として「解決すべき課題」と「貢献できるエリア」を探ることから始めたという。サステナブル・マーケティングの特徴である、「解決すべき社会課題をどう見つけるか」を起点としたのだ。
自社が解決すべき課題を見つける方法としては、「ヘルスケア領域で取り組むべきサステナビリティとは何か」「ヘルスケアの社会課題とは何か」「健康食品はたくさんあるにも関わらず、健康寿命が延びていないのはなぜか」という疑問から掘り下げていった。
並行して、「自社の資源として何が使えるのか」を探った。すると、「ユーグレナが栄養豊富であるイメージは市場に一定の認知があるものの、便益の認知まではつながっていない」というギャップに気づいたという。同時に研究メンバーの協力のもと、機能性をすべて棚卸ししてもらい、解決すべき課題に対応できる領域を照合していった。
その結果、「対症療法だけでは健康寿命が延びにくい」「健康格差は子どもの時期から始まっている」「健康寿命を延伸するためにクリティカルに効くキードライバーの存在」を発見し、自社が貢献できることを言語化していった。同時に「原価低減の選択肢の少なさ」「味の評判があまり良くない」「流通チャネルの弱さ」といった課題も浮かび上がった。
これを受けて、工藤氏はヘルスケア事業における解決すべき社会課題を「健康寿命の延伸」と位置づけた。健康寿命を延ばすために3つの課題「栄養不足」「免疫低下」「自律神経の乱れ」をクリアにし、同時に価格やチャネル、味においても手軽に飲める状態を作ることを目指し、リブランディングを進めている。
マーケターの役割は、未来を見据えてアクションを起こすこと
またユーグレナは、2019年以降、18歳以下の「Chief Future Officer(最高未来責任者)」を募集し、大きな話題となった。社会課題を将来の自分ごととして捉えられる世代の意見を経営に生かすことを目的としたこの取り組みは、ソーシャルインサイトとパーパスが結び付き、高いROIを収めているという。
「サステナビリティの活動は、『今すぐできること』と『今すぐできないこと』があります。ただ、今すぐできないことに対しても、CFOを通して意思を表明して、将来に向けて取り組みを開始しています。現状でできていなくても、目指す未来への意思を表明することで、できることがより明確になり行動に移しやすくなります」(工藤氏)
最後に工藤氏は、自身が思考と戦略を整理するときに利用するフレームを紹介した。このフレームによって、「やりたい」「やるべき」「やれる」の重なる部分を探すことができるという。

「『やりたい』と『やれる』だけでは自分勝手に、『やりたい』と『やるべき』だとポエムに、『やるべき』と『やれる』だけでは、自分がとてもしんどくなってしまいます。この3つが重なるところを探すことで、思考と戦略を整理することができます」(工藤氏)
ここで工藤氏は、「注意がすべきなのは、サステナブルに軸足を置きすぎると、『正しいけど欲しくない』『すごいね』で終わってしまう」と警鐘を鳴らす。これを防ぐためには、ターゲットの「欲しい」の前提をクリアすることがカギとなる。
当たり前だが、これまでのマーケティングと同様に、主要購買要因を確実に押さえることは外せない。ミレニアル世代が消費行動をけん引する2025年、「サステナブル」が当たり前の時代になった時、「サステナブル」であること自体は差別化にはならなくなっているだろう。その先の時代を見据え、何を創っていくのか。どんなブランドになっていくのか。未来を見据えて考え続け、アクションを起こすことこそが、マーケターに求められる役割だろう。