ウェブ広告の需要が増え、競争はよりシビアに
新型コロナウイルスは、ウェブ広告業界にも大きな影響を及ぼしている。どのような変化があったのか、船井総研コーポレートリレーションズの原氏はデータに基づいて紐解いていった。
まず、2019年上期と2020年上期のインターネット広告費の割合を比較すると、2020年上期はコロナ禍による緊急事態宣言の影響もあり、インターネット広告費が増加したと回答した企業は1割強しかいなかった。しかし、下期では徐々に回復傾向となり、4割近い企業がインターネット広告費が増加したと答えている。
また、2020年上期と下期を比較したインターネット広告取り引き手法別のキャンペーン費増減のデータを見ると、リスティング広告とSNS広告がウェブ広告業界を後押ししていることがうかがえる。
「ウェブ広告の出稿が増えているということは、ますます競争がシビアになり、ただ運用するだけでは集客できなくなっているということです。そうした状況下で成功するカギは、正しい広告戦略の策定と業界の状況に合わせた配信設定にあります」(原氏)
広告業界の無駄遣いあるあるTOP5
せっかく出稿したウェブ広告だが、以下の5つの要因により無駄遣いが起きてしまうことがあるという。
ウェブ広告の代理店は、広告主の配信費用が多いほど収益になるビジネスモデルだ。そのため、広告不良にも関わらず予算消化が過度に行われたり、ウェブ広告で当たりにくい商品に広告をかけ続けたりするところもある。
また、代理店を頻繁に変えると情報が良くも悪くも分散してしまう。信頼のおけるメイン代理店を軸に、他の代理店も併用して検証していくというのが理想的なスタイルだろう。
「上記5つの項目に心当たりがあれば、見直しを図ってみることをおすすめします。ウェブ広告は、サイトや展開する商品と連動してこそパフォーマンスが高まるものです。そもそも自社にとって出稿が適切か否かを見極めることも重要になってきます」(原氏)
運用面においては、以下のポイントに注意しなければ無駄遣いになってしまう場合があるという。
ウェブ広告の無駄遣い例【1】運用編
「KPIは絶対に数値化して明確にする必要があります。漠然と広告配信を行うべきではありません。ウェブ広告に関する知見が乏しい場合は、代理店のサポートを受けながら、納得の上でプロモーションを進行するのがいいでしょう。予算や配信媒体、クリック単価については、柔軟性をもたせた連携を推奨します。正しい運用施策こそが無駄をなくすポイントです」(原氏)
ウェブ広告の無駄遣い例【2】サイト編
そして、ウェブ広告のとび先(誘導先)であるサイトの質がよくないと、ユーザーを取りこぼしてしまう原因となる。サイトを改善しない限り、ウェブ広告の効果最大化は見込めないのだ。
「ウェブ広告運用とウェブサイトの改善のPDCAのサイクルを速めて、適切なユーザーを適切なサイトに誘導することが重要です」(原氏)
自社運用or代理店運用 得なのはどっち?
ウェブ広告は、自社で運用するほうがよいのか、代理店に運用してもらったほうがよいのか。悩んだことのある方も多いだろう。
この疑問に対し、原氏は「ズバリ、自社運用のほうがおすすめです」と断言する。そして、自社運用のメリットを次のように説明した。
まず、代理店手数料を削減すると、その分を広告配信に充てられる。また、自社でクリエイティブを管理することで、適切なメッセージを届けられ、広告の品質向上が期待できる。
計測環境次第では配信媒体ごとにCPOやLTVを把握できるので、CPAよりも奥の領域でウェブ戦略の展開が可能となり、また配信設定にタイムラグが発生しないためスムーズな運用サイクルとなる。
これらのメリットにより、パフォーマンスの最大化が期待できるほか、自社内でウェブ広告運用の知見を蓄積し、ウェブマーケティング全般で活用していくことができるという利点もある。
「社内で知見を蓄積できる点が、自社運用の一番のメリットではないかと思っています。それにより、継続的なウェブ戦略を能動的に立案できるようになるからです」(原氏)
自社でウェブ広告を運用するのは難しいと思われるかもしれないが、機械学習による自動入札を活用すれば、おおかた問題ない。今やグーグルをはじめ大手媒体も自動入札を推奨するほど精度が上がっており、過去に使ったが満足できなかったという経験があっても、再度活用してみるといいだろう。
「機械学習による入札は、広告代理店の運用でも取り入れられているものです。つまり、基礎知識さえあれば、誰でも簡単にウェブ広告を運用できる時代になっていると言えます」(原氏)
自社運用の向き不向きを見極めるポイント
しかし、自社運用にもデメリットはある。
専門知識が必要になる上、アップデートのサイクルが速い業界であるため常にアンテナを張っておく必要がある。広告運用専属の担当者を置かない場合は、従来の業務にプラスして広告運用業務が増えることになる。また、競合他社の状況がつかめないため、自社の広告パフォーマンスがよいのか悪いのか判断できないという問題も起こりがちだ。
社内でウェブ広告の運用スキルを正しく評価する基準が設けられていないケースも多く、それがモチベーションの低下や退職動機につながる恐れもある。担当者が辞めてしまった場合、後任の育成も一朝一夕とはいかず困難だ。
では、どういった企業が自社運用をするのに適しているのだろうか。原氏は、検討する際にチェックすべき条件を紹介した。
「継続的な広告配信を実現させるため、適切な環境でウェブ広告運用を行えるかということを、自社運用すべきか否かの判断材料にしてください。運用担当者を選任にするかについては、月額の広告予算と稼働媒体数を参考に決めます。予算が1,000万を超える場合、もしくは3媒体以上の稼働がある場合は、専任の担当者をつけることをおすすめします」(原氏)
よりよい広告代理店を選ぶために「こんな代理店には要注意!」
広告代理店による運用が適していると判断した場合は、代理店の選び方にもポイントがある。
「たとえば、担当者がコロコロ変わったり、レスポンスが悪かったりするという声はよく聞きます。目先の広告評価しか見ておらず、広告主の業績アップを後回しにする代理店は活用する意味がありません。
中には、効果が上がっていないにも関わらず、媒体側の利益を優先して月末に予算をフル消化してしまうところもあります。ウェブ広告は、あくまで広告主の業績アップを目指すためのものです。広告主を大切に思っていたら、そのようなことは絶対にしないはずです」(原氏)
とはいえ、実際に取り引きをしてみなければ、どういう代理店なのか判明しないことも多い。よい代理店と付き合うために取り引き開始前にチェックしておくべき項目も共有された。
「代理店には広告効率以外の+αを求めてください。自社の商品やビジネスモデルに理解がなければ、最適な広告運用の提案などできません。
また、代理店の窓口となる営業担当者よりも実際に広告を運用している担当者のほうが自社のビジネスを熟知しているケースが多いので、運用担当者に直接問い合わせることができる環境かどうかも意外と重要なポイントになってきます」(原氏)
立ち上げを代理店に委ね、後から自社運営をするという選択肢も
最後に、船井総研コーポレートリレーションズが提供する自社運用支援のサービスが紹介された。最初は広告代理店のサポートを受けたいけれど、ゆくゆくは自社で運用していきたいという企業のためのサービスだ。
「広告運用で重要な初期設定はもちろん、稼働から3カ月は弊社が運用し、成果の出るアカウントを作成します。そのアカウントに満足いただけたら買い取っていただく、というものです。その間は代理店手数料は発生せず、広告出稿にかかった原価のみをお支払いいただく形になっています」(原氏)
アカウントを買い取った後3カ月はノウハウの共有や管理画面の扱い方などのレクチャーを行い、6カ月の期間で自社運用を最適化し、稼働できるようにするという。
「今はウェブ広告をやるのは当たり前の時代で、どう運用するかという視点がとても重要です。今日からできることとしては、まず自社に適したウェブ広告の出稿方法を把握してください。その際に判断に迷うことがあったら、我々に解決のサポートをさせていただければと思います」(原氏)