ブランディングのPDCA、各社はどう回している?
明坂氏(テレ東):ではここからディスカッションに移りましょう。最初のテーマはブランディングについて、「どのように計測し、どのようにPDCAを回しているのか」です。AGCさんの場合は、かなり明確に画像投稿者数と定義していらっしゃいますね。
田家氏(AGC):ブランディングをファンと共に作っていくことで、親近感を醸成させたいと考えており、「一緒にブランドを作ってくれる人=ファン」と定義しています。そこで、ファンを増やすことをKPIとしました。
稲積氏(アース製薬):アース製薬の場合は季節商材が多いので、それに合わせて年に1回プロモーションをやりつつ、ブランド定点調査を行っています。そこで、認知をどれくらい取ればいいか、競合はどのランクにいるか、どこまで上げるべきかを議論し、デジタルや新聞、テレビでリーチを積み上げて目標達成を目指すという感じです。
明坂氏(テレ東):日用品業界的な戦い方としては、やはりリーチやフリークエンシーが大事なんですね。難しいのですが、ブランディングについて「どうイメージしてほしいか」という点についてはいかがですか?
稲積氏(アース製薬):例えば虫よけ剤のブランド担当者であれば、やはり「虫よけ剤=アース製薬」といったところを目指しています。さらにいえば指名買いをいかに多くするかが大きな課題となっているため、そこを強化して差別化につなげたいと考えています。
明坂氏(テレ東):弊社ではテレビ自体の消費はタダなので、視聴者はどこまで深く消費しているのか、どこまでエンゲージメントがあるのか、ただ見ていてもわからないんです。番組ごとに「絶対に見る人」「基本は見るけど、見ないこともある人」「気が向けば見る人」「見ない人」とで分けるとしたら、深夜番組や、ユニークなアイドルさんが出ている番組だと、ファン層も非常に濃いことがわかっています。
そこで、その番組がどのようなコミュニケーションを展開しているかをよく観察して、「濃いファンを育てるため、この番組ではこういうことをやっている」という施策を還元することで、ファンを育てていくといった取り組みや、その逆の取り組みも行っています。ブランドイメージを紐解き、そのコミュニケーションを共有知として展開するイメージですね。
ファンにメッセージを伝えるコツ
明坂氏(テレ東):では次のテーマ「重視しているチャネルと伝え方のコツ」についてです。先ほど、InstagramとTwitterの事例がありましたが、それぞれSNSの特徴や文脈の違いを自社ブランドにうまく当てはめて展開していますよね。この伝え方について、何か取り組んでよかった点はありますか?
田家氏(AGC):ペルソナ起点が重要だと思っています。当社の場合なら、「背伸びしてみせることから卒業した大人の女性」で「気持ちに余裕やゆとりがある」けれど、「日々の仕事や子育てに忙しく、時間が限られている」というペルソナの背景を踏まえ、ストレートなわかりやすい表現、等身大や自然体、対等さを心がけています。
伝え方のコツですが、「誰が伝えるか」というのも重要なポイントです。当社ではリアル販売でずっと接客業に従事しており、ペルソナに近い人がSNSの運用をしているのですが、お客様から来たメッセージに対する表現や言い回し、相手の気持ちをくむといったコミュニケーションスキルがやっぱり私たちと違うんですよ。
明坂氏(テレ東):店頭コミュニケーションは、Instagramでも有効なんですね。アース製薬さんは、テレビCMも多いと思いますが、SNSに注力されているのはどういう狙いがあるのでしょう?
稲積氏(アース製薬):テレビは非常に効果が高いのですが、リーチできない層もあるので、そこをSNSでカバーしています。そして伝え方のコツについては、双方向でコミュニケーションすることが大切だと考えています。たとえば、消費者の方の投稿に公式アカウントが反応したり、リプライをもらったりすると、その方もちょっと嬉しいと思うんですよ。そういう1つひとつの積み重ねが大切で、私たちもそうやって運営しています。
明坂氏(テレ東):そういう意味では、テレビって、一方通行メディアの極みだと思っているんです。YouTubeやライブ配信に比べると、やはり親近感は低くなりますよね。だからブランドとして親近感を出すために「中の人」の番組作りを紹介したり、テレビというオーソリティを担保した上でパーソナリティを見せていったりという両輪で活動しています。
さて、そろそろお時間です。最後に一言ずつお願いいたします。
田家氏(AGC):ファンの人と一緒にブランディングしていくという軸はブレることなく、いろいろなことにチャレンジしたいと考えています。
稲積氏(アース製薬):今日お2人の話を聞いて、やはり消費者と企業の1対1のコミュニケーションが進んでいるのかな、と実感しました。そうして消費者1人ひとりと対話することで、ブランドの形成が作られると思うので、引き続きそこは強化したいと思います。
明坂氏(テレ東):正解はないので、どんどんインタラクティブな時代になるこの世の中、新しいブランディングに挑戦していきたいですね。