ツール提供だけでは、企業の課題解決にはつながらない
Webやアプリの行動データをもとに、最適な人に最適なチャネルで最適なメッセージを届けることを可能にする、カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro」。“Webとアプリで最適な接客を行い、1to1マーケティングを実現する”をミッションとしており、アパレル、金融、人材と幅広い業界で導入されている。
このReproが新しくスタートしたサービスが「コンバージョン最大化サービス(2021年4月にサービス名を変更)」だ。同社でマーケティング部の責任者を務める實川氏は、「ツールを提供するだけでは、みなさんの課題を解決できていないのではないかと考えました」と、サービス提供の背景を詳しく説明した。
Web接客ツール導入の本来の目的
コロナ禍の影響で、実店舗を中心に展開している企業でも、ECへの注力を半ば強制させられたところが多いだろう。しかし、ECの売り上げを拡大するために、Webサイトを改修したり、サイト上で施策を実施したりするのには時間とコストがかかる。
たとえば、サイトの制作を外注している場合、小さな修正だけでも数週間から1カ月程度の期間が必要となる。店舗あがりのスタッフがECも担当しているため、十分なノウハウがない、日常的な業務に追われて改善施策に手を付けられないなど、体制・リソース・ノウハウの問題でWebサイト上での施策を思うように進められないというケースは多い。
そこで活躍するのが、Web接客ツールだ。簡単なテンプレートで、制作会社を使わずに施策を実装でき、PDCAを回しながら売り上げの向上を図ることができる――そんなツールを提供することで、企業のマーケティング支援を実現するはずだった。
が、「ツールを活用して本来やりたかったことを、実際にはやり切れていないというギャップがある」と實川氏。同社が実施した「Web・アプリ接客ツール利用実態調査」の結果から、落とし穴が見えてきたという。
共感できる? Web接客ツール導入の落とし穴
まず、接客ツールを導入している企業は約55%と、かなり普及はしている状況。しかし「導入に満足している」と回答したのは約半数の52%、「どちらとも言えない」という回答が38%、「不満」という回答が10%であった。また、導入時の目的と達成した目的を見てみると、いずれも期待値以下であることがわかる。
さらに、ツール導入後に出てきた課題点として、「やれると思っていたことが実際はできなかった」「契約時やりたいと思っていたことと、今やりたいことが違い、施策が実現できない」「作業時間が増えた」という回答が多かったことを指摘し、實川氏は次のように述べた。
「なにか便利になるツールを入れたはずが、導入によってできることが増えたために結局作業時間が増えてしまったり、そのツールの使い方を覚えるために時間がかかってしまっていたりします。本来、Web接客ツールは非常に便利なツールです。しかし、導入して成果を上げるためには、ちゃんと運用できることが大前提としてあるのです」(實川氏)
運用はプロに任せて、一緒にPDCAを回していく
「Webサイト改善に知見のあるプロが使いこなす」という条件をクリアしなければ、Web接客ツールを導入しても成果をあげることは難しい。だが、そのような人材を抱えている企業は少ないだろう。
そこで、「コンバージョン最大化サービス」の提供に至ったというわけだ。
「Web接客ツールの運用をそのまま丸ごとプロに依頼することができれば、ノウハウ、リソース、改善環境などの課題が解決し、PDCAを高速に回すことができます」(實川氏)
「コンバージョン最大化サービス」では、Web改善に知見のあるグロースチームがサイトを分析し、LTVやCVRの向上を提案する。Reproは以前から運用支援を行ってきたため、知識やノウハウは豊富。「ツールベンダーで専門のグロースチームがいるというのは珍しい」と實川氏は胸を張る。
サービスの提供プロセスとしては、まず約1カ月程度の期間で「戦略フェーズ」を進める。戦略フェーズでは、Google AnalyticsやAdobe Analyticsなどを利用した定量的な分析、ユーザーテストなどによる定性的な分析をもとに改善箇所を特定し、プランニングを進める。
この後、最優先課題、準優先課題の解決に向けて、Reproを活用した施策の立案・実施・改善のサイクルを回していくという流れだ。
「コンバージョン最大化サービス」には、定例会での施策の振り返りやレポーティングも含まれる。定点レポート、テーマに応じた個別の分析などを行い、「なぜその結果になったのか」と仮説を立てて、チューニングしていく。
1to1コミュニケーションがタグを入れるだけで即実現
では、具体的にどのような施策をしていくのか。ひとことで言うと、サイトにタグを埋め込むことで、サイト内での1to1コミュニケーションを行っていく。
たとえば、カート内に商品が残ったままの“カゴ落ち”状態の顧客に対しては、「お買い忘れはありませんか?」といったメッセージを送ったり、商品閲覧時に「現在10人がこの商品を閲覧しています」「10人がこの商品を購入しました」などのポップアップを表示させたりすることが、タグを埋め込むだけで可能。
キャンペーン開催中に「あと〇時間で売り切れます」などと表示したりすることもできる。「通常こういった施策は、すぐに制作することができなかったり、個別のカスタマイズも難しかったりしますが、Reproを使用すると、タグを入れるだけで実現可能になります」と實川氏。こうした施策を通して、1to1コミュニケーションをスピーディーに行えることがReproの特長である。
【事例】1年間で行った施策は200以上、CVRは180%改善
「コンバージョン最大化サービス」を導入して1年で200以上の施策を行い、CVRを180%改善、ROI863%を実現させたのが、アパレルブランドのWEGOだ。WEGOは、Webサイトとモバイルアプリの両方でECを展開している。
まず行ったのは、Webサイトの改善。Reproがサイトの分析、施策の提案を行い、それを受けてWEGOと共同でディスカッションしながら施策を進めていった。
「完全に我々に丸投げしていただいてももちろん構わないのですが、どのようにしたいか、どうすべきかについては、オーナーシップを持って関わっていただくというのが理想的な体制です」と實川氏。ミーティングは月に1回程度、1時間以上にわたる議論を重ねてきたという。
行われた施策のひとつがWEGOが以前からコンテンツとして持っていた「STAFF STYLE」の活用だ。カリスマ店員がおすすめしていたから、この店員のコーディネートが好きだから買うということはよくあるが、実際にReproで分析すると「STAFF STYLE」を閲覧したユーザーのCVRが高いことが判明した。
しかし「STAFF STYLE」はサイトの奥まったところにあり、ユーザーがたどり着きにくかったため、ポップアップを表示し誘導。その結果、CVRが大幅にアップしたという。
また、ECはコラボアイテムの単発購入で終わってしまうユーザーが多いことも分析から明らかに。年間平均購入回数が、店舗は年5回であるのに対し、ECは1.5回であった。そこで、ポイントプログラムの会員へポイントを利用した買い物を促すポップアップを表示した。
「ポイント利用を促すポップアップは一般的ですが、この施策では、貯まっているポイント、年齢、性別などによってクリエイティブを変えるなど施策を細分化し、チューニングしていきました」と實川氏。施策の結果から仮説を立てて、改善していくというプロセスを回すことで、ECでの平均年間購入数もアップすることができた。
興味深いのは、共同で施策を行ったWEGOの担当者が、それまでは店舗で業務をしていたスタッフだったという点だ。デジタルマーケティングの知識やノウハウが十分でなくても、ここまでの施策を実行できたというのは驚きだろう。
最後に實川氏は、「Reproはツールを提供しているが、人の力を重視しています。今後もツールの力と人の力を合わせることで、企業の成果をあげることにフォーカスしていきたいと思います」と抱負を語って、講演を結んだ。