「計測」と「ターゲティング」に影響が現れる
――先ほど「漸進的な対応が必要」というお話しもありましたが、現時点で予測される具体的な影響や変化については、どのように捉えることができるでしょうか?
羽片:予想される影響については、大きく「計測」と「ターゲティング」の2つに分けて整理するとわかりやすいと思います。まず計測について、現状のCookieを使った手法はできることが限られていくと思います。ただ、計測できないだけで広告配信による効果は発生しているため、Cookieを使わない計測モデルや指数を確立していくことになると思います。
中村:媒体を横断した「横×横」の計測ができなくなりますよね。ファーストパーティデータの活用も、先日リリースされたiOS 14の変更点によると一定の制限がかかるようですが(※参考記事)、やはり従来の単純なCPA比較ができなくなる影響は大きいです。
羽片:これを機に、CPAを軸に広告を最適化していた状況から、もう少しKGIに近い指標を複数押さえて総合的に判断していくようになると予測しています。当社としても様々な可能性に対して準備をしています。
次にターゲティングについては、やはり媒体からすると広告効果に直結する要となる部分ですので、データ欠損から配信の最適化が効きづらくなる側面はあります。特に、リタゲへの影響が大きいでしょう。
中村:ターゲティングでも自社が保有する属性データなどを活用したり、あるいはブロードターゲティングなら影響が少なさそうですが、それでも蓋を開けてみないとわからない部分はあります。
羽片:なるほど。計測とターゲティング、また自社データと外部データという2つの軸で掛け合わせると、ある程度整理ができそうですね。
Facebook社が進めている3つの対応
ーー次に、FacebookやInstagramへの影響についておうかがいします。これまで使えていた計測ツール「Facebookピクセル/SDK(※)」はどうなるのか、広告主側ではどんな対応が必要になるのか、現時点での見通しをお聞かせください。
(※)Facebookピクセルは、利用者がWebサイトで実行したアクションを把握することで、広告の効果を測定する分析ツール。また、SDK(Software Development Kit)は、利用者がアプリで行ったアクションを把握・測定するためのツール。
中村:大きく3つの観点と対応策があると見ています。
(1)Apple社のiOSにおけるポリシー変更に起因するシステム設定変更の必要性
(2)プライバシーとパーソナライズの両立
(3)統計的手法によるモデルの採用
まず直近では、iOSの変更によるシステム変更が必要になります。我々に送られるデータ自体、取得に時間を要するようになりますし、利用者単位ではなく合算され、データ種類に制限もかかる。この「遅延・合算・制限」が生じる中でも最適な広告配信・計測ができるよう、対応を進めています。
2つ目は、前述のプライバシーとパーソナライズの両立に関してです。サードパーティCookieはなくなっても、サーバー間で直接連携してプライバシーセーフな形でデータを送る「コンバージョンAPI(CAPI)」を実装していただくことで、利用者の同意を得られて入手したデータを信頼できる環境で共有いただけます。当面は、ピクセルはAndroid側のCookieに使えるので、ピクセルも併用いただけます。
この部分のもうひとつの切り口としては、我々のプラットフォーム内でのファーストパーティデータを活かして、体験価値を最大化する方向性があります。Instagram広告で興味を持って、そのままInstagramショッピングに飛んで購入するといった動線には、Cookieの問題は関与しません。
3つ目は“future is modeled”とも呼ばれますが、統計学的にモデル化していく手法を採用することです。これは我々以外のプラットフォーマーも同じだと思いますが、リタゲをCookieに頼らずモデルで実行するわけです。ただ、各プラットフォームがモデルでリタゲをしていっても、CPAのような共通指標はない状態、つまり従来の単純なデータ連携による「横×横」の比較はできなくなるので、統計学的なモデルも併用しながら計測していくことになると思います。