事業を横断して捉えて投資を最適化できる指標が必要
押久保:認知や好感度も一定の指標にはなるのでしょうが、より追いかけるべきはNPIだと。ダイエットをする際に、体重ではなく別の指標を見なければ、といったことですか?
長:たとえが素敵です(笑)。まさに、体重より体脂肪率のほうが重要じゃないですか、みたいな感じですね。
竹中:事業を伸ばすとき、最終的な結果により相関が高いKPIを追いかけるほうがROIが高く、最短で成果を上げられます。また、あまり説明力のないKPIが乱立していると、「認知度や好感度は上がっているのに売上が伸びない、なぜか」といった無意味な原因究明に延々と向き合い、時間をロスしてしまう。それは本当にもったいないと思います。
今の話は現場視点ですが、複数事業を統括する経営者からも「ブランドごとに異なるKPIを上げてくるので比較ができない」という課題を聞いていました。
押久保:なるほど、それだと横比較できないから、リソースの最適配分や問題に気づくこともできないわけですね。
竹中:その通りで、経営層には「事業横断で見られる指標」が求められていたんです。
なので現場と経営層とも、シンプルでわかりやすく、説明力があり、事業横断で比較できる指標があれば役立つだろうと。そこに、我々の肌感でNPIが使えますと言うわけにもいかないので、データで証明しようという運びになりました。
日用消費財6カテゴリー・56ブランドで売上との相関を調査
押久保:ちなみに竹中さんもP&Gご出身ですが、同社ではやはり認知や好感度ではなく事業成長に直結する指標を使っていたのですか?
竹中:認知や好感度は見ていなかったですね。たとえばブランドマネージャーの評価には売上・利益の財務指標と並列で、顧客から見たKPIが定められていて、前者がよくても後者が伸びていないと「持続可能な成長ではない」と見なされました。P&Gでは相応のコストと時間をかけて事業を評価する基盤を構築していましたが、同様にできない企業でも、指標としてNPIを見ることで、事業成長に直結するKPIとしての運用が可能だと思っています。
押久保:では、調査の概要とプロセスをうかがえますか?
竹中:まず、調査対象とする業界を絞りました。ブランド数が多くデータを取得しやすい点で日用消費財にフォーカスし、マクロミルさんに相談して6カテゴリー(ビール、緑茶、エナジードリンク、部屋用消臭芳香剤、シャンプー、袋麺)計54ブランドを対象としました。併せて学術的な視点も取り入れたいと考え、共同研究者として、三菱電機やホンダなどで実務経験もお持ちの埼玉大学の加藤拓巳先生に加わっていただきました[※2]。
ユーザー調査は12月に実施し、日本全国20~69歳男女を対象に、各カテゴリー1000サンプルずつ「NPI」「u-NPI[※3]」「認知」「好感度」「満足度」「NPS」の回答を得ました。
これとは別のパネルとして、マクロミルの消費者購買履歴データ「QPR」で3万パネル分、昨年1年間の購買の実データを参照し、各ブランドのマーケットシェアを「金額シェア」「数量シェア」の2つで把握しました。そして、前述のユーザー調査の6KPIで相関を分析しました。
プレスリリース:マーケットシェア拡大に有効な新KPIを特定
u-NPI(顧客内次回購買意向/User Next Purchase Intention):現在の顧客(継続的に購入している人)だけに限った次回購買意向