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第107号(2024年11月号)
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顧客起点のビジネスはどう実施する?インバウンドの思想を取り入れた成功事例(AD)

CRM利用定着率100%!AnyMind Group事例に学ぶ、ツールの利用定着化5つのポイント

 顧客体験(CX)が経営課題のキーワードとして語られることが多くなった。製品を売るだけでなく、売る前から購入後まで一貫したCXを提供するためには、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスといった部門の枠を超えた連携が不可欠だ。一方で、それらを実現するためにCRMを導入したものの、社内利用が定着せず、成果に結びつかないと感じている企業も多いのではないだろうか。本稿では、戦略的にCRMを社内普及させ、CXの向上と売上増加を実現したAnyMind Groupの事例から、ツールの社内定着化を実現するヒントを探っていく。

顧客とのコミュニケーションロスをなくしたい

――はじめに、お二人がご担当されている業務について教えてください。

大川:2018年にAnyMind Group入社し、以来、CFOとして資金調達やM&Aを含めた財務戦略などを統括しています。現在はバンコク拠点にて、コーポレートガバナンスの強化を担っています。

増田:2017年にAnyMind Groupに入社し、ベトナム拠点を経て、現在はバンコクでグループ全体の基幹業務システム導入やバックオフィス体制の構築プロジェクトを担当しています。2019年12月からは、大川やエンジニアと一緒に、CRMツール導入プロジェクトを進めています。

AnyMind Group CFO 大川敬三氏/AnyMind Group Manager, Corporate planning 増田隆宏氏
AnyMind Group CFO 大川敬三氏(写真右)
AnyMind Group Manager, Corporate planning 増田隆宏氏(写真左)

――なぜCRMを導入しようと考えられたのでしょうか。

増田:導入以前、当社は大きく2つの課題を抱えていました。一つは、「顧客とのコミュニケーション情報が複数個所に点在していた」ことです。当社は世界13ヵ国にまたがって事業を展開させていることもあり、それぞれの国やチームで個別に管理ツールを利用したり、スプレッドシートを作成したりして運用していました。ですが、管理が分かれているとリアルタイムで全拠点の現状把握をすることに課題が生じます。過去のコンタクト履歴を完全に把握せずに連絡してしまう、反対にフォローが追いついていないなど、顧客とのコミュニケーションロスが起こっていました。

 もう一つは「営業プロセスの精度向上」という課題です。情報が分散しているため、売上の見通しや個人の営業活動を踏まえたフィードバックをマネージャーがタイムリーに行えていないなどの課題が発生していました。

大川:弊社はグローバルでERPシステムを導入しており、当初はそのシステムで情報を一元管理しようとしていたのですが、より効果的な顧客情報や見込み案件管理の方法を探るべく、CRMツールの導入を検討するようになりました。

 ですが、他社の導入事例のヒアリングなどを行う中で、「導入しただけで使いこなせずに放置されている」といった話を耳にすることもあり、活用できるかを不安視する声も根深くありました。それでなかなか前進できずにいましたが、拡大する事業規模を踏まえると先程挙げた2つの課題に対処する必要性が高まってきたことから「HubSpot」の導入を本格的に進めることになりました。

自分たちの思想にあったツールを選ぶ

――数あるCRMの中で、HubSpotを選んだ理由は何だったのでしょうか?

大川:どのCRMツールを選んでも、導入・浸透するハードルは高いと認識していたので、導入プロセスにおいてより社内メンバーに受け入れられるユーザーインターフェースや機能を備えているものは何かという視点を持って選んでいきました。

 中でもHubSpotを選んだ一番の理由は、情報管理に対する思想が当社のイメージと最も近いと考えたからです。我々がCRMツールを使って目指していたのは、AnyMind Groupの中にあるすべての情報の一元化。それを実現するには、営業メンバーに限らず、より多くのメンバーがツールを使える状態にしないといけません。

 その観点でいくと、課金体系も大事な要素になります。利用ユーザー単位で課金されるようなものだと、ユーザーアカウント数を削減しどうコストを最適化するかを考えるようになってしまうと感じていました。

 その点HubSpotでは、コンタクト(CRMに登録した見込み客)や取引パイプラインの管理などのコアな機能は、利用ユーザーの制限なく利用できる仕組みを採用しています。その点は我々の実現したいイメージに近いと感じました。

増田:そして2019年11月に契約を結び、2020年3月にプロジェクトチームを発足して本格的に取り組みをスタートしました。

 4月頃からはテスト運用を開始し、同時に蓄積されていた情報をHubSpotに入れる事前準備を完了。翌5月には運用の目途が立ったので全体向けに説明会を行い、6月から運用開始といった流れで、契約から6ヵ月ほどで運用に至りました。

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メンバーへ利用定着させた5つのポイント

――先ほどおっしゃったように、新しいツールを社内で定着利用させることは容易ではないと思いますが、実際に御社の中でどのような取り組みをされたのか教えていただけますか。

大川:利用定着においては、次の5つがポイントだったと分析しています。

利用定着5つのポイント

1.経営層の協力
2.リソース確保
3.負担を減らすための事前準備
4.現場営業へのフォロー体制
5.入力しないと“困る”仕組み

大川:冒頭で説明した通り、導入前に他社にCRM導入についてヒアリングしたのですが、多くのケースで部分的にしか使われておらず、それは社内メンバーの過去のツール導入経験とも一致していました。そうした情報をもとに、CRM導入の難易度の高さと、マネジメント層がコミットすることの必要性を共通認識として持つことができ、マーケティングプラットフォーム事業の取締役が旗振り役を買って出てくれました。複数の経営メンバーがコミットする体制で進めていけた点は大きかったと思います。

 当社は経営陣から導入プロジェクトが始まったため社内での理解を得ることは難しくありませんでしたが、より多くのメンバーがメリットを感じるように導入の合理性を説明すること。特に、データ管理による生産性の向上や工数削減効果を可能な限りイメージできるように示すことを意識していました。

増田:2点目のリソース確保では、チームの拡充を図りました。契約から当初の3ヵ月は、私と大川、担当エンジニアの3名で、うちフルコミットしているのは私だけというメンバー構成でしたが、各所でミーティングや準備を重ねるうちに要望とタスクが膨らみ、スケジュールが押してプロジェクトが回らない状況に陥ってしまいました。そこで、Techチームからの参画人数を増員して分業体制を確立することでスピード感のある導入を可能にしました。

 3点目の事前準備については、まず色々な場所で分散管理されていた会社情報と担当者情報を全チームから回収してHubSpotに移行し、「ログインしたらすぐに使える」状態にしていきました。また各国にヒアリングし、商習慣に合わせた営業パイプラインへのカスタマイズを実施。さらに、営業がすぐに使える「売上レポート」を作成しておきました。

 事前準備のあとは、ポイント4点目の営業へのフォローとして、「導入ガイダンスの実施」「社内にHubSpot Q&A専用チャット窓口を設置」「オンラインwikiページの開設」の3つのプログラムを実施しました。専用チャットは現在も稼働しています。

増田:最後のポイントとなる5点目、入力しないと営業メンバーが困る仕組みについては、営業ミーティングにHubSpotのダッシュボードが使われるということを周知し、文字通り入力しないと困る状況を構築しました。さらにはカントリーマネージャーやマネジメント層のミーティングでも使用することで、マネージャーが常に数字を確認し、入力不足が発覚した場合には各メンバーへ入力を促す流れを作りました。

最終ゴールからの逆算が成功の鍵

――フォロー体制が手厚いですが、これだけのリソースを投入できた理由は何でしょうか。

大川:やはり経営層の中で「情報をリアルタイムに一元管理する」という原則が定まっていたことでした。その最終的なゴールから逆算して必要なサポートメンバーをアサインしながら、フォロー体制を構築していけました。

 その一方でHubSpotさんにも、当社独自のカスタマイズ要望をはじめ様々な相談に対して迅速かつ的確にご対応いただき助かりました。HubSpotの定着をゴールに見据えて、丁寧にサポートをしていただいている印象を持っています。

――導入を浸透させるプロセスは大変なものだったと想像しますが、中でも困難と感じたポイントはありましたか?

大川:HubSpot上の情報精度の向上に苦心しました。たとえば情報の入力漏れだけでなく、入力後にキャンセルや変更があったのに更新し忘れるなど、情報の精度を上げる上でのハードルが存在しました。

 解決策として、HubSpotをベースとしたダッシュボードの数字と会計数値をファイナンスメンバーが月次決算のタイミングでチェックし、数字に差違が発生した場合にはなぜ発生したかを報告してもらうような仕組みを構築しました。

 当初は乖離が発生することがありましたが、そのたびにマネージャーたちと議論を重ねて起こる原因を議論し、情報の精度を高めています。

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利用定着率はほぼ100%!売上も増加

――取り組みによって、実際の利用定着率はどうなりましたか。また現在HubSpotを使って全社的にどのように活用されているのかも教えてください。

増田:施策の結果、当初の導入スコープであったマーケティングプラットフォーム事業ではほぼ100%の利用定着率に達しました。

 活用に関していうと、やはり活動履歴のトラッキングが可能になったことが今までにない大きなポイントです。コンタクト情報を格納したプロパティに、「直近のコンタクト手段」「取引した営業メンバー」「対応してくれた担当者」「所感」などの項目を作って更新していて、その履歴を確認することでロジカルにアプローチすることが可能になりました。課題であったコミュニケーションロスもかなり削減できたと思います。

 また、営業のアポイント状況も数字で可視化できるようになったことで、新人育成もしやすくなったようです。

 マーケティングにおける活用では、Eメール機能を使って新規や既存顧客に向けて継続的なアプローチを行ったり、休眠顧客の掘り起こしに役立てたりするなど、コンタクト情報を一元管理しているからこそできる施策が打てるようになってきています。

――2020年6月に本格運用を開始されて約1年が経過しましたが、現在までにどのような成果があらわれていますか。

増田:HubSpot導入前後の売上進捗を調べたところ、各国で軒並み上昇傾向が見られました。次の図表は、導入期である「2020年第2四半期」と比較した、同第4四半期の関連事業の売上増加率を示しています。

増田:カンボジア、フィリピン、マレーシアでは第4四半期に400%超の成長を達成していることがわかります。複合的な要因による事業成長ですが、すべての拠点のマーケティングプラットフォーム事業が成長していることから、HubSpot導入とそれに伴うプロセス改善による貢献も感じています。

――社内からの評価はいかがでしょうか。

増田:複数ヵ国における営業組織を見ているマーケティングプラットフォーム事業の責任者からは、HubSpotを導入したことで業務改善に大きな影響があったとの声が届いています。

 具体的には、これまで個別のツールで管理されていた「顧客データ」と「パイプラインの管理」をHubSpot内で一元管理するようになったことで、データ集計やそれまで煩雑化していたファイルの管理が楽になったり、新しいメンバーに新規営業を実施してもらう際も過去の担当者とのコミュニケーションを通じて理解してもらう工程がなくなったりで、週7時間ほどの業務効率化を実現できたとのことです。

 パブリッシャーグロース事業部からは、それまでマーケティングにおけるリスト作成や施策結果の管理と顧客データベースの同期が課題だったものの、導入後はHubSpotの顧客データをベースとしたマーケティング施策が可能になったこと、メール開封率やクリック率をモニタリングして、数値の高い顧客をホットリードとして営業にパスできるようになったことなど、今までできていなかったことに取り組めるようになり、新規の売上が創出できているという話も聞いています。

大川:実感としては、HubSpot導入を契機としたプロセス改善により全社で同じ数字を見るようになり、何がどう起こっているかをリアルタイムに捉えられるようになったことで、マネジメントの目線が合い、営業プロセスの統合や情報をすり合わせる面でプラスになっていると感じています。

5年、10年と運用を続けられる仕組みを社内に根付かせたい

――最後に、この先どういう形でHubSpotを活用されたいか、今後の展望をお聞かせください。

増田:プロジェクトを始動して1年。沢山の部門と人に理解・協力をもらいながら、運用を軌道に乗せることができました。次は「情報をリアルタイムに一元管理する」という目標に向けて、HubSpotを全事業部門に導入する動きを加速させたいです。

 さらに、これからは数字の大小だけでなく「結果を出すための行動」にも注目し、生産性の観点から営業活動の質を高められるような活用体制を構築していきたいです。

大川:弊社の主要事業の1つであるマーケティングプラットフォーム事業の顧客案件情報の統一に加えて、会計システムとの統合など、この先もしっかり進めていかなければと思っています。

 あとは、今はプロジェクトを組んでサポートしていますが、ツールの導入はあくまでも手段であって、運用はずっと続きます。5年、10年後も続けられるようにするためにも、今後もプロセスの改善を続け、不要となったプロセスや情報を減らしたり、継続的な運用・改善できる組織づくりを目指したいです。

 そういう意味でいうと、我々はある程度組織が大きくなった状態でスタートしましたが、ビジネスモデルが固まっている事業フェーズ以降あれば、早い段階で始めた方がツールに何かを入れることがカルチャーとして浸透するのも早いはず

 今回実際に取り組んでみて、過去のデータの活用やその工数に関連して、もっと組織が小さいうちに取り組んでいれば良かったと思うことが結構あったので、これから導入を検討している企業は、その点を考慮して早めに動き始めることを検討してみるといいのではないでしょうか。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/02 10:19 https://markezine.jp/article/detail/36282