価格=価値ではない。売り手が理解すべき2つの事実
1、Payableは個人的、流動的である
Payableは人によって、また状況によって変動します。たとえば、個人の偏愛はPayableを大きく変えるものです。ある野球選手の使っていたグローブは、ファンからすれば堪らない希少性を持ちますが、野球に興味のない人が見ればただの中古品かもしれません。雨傘は、晴れた日には無用の長物ですが、急な豪雨のときには一気にPayableが高まる商品の代表です。
「商品の価値と価格を合わせる」とはよく言われますが、価値とはその商品自体が固定的に有しているわけではありません。むしろ、価値を決めているのはそれにどれだけ払ってもよいかという買い手の心理であり、その“価値観”を理解することが売り手には求められるでしょう。
2、現実には、買い手はPayableを開示してくれない
図ではPayableの範囲をわかりやすく表していますが、現実にはこのようなことはありません。より安く購入したい、と通常考える買い手にとっては自分から「何円までなら払うつもりです」と告げるメリットはなく、たとえアンケートを採られても本音よりも安い金額を希望するでしょう。交渉術として当然のことです。
それゆえ、売り手は自分のターゲットとしている顧客層がどのような価値基準を持っていて、どの程度のPayableを考えているのかを推し量ることに躍起になります。経験則や市場の相場から当てる方法もあれば、データ分析から推定する方法もあります。マーケターのセンスとロジック、両面が求められるポイントです。
「売上」を追うか、「利益」を追うか
ここからはプライシングを行う際に押さえておきたい、2つの原則を紹介します。
商品の利益は[売上-費用]で決まり、売上は[販売数×価格]で決まります。また、価格が高くなると販売数は減少する、というのはよく知られた通りです。これらの単純な関係をグラフにしたのが次の図です。

横軸に価格を取り、縦軸に売上・利益と販売数を取ったグラフです。価格が高くなるほど販売数が減少するということで、販売数のグラフは右下がりです。販売数が少ないということは変動費も小さくなります。

先ほどの計算に基づいて、価格と売上・利益の関係を表すと山型のグラフになります。価格がゼロなら売上も当然ゼロ。そこから価格を上げていくことで売上も上がりますが、どこかのポイントでピークを迎え、価格を高くしすぎると今度は売上が下がっていきます。
このとき重要なのが、売上がピークとなる価格と、利益がピークとなる価格は異なるということ。また、費用が右下がりのため、一般に売上のピークよりも利益のピークは少し高い価格帯に位置するということです。
言い換えれば、販売数や売上を重視したプライシングをしていると、利益の観点ではベストではない選択に繋がってしまいます。マーケティングやセールス部門が主導し、割引販売やプロモーションを繰り返した結果、販売数と売上は伸びた一方で利益を損なってはいないでしょうか。このような“販促脳”や、“販促偏重文化”には注意したいものです。