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来たれ!デジタルマーケター、音楽業界の現状と課題

今、令和維新が起きている? ヒットの方程式が崩れた音楽ビジネスでマーケターが意識すべきこと


デジタル化に伴い増加するリスナーとアーティストとの接点、選択肢。音楽業界では従来あったエコシステムもヒットの方程式も通用しないという。それは新しいルールを作るチャンスでもある。音楽プロデューサー 山口哲一氏と、ソニー・ミュージックレーベルズの梶望氏が今、音楽ビジネスに必要な視点を語り合った。

楽曲ができて、初めてマーケティングが始まる

山口:梶さんは現在、EPICというレーベルで宇多田ヒカルさんやいきものがかりさんを担当されていますね。具体的な業務領域はどのようなものでしょうか?

梶:私はいわゆるマーケティングにおける責任者です。責任の範囲は非常に広く、音楽とパッケージ作り以外のほぼすべてに関わっています。

株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ 第3レーベルグループ EPICレコードジャパン 第三制作部 部長 兼 ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル マーケティング2部 チーフプロデューサー 梶 望氏
株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ 第3レーベルグループ EPICレコードジャパン 第三制作部 部長 兼 ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル マーケティング2部 チーフプロデューサー 梶 望氏

山口:たとえば、いつ売るか・どう売っていくかも梶さんたちが決めている?

梶:はい。ただ、音楽ビジネスは大きく二つに分けられます。一つは音楽すなわち作品を前提にしたビジネス、もう一つは人を前提としたビジネス。前者は主語が音楽になって、後者は主語が人やグループになります。それぞれでマーケティングの手法が異なり、私は長く音楽を主語にしたマーケティングに従事してきました。

 このケースは、アーティストがある程度「この曲を誰に届けたい」とか、「どういう風に聞いてもらいたい、世の中に受け止めてもらいたい」と意識して作品を制作していることを前提に、私たちはその意をくんだ上で、楽曲の持つポテンシャルをどう広げていくかを考えてプロモーションやマーケティング戦略を立てていきます。

山口:どのようなものをKPIとして持ってやってらっしゃるんですか?

梶:様々なものがありますが、会社に対しては単純に売り上げです。CDの売上枚数やストリーミング回数など、極めて定量的ですね。ただ、私の個人的なKPIは音楽作品をファンやリスナーにちゃんと届けて、お互いにハッピーな関係性をいかに構築するかです。主語によって物語が変わるように、音楽も作品や作者によって届ける相手や届け方は異なります。その作品がハッピーになれば、両者がハッピーになると思っているので、その最大公約数を見つけることを目指しています。

山口:定性的な目標から、数値的なKPIに落とし込む作業は楽曲リリースのどれくらい前になさるんですか?

梶:作品ができてからですね。作品を主語に置くビジネスの場合、曲を聴くまで売り方がわからないんです。アーティストも身を削って作品を生み出していますから、どう売っていくかなんて楽曲が出来上がる前にわかるものではないんです。

マーケティングは狩猟から農耕へ

山口:梶さんは長くレーベルで活躍されてますが、音楽のプロモーションやマーケティングの方法は変わってきたと感じますか?

梶:変わりましたね。CDの生産量がピークだった20年ほど前はCDの発売1ヵ月前が勝負でした。その期間中にどれだけ派手な露出をするか。最終的にはテレビに出ることが重要で、朝の情報番組に出たことがきっかけでヒットした例もたくさんありました。アーティストがいてメディアがあって、その先にCDを買ってくれるお客さまがいた。だから、メディアを通じて伝えていくことが絶対条件だったんです。

 メディアの影響力も非常に高かったので、考え方も純粋な露出の足し算でした。もちろん、限られた枠で露出を高く積み上げるために各社が知恵を絞っていました。しかし、極端なことを言えばメディア戦略に集中すればよかったわけです。

山口:いかにメディアに取り上げられるかが、宣伝におけるミッションでしたよね。

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/Studio ENTRE 代表 山口哲一氏
音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/Studio ENTRE 代表 山口哲一氏

梶:当然みんなが同じところを目指すので、ドラマのタイアップを一つ取るにしても、非常に大きな労力が必要でした。しかし、そこさえクリアすれば山の頂が見えていた。ヒットの方程式が立てやすかったんです。

 しかし、今はヒットの方程式がありません。リスナーとアーティストと作品が直接つながっている時代で、多種多様な接点が存在します。もちろんメディアの影響力は今もありますが、親和性やタイミングが以前より重要で、損なうと期待する効果が起こりません。ですから、入り口から出口までのストーリーとマイルストーンをきちんと考えていく必要があります。

 今はアーティスト側と楽曲を受け取る側の幸せだけを考えて、最適解を見つける必要があって、その解は一つではないこともわかってきました。そのため、マーケティングと楽曲の発売日もあまり関係なくなってきています。たとえば、YOASOBIや優里は楽曲のリリースから約半年後にブレイクしていますから。

 楽曲がエバーグリーンになる力を持っていれば、ある程度の年月をかけると曲は自然に育っていきます。そこにマーケティング視点で種をまいて耕して肥料を与えることで、より一層大きくしていく。今のやり方はそのようなイメージですね。以前は短期間で一気に狩り取る、いわゆる狩猟民族的なやり方だったので、狩猟から農耕へと大きな変化が起きています。

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。2013年までは書籍の編集をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

山口 哲一(ヤマグチ ノリカズ)

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/大阪音大特任教授/iU超客員教授 エンターテック分野で起業家育成と新規事業創出を行うスタートアップスタジオStudioENTRE代表。日本音楽制作者連盟理事、「デジタルコンテンツ白書」(経産省)編集委員などを歴任、コンテンツビジネスに提言を行う。 プロ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/10/25 18:07 https://markezine.jp/article/detail/37278

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