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来たれ!デジタルマーケター、音楽業界の現状と課題

今、令和維新が起きている? ヒットの方程式が崩れた音楽ビジネスでマーケターが意識すべきこと


海外への意識が重要

山口:梶さんは若い人の育成や監督をする立場でもありますね。若い人に伝えるよう心がけていることは何ですか?

梶:いろいろとあります。まず、私たちの仕事はアーティストという一人の人生に深く関わり左右するものだと自覚を持つこと。そして、音楽業界のエコシステムが作用しなくなったことを踏まえて、今は次のエコシステムや音楽家とリスナーの幸せを作れるチャンスであることも、意識してほしいですね。

 さらに、ネットワークも重要です。おもしろい人の周りにはおもしろい人が集まります。おもしろいなと思う人とは自分の時間を削ってでもコミュニケーションをとる。すると、どんどんおもしろいことが広がる。これがエンタメの極意です。築いたネットワークがいつか絶対に役立ちますから。仲間作りが重要です。

 音楽ビジネスのマーケティングは、誤解を恐れずに言えばアーティストから「屏風の中の虎を捕らえよ」的な課題がたくさん与えられるんです。限られた予算の中でアーティストの理想と現実との整合性をとりながら、世の中にきちんと届ける必要があります。自分の周りに何人の一休さんがいるかで、トンチの返し方が格段に変わります。

 あとは海外を意識することも大切ですね。

山口:一休さん的なトンチというのは良いお話ですね。そして、デジタル化とグローバル化はコインの裏表ですね。SpotifyやAppleMusic、YouTubeはすべて世界とつながっていますからね。自動的にグローバルにできるし、なっちゃう現状がありますよね。

梶:特にYouTubeの存在が大きいですね。国境や時代、言語といったものは関係なく、いいものはいいと伝える最強のツールだと思います。昔の曲と今の曲が同じ価値で語られる時代になったと言えます。たとえば、いきものがかりが2008年に出した「ブルーバード」という曲は今でも世界で広く聞かれているんです。

いきものがかり『ブルーバード』。海外からのコメントも多くついている。

山口:J-POPの名曲って意外と世界的な人気がありますから、チャンスはありますよね。ABサビというフォーマットなど、日本独自の「進化」は意識したいとことです。日本語の響きが好きという海外ファンも少くありません。

梶:そうなんです。このデータを知った上で次どう生かすかを考えていこうよ、と若い担当者に伝えています。

今、議論は「音楽はなぜ必要か?」から始まっている

梶:先ほどエコシステムの話をしましたが、今レーベルはいろいろな意味で過渡期に来ています。これまではレーベルがプラットフォーマーで、CDというフォーマットが決まっていて、再販制度に守られていて価格競争もなかった。しかし今や、外部のプラットフォームが台頭し、作品の受け手側がマーケットを作っています。関係性に変化が起きているんです。

 楽曲の受け取り手側のハッピーを考えつつ、しかしアーティストがボランティアにならないように、次の作品をきちんと生み出すための資本を生み出す新しいエコシステムを作っていく必要があると考えています。

 これが今、エンタメの作り手と受け手の間にいる我々に与えられた最大の課題です。言い換えれば、今まで得られていたレベニューをいかにカバーするのかですね。そのためにはデジタルを中心に対策していかざるを得ない時代にもなってきています。正しいエコシステムを作っていくべきだし、作った人間が勝てると思っています。ですから20代・30代の若い人たちにはその急先鋒になってほしい。それが私の正直な気持ちですね。

山口:音楽のビジネスモデルがデジタルで完結するようになると、方法論がまったく変わってきますよね。そのなかで、梶さんのお話を伺うと作品やアーティスト、ファンとの関係に対する姿勢は一貫していて、音楽の本質をきちんと見ていらっしゃるように感じます。変化が激しいからこそ、重要な視点ではないでしょうか。

梶:セオリーが見えなくなったがゆえに、本質を見ざるを得なくなったんです。そのため、これまでのやり方がとても不健康だったのかもしれないと改めて感じるほどです。そして、アーティストの中にもレーベルをはじめとした中間業者に対し懐疑的な気持ちをもつ人たち人が出てきています。

 ですから、今までのやり方だと駄目だったら、違うやり方も含めて根本的に考えていく必要がある。「音楽って何のために必要だったんだっけ?」、「人ってどうして感動するんだっけ?」から考える必要があるんです。そういう議論を20年前にはしていなかったんですよね。もちろん、この作品で感動できるか?はいつも議論してきましたが。

 今は何か新しいモノやコトを作るときには「そもそも何で人って音楽が必要なの?」という、極めて哲学的なところから議論が始まっています。この原点回帰は素晴らしいことだと思います。

山口:特にコロナ禍で音楽は不要不急と言われていることに、僕ら音楽関係者は非常にフラストレーションを感じていました。人生に必要なものとして音楽を届けていく時に、本質への視線が大切ですよね。

梶:本当に、音楽の必要性や大切さを改めて見つめ直す時代が来ていると感じています。だから、自分たちはどうあるべきかを見据えた上で、立ち位置を考えていかないればならないと思うんですよね。目先の成果を考える必要性もありますが、次の時代の音楽の幸せを考えていきたいと常に思っています。

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この記事の著者

山口 哲一(ヤマグチ ノリカズ)

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/大阪音大特任教授/iU超客員教授
エンターテック分野で起業家育成と新規事業創出を行うスタートアップスタジオStudioENTRE代表。日本音楽制作者連盟理事、「デジタルコンテンツ白書」(経産省)編集委員などを歴任、コンテンツビジネスに提言を行う。 プロ作曲家育成「山口ゼミ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/10/25 18:07 https://markezine.jp/article/detail/37278

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