音楽マーケティングの最優秀賞を選出
2021年10月31日、音楽ビジネスにおけるマーケティング人材の育成に特化したビジネス講座「音楽マーケティングブートキャンプ」第1期生の成果発表会、「音楽デジタルマーケティングコンペディション」が実施された。
同講座では、4ヵ月のカリキュラムのうち後半の2ヵ月はチームに分かれ、実際にアーティストとともに課題およびKGI/KPIの設定、施策立案から実践を行った。発表会では各チームが取り組みと成果を発表。審査員の伊東宏晃氏、鈴木貴歩氏、ジェイ・コウガミ氏がデータ収集分析力・プランニング力・実行力・発信力・成果を5段階で評価し、最優秀チームを選出した。
受講生は学生や現役マーケター、実際に音楽活動をしているアーティストなど多岐にわたり、発表された取り組みも「ベテランアーティストの認知拡大」や、「海外ファンの獲得」、「広告効果の効率化とROI確保」など多様であった。その中で最優秀賞に輝いたのは、2021年9月29日にユニバーサルミュージックからメジャーデビューアルバム『呼吸』をリリースしたアーティスト「あれくん」と組んだ、「チームあれくん」だ。
彼らが目指したのは「“あれくんというアーティストが好き”というファンを増やす」こと。そのために、YouTubeチャンネル登録者数とSpotifyフォロワー数増加をKPIにアルバム販売前、前日~当日、販売後のフェーズで合計26件の施策と、114回のアクションを実施した。
目標数値の達成には至らなかったが、YouTubeチャンネルの登録者約1万4,000人増・Spotifyフォロワー約6,000人増を実現。また、「あれくん」に言及するSNS投稿も増加した。
異なるマーケスキル、音楽業界知識
チームの構成は4名。学生時代にエンタメビジネスを学び、3年間のマーケティング業務・データアナリストを経て現在Webメディアコンサルタントとして従事する稲氏。大学でマーケティングを学び、16年間リサーチ分野でキャリアを重ね、マーケティングのDX業務に従事する赤間氏。シンガーソングライター・作詞・作曲家の大津氏、音楽大学を卒業し、中学校で音楽教諭を務める土谷氏だ。
受講目的は、自身の持つマーケティングスキルと音楽ビジネスを掛け合わせて見えるものは何か? から、アーティストの命題である収益化のヒントを得るためまでそれぞれ異なる。そんな彼らと、アーティストサイドをつなぐ役割を担ったのが、講座運営の一人である、あれくんのアルバム『呼吸』のプロデューサー脇田氏だ。
「講座の実践期間のちょうど中間にアルバムがリリースされるスケジュールでした。先行配信の楽曲もリリースされていて、既に戦いは始まっている状態。プランもリサーチも実行も、同時に全部進めてもらう状況でした」と脇田氏は語るが、チーム「あれくん」は具体的に何を意識し、施策を進めていったのだろうか?
「この曲が好き!」から、アーティストのファンを生み出す
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回、「あれくんのこの曲が好き」に留まらず、「あれくんというアーティストが好き」なファンを増やすことをKGIに設定しています。それは何故でしょうか?
稲:あれくんは、2018年よりSNSを中心に活動開始し、演奏動画の投稿からブレイクし、初代弾き語りTikTokerとして話題になり、メジャーデビューを果たしたアーティストです。彼のデータを見た際に、カバー曲動画を投稿しているYouTubeと比較して、オリジナル曲メインのSpotifyはもっと伸ばし、広める必要性があると感じました。
つまり、リスナーの主語はあれくんというアーティストそのものより、過去のヒット曲やカバー動画に置かれる傾向にあると分析できたのです。そこで、アルバムリリースをきっかけに、曲が好き・歌声が好きから一歩進んで、あれくんが好きというファンをさらに多く生み出せないかと考えました。
“あれくんが好き”という人は「楽曲や動画を継続的に聴きたい」と考えると仮定し、KPIを「チャンネル登録/フォロー登録」と設定YouTubeチャンネル登録者数と、Spotifyフォロワー数をKPIに定めて様々な施策を展開しました。KPIの数値は、あれくんのように何らかのプラットフォームで一度バズったアーティストの数値を参考に設定しました。ただ、数年の累積値に対して、数ヶ月で同じ水準にするのは無理があったとも思っています。
赤間:今回は1回目のPDCAを回す段階だったので、何をどれくらいすると、データがどう動くかといった情報も一切ない状況でした。そのため、逆算的に他のアーティストを参考にした側面があります。今後も施策が進めば、どこにどれくらい投資するかを考えられるようになると思います。