デジタルでヒット曲が出た理由とは?
山口:僕は梶さんと結構長いお付き合いですが、ずっと「デジタルだけではヒットが出ない」と言ってたのに、今年くらいに「デジタルだけでヒットが出るようになったんだよ」とおっしゃったじゃないですか。それが非常に印象的です。
梶:だって、2020年なんて本当に、デジタルでしかヒットが出ていないじゃないですか(笑)。

山口:梶さんは現実をリアルに見るし、切り替えが早いところも素晴らしいですね。デジタルでヒットが出るようになった理由はなんだと思います?
梶:ユーザーとのコミュニケーションが変化してきていることも一因ですが、コロナ禍でライブもできなくなり、コミュニケーションの場がスマホベースになったことで一気にデジタルでのヒットが加速した印象です。
また、弊社の場合はアニメやスマートフォンゲーム含めて社内の成功事例がシェアされていることも背景にあると思います。鬼滅の刃やYOASOBI、優里などの成功事例を本音ベースで聞くことができています。先日もTikTokのヒットについて徹底的に調べたチームが、BPMや使用ワードの傾向を共有してくれました。成功してる人の話を聞くことでお互い切磋琢磨しています。
山口:知見の共有は大きいですね。たとえばTikTokでの戦いって、アルゴリズムとの戦いじゃないですか。無名の人の曲でも200回くらいは再生されます。つまり、その曲を好きかもしれない人に見せる技術がある。だから無名の曲が突然、何百万人に聴かれるケースもあるんですよね。このアルゴリズムをどう利用するかを考える時に、ケーススタディーがあるのは強いですよね。
梶:さらに、カウンターを考える際のヒントにもなります。今はこうだから、2年後こういうことができるんじゃないの、と。
山口:確かに! エンタメのおもしろさは常に逆張りがあることですからね。今はイントロがどんどん短くなってヒット曲も2分以下のものが増えていますが、絶対に5分以上の曲からヒットが出ると思うんです。マーケターにとって逆張りは少し難しいころがあると思いますが(笑)。エンタメでのマーケティングの場合は、経験のある人が少し逆張りもやってみるようなバランスが多分必要でしょうね。
梶:そうなんですよね。あるアーティストが雑誌のインタビューで「カルチャーは、既成概念をぶっ壊してからこそカルチャーを作ったっていえるんだ」と語っていて、その通りだと思っています。トレンドを一気に変えることができるのがエンタメの醍醐味ですよね。
音楽業界の既成概念に飲まれてはいけない
山口:今、僕はマーケターや、マーケターを志す学生さんに向けて音楽マーケティングブートキャンプという講座をやっています。彼らは音楽知識が少ない反面、ビジネススキルは非常に高く、音楽業界に転職したいと考えてくれている人も結構います。
他分野でマーケティング経験のある人が音楽業界でマーケティングをする時には、何に気をつけたほうがいいと思いますか?

梶:音楽業界の既成概念に飲まれないことですね。プロフェッショナルによって蓄積された経験やトンマナ、お作法が音楽業界にはたくさんあります。今まではそれを知らないと生きていけない業界でした。でも、今、それでやってきた人たちは、自分も含めてみんな行き詰まっているんです。
ですから、他の業界のマーケティングの作法や知識を持った人が「こうすれば音楽業界は180度変わる」という気概をもって飛び込んだほうが、成功率は絶対高いと思います。感覚として、音楽ビジネスは令和維新が起こっているような状況ですから。
山口:そうなるとフリーランスのマーケターと事務所が組んだり、場合によってはDIYのアーティストとインディペンデントのマーケターが組んで、TuneCore Japanで配信してヒット曲を出すといったケースも期待できますね。
梶:今後はレーベルじゃなくて、人にスポットライトが当たるようになると思います。海外では各ファンクションにスペシャリストがいるように、この人と仕事がしたいという時代が来るのではないでしょうか。弊社内でも、若いマーケターは会社の看板としてどんどん表に出していきたいね、と話しています。
もちろん、レーベル自体はなくならないとは思いますが、立ち位置は変わっていくでしょう。その中で自分はどうあるべきかを考える時期に来ているんだと思います。ですから他分野から来る人に対しても、この人と一緒にやったらおもしろそうと思える人を僕らも求めています。
山口:組織に入るにしろ、フリーでやるにしろ、自分のブランドを磨いて仕事を請け負えるようになることが重要なわけですね。