経営理念・経営戦略に紐づいていることが最重要
――先ほどパーパスの重要度が上がっていることに言及いただきましたが、ダイキン工業さんはどのように対応しているのでしょうか。
まずはブランディングの全体像からご説明します。ダイキン工業の広告宣伝グループでは、ブランディングの方向性を固めるために、次の3要素を整理しています(図表1)。
『実務家ブランド論』(宣伝会議)では、(2)Brand PurposeをBrand Promise(約束)、としていたのですが、意味するところはパーパスとほとんど変わりませんので、作り直すことはせず言葉を置き換えています(やはり、パーパスは以前からあったのです!)。ただし、このPurposeないしPromiseを、より世の中を意識した内容にチューニングする必要はあると考えています。
今ご紹介した3つの“ブランド○○○”を使っているのは広告宣伝グループ等のコミュニケーション部門だけです。そして、「私たちは空気であらゆる課題(人としての困りごと、社会課題、災害や環境も含めて)を解決していく会社なのだ」という方針は、中期経営計画「FUSION20」の目標「英知と情熱を結集し空気と環境の新たな価値を協創する」と根本は変わりません。社内目標を生活者にわかりやすいメッセージとして翻訳しただけです。そして社会に向けても、この翻訳したメッセージを発信しています。ブランド○○○を策定するのが目的なのではなく、その意味するところが社内外に明文化・共有されていることが、より本質的だと思っています。
きれいごとで終わらないパーパスを見つけるために
――これまで「世の中よし」を強く意識してこなかった企業は、そうした要素を一から整理することから始めなければいけないと思います。何から始めればよいのでしょうか。
経営理念と中期経営計画の行間を読んで、これをパーパスに翻訳しようとするとどうなるのだろう、と考えてみるのが良いと思います。
よく見られるのは、経営理念や中期経営計画の上位概念としてパーパスを置いてしまうケースですが、企業活動である以上、経営理念、中期経営計画に書いていないことを掲げても、実効性がありません。本当に成し遂げたいと思っていることにならないからです。私はパーパスやブランドは、経営理念や中期経営計画のしもべだと思っています。
たまに他社さんから「新しくブランドパーパスを作ろうと議論をしていたら、経営理念とほぼ同じになってしまいました。これではまずいので、やり直さないといけないんです」とご相談を受けることがありましたが、これは議論が正しい方向に進んだ現れです。
ただ、経営理念や中期経営計画を読んでもパーパス的な要素がまったくない、儲けることしか書いていないという場合もあると思います。その時は、「ではこの経営戦略を実行し5年後成功しているとすれば、その過程で我が社は何をしておかなければいけないのか」をバックキャストして考えることです。そうして見つけた要素は、中期経営計画の成功の要諦であり「きれいごと」ではないものになっているはずです。
