※本記事は、2021年11月25日刊行の定期誌『MarkeZine』71号に掲載したものです。
会社を牽引していく若手社員たちが共感できる理念に
住友ゴム工業株式会社 経営企画部 向井奈都子(むかい・なつこ)氏
2016年住友ゴム工業入社。人事総務部に配属され、人事業務(異動・考課等)に携わる。2019年に経営企画部に異動し、企業理念体系を再編・整備するプロジェクトを担当。新しい企業理念体系「Our Philosophy」の策定、Purposeの導入に携わる。現在はOur Philosophy浸透活動の事務局および、社長直轄の基盤強化プロジェクトBethe ChangeプロジェクトのPMO(Project Management Officer)を担当し、社内の組織風土活性化・変革に携わる。
――住友ゴム工業は2020年12月、これまでの企業理念を再編・整備し、新しい企業理念体系として「Our Philosophy」を発表されました。企業理念の再編には、どのような経緯や狙いがあったのでしょうか。
制定以前は、長期ビジョン「VISION2020」をグループ全社員の共通目標として取り組んできましたが、そちらで定められていたのは2020年度までの指針でしたので、次に目指すビジョンが必要でした。見直しが始まったのは、「Our Philosophy」が発表されるより1年半ほど前の2019年5月から。会社の組織風土が課題になっていたため、数値中心の目標の前に、人材や組織にフォーカスしたものを作ろうと、元々人事部で働いていた私と別の部署から担当部長が招集され、次期Vision策定のプロジェクトが動き始めました。
プロジェクト始動時、当社には「VISION2020」、重視する価値観・行動原則を定めた「住友ゴムWAY」、そして企業理念があり、その三つがバラバラでつながりが分からない状態でした。それではそれぞれがいくら大切だと訴えかけても、その背景やなぜ大切にすべきなのかに対する「WHY」が腹落ちしないとの課題意識を抱えていました。
加えて、2年に1度取っている社員アンケートの結果を見ると、“大企業病”と言われるような風通しの悪さを感じている人が多かったり、急にグローバル化が進んだことで社員が増え、その分進むべきベクトルにズレが生じたりしている様子もうかがえたことから、住友ゴムの存在意義=パーパスを基にした再編を考えるようになっていきました。
――「Our Philosophy」では、「存在意義=Purpose(パーパス)」である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」を頂点に、「信念=Story」、「ありたい姿=Vision」、「たいせつにすべき価値観=住友ゴムWAY」が続く体系となっています。このような形で再編を行われた理由についても教えてください。
「Our Philosophy」は、創業以来約400年に亘って受け継がれてきた“住友の事業精神”をベースに構成されています。「Purpose(パーパス)」は、住友ゴムが提供するすべてのサービスやバリューへの答えだと思うので、これを頂点に据えたピラミッドの形にしました。下に続く「Story」は、時間が経っても社員が込められた思いや背景に共感できるようにしたいと、「Purpose(パーパス)」の背景にある住友ゴムの「信念」を表現したものです。
「Vision」は一般的に、社員に対するメッセージが強いもの、対外的なメッセージが強いものの2種類が存在するのですが、組織風土を良くしたい思いがあったので、社員向けのメッセージにフォーカスしてまとめました。これは、「Purpose(パーパス)」を体現するために企業としてどういう姿でありたいかを示すもの。それらの下支えとなる「住友ゴムWAY」は、「Vision」を実現し、「Purpose(パーパス)」を体現するために大切にすべき価値観です。以前は4つの価値観、行動原則は11個もあったのですが、覚えやすさやつながりを考慮して3つにしぼりました。社員と「住友ゴムWAY」について話してみると、人によって解釈や捉え方にバラつきがあると感じたので、定義もつけて意味合いがきちんと伝わるよう意識しました。
また、この「Our Philosophy」を一言で表現できるものとして、「ゴムの先へ。はずむ未来へ。」というスローガンも作りました。
――「Our Philosophy」を作り上げるまでの過程を教えていただけますか。
事務局メンバーとしてメインで動いたのは3〜4人。そのメンバーで社員アンケートの結果や経営者へのインタビューから、まず事務局案のドラフトを作りました。
その後に、その案についてどう思うかをオンラインや対面で社員にヒアリングしてブラッシュアップをかけていったのですが、その中で言葉が短いとメッセージが伝えきれずに住友ゴムらしさが出なかったり、逆に長すぎて何を伝えたいかわからないという声も出てきたりしました。そうした案をまとめ上げる段階からは、プロのコピーライターにも手伝ってもらい、今の形に落ち着いていきました。
言葉を作るのは思いのほかスムーズにいったのですが、パーパスという概念を理解してもらうことは想像以上に困難でした。はじめは「なぜパーパスが必要なのか?」という声も一部の経営層や社員からあったのですが、そこは経営トップ、私や他の事務局メンバーとで、しっかりと対話を重ねていきました。後から聞くと、相当真剣な面持ちだったようですが、その本気さがプロジェクトを進める上で欠かせなかったと思います。
――向井さん自身は、プロジェクトに対しどのような想いをお持ちでしたか?
社内を見ると、今の経営層クラスの世代は、頑張るほど右肩上がりに成長して豊かになっていった時代を経験した人たちなのに対し、若手社員はある程度満ち足りた時代に育ってきたからか、仕事に対しても自分がやることの意味や、企業理念とのマッチングを大事にする傾向が見られるという世代間のギャップを感じていました。
なので、この先会社を牽引していく若手社員たちが共感できる指針として、また激動の時代の中で企業が生き残っていくためにも、パーパスが必要との気持ちは強く持っていましたね。